たりないもの
「……ッ…!」
十郎もミユキさんに圧倒されたのか、一筋の汗が十郎の頬を伝った。
「ねぇ〜…殺す気で来なよ…!」
「…ヤバそうな雰囲気だな……」
「………………」
ミユキさんは構えるわけでもなく、無造作に手を垂らしている。
「……!」
そんな時、十郎はミユキさんとの間合いを詰めて、思い切り水平に斬った。
「…さすがの切れ味…!」
しかし、斬れていたのはミユキさんの背後にある木だけだった。十郎は再び距離を取り、斬りかかるという、ヒット&アウェイ方式で攻めていた。
「なるほど…僕が攻撃という動作をできないようにしているのか……確かに…これだと防戦一方だね…それに体力を奪いながら…スキを探す事もできる……」
十郎とミユキさんが戦っている、そんな時に伍城さんが俺に話しかけてきた。
「……丁度いい…何故お前が未熟かを教えてやろう…」
「…何故……未熟か…」
そして、伍城さんは俺に説明し始めた。
「…お前は苦戦した事が無いからだ…」
「苦戦だと?」
「ああ…苦戦をしない者は……自信が付いてくる……その自信は…やがて過信へと変化する……」
自信が過信へと変化するか。俺は十郎とミユキさんの横で伍城さんの話を聞いていた。
「そして……順調に事が進んでいる時…人というものは油断する……」
「……………」
「お前は…躓く事が無かった故に……己の力を過信し…注意を怠っている……それこそが…お前が未熟な証だ」
確かに、俺はモンスターや人との戦いで苦戦する事が無かったからか慢心して、不注意になっていたのかもしれない……
「…それでは…どうすれば……強くなれるんだ…?」
「………!」
「……ッ…!?」
すると伍城さんが突然、俺の首を狙って手刀を繰り出してきた。なんだいきなり!?
「…ッ!!」
「……それだ…」
「…え……?」
伍城さんの手刀は、俺の首スレスレで止まっていた。俺は反応する事ができなかった。
「…一つ……どのような状況で襲われようともすぐさま対応できる集中力…」
「……し…集中力…ッ…?」
「…そして……」
集中力から、伍城さんはもう一つ続けて言った。
「お前はバーサークローとの戦いで攻撃を避けられた際…動揺していたな…」
「……あッ…」
俺はバーサークローとの戦いで、バーサークローの動きを予測できなかった。それで死にかけたんだ。
「………二つ……相手が自分の予測と反した動きをしようとも動揺せず…次の一手を考える冷静さ……」
「……………冷静さ……」
最後に伍城さんは、十郎とミユキさんを見ながら言った。
「……その二つを持つ事ができれば…童だろうと強くなれる…」
「…集中力と…冷静さ……」
……
戦いの最中、十郎は必死に考えていた。次の一手、また次の一手を。
「…さて……次はどうするのかな?」
「………!」
十郎は飛び上がり、空中から斬りかかった。そしてそのまま落下しながら追い討ちをかけた。
「……おぉ…」
ミユキさんの身体は無傷だ、あの連続攻撃を最小限の動きで避けたのだ。しかも何個こかは見てすらいなかった。
「そんじゃあ…一本ッ!!」
そして、ミユキさんは着地した十郎に向かって木刀を振り下ろした。木刀は十郎の後頭部に当たり、十郎は地面に伏した。
「あれ…?」
地面に伏した十郎は淡く消えていった。そうか、アレは十郎の魔法の【ファントム】で生み出した幻影だ!
「……ッ!」
すると、ミユキさんの背後に十郎が回り込んでいた。そして斬りかかった瞬間に、ミユキさんは凄まじい速さで腹に向かって木刀を振った。
「…むぅ……コレも違うか…」
ミユキさんが攻撃したものも幻影だった。本物の十郎はミユキさんの目の前に立っていた。
「……あと0.8秒…【ファントム】を発動するのが遅ければやられていました……」
「自分の幻影を生み出す魔法か…!……僕も似たような魔法を持ってるよ!」
そして、ミユキさんは続けて十郎に言った。
「…あとさ……君の刃には…殺意が込められていないんだよなぁ……」
「…………」
「もし僕を斬ってしまったら!……なんて事を考えてるのなら言っておくけど…僕は死んでも大丈夫な魔法を持ってるから安心していいよ!」
ミユキさんは笑顔で答えた。そして、最後に十郎に煽るように言った。
「まぁ…どうせ君では僕を殺せないから……殺す気で来てよ!」
「…………分かりました…!」
十郎は少しだけ眉間にしわを寄せているが、笑顔でミユキさんとの間合いを詰めて斬りかかった。




