レッドゾーンへの訪問者
[スケルトンウィッチ]
危険度A
己の身を超える魔法や、呪いに手を出して死んだ哀れな魔女の遺骨。単体ではあまり危険ではないが人やモンスターを惑わし、感覚を狂わせて仲間割れをさせたり、死亡したモンスターを意のままに操る、魔法も扱える。
『スケルトンウィッチ…』
十郎は刀の先端に鎌を形成し、大盾を構えるグレートオーク、そしてその真ん中に佇むスケルトンウィッチに斬りかかった。
「……!」
半径3mにいたグレートオークは、剣や盾ごと斬られて、消滅した。だが、消滅していたモンスターの中に、佇んでいたスケルトンウィッチの姿はなかった。
『…あれ……?』
その時、十郎は真後ろに気配を感じ取り、振り向いた。そこにはスケルトンウィッチが杖を十郎に向けていた。
「…!」
杖からは大量の暗黒の火球が召喚され、十郎に迫った。火球はそのまま、十郎に当たり、十郎を黒い炎で燃やした。しかし、燃えている十郎は淡く、霧のように消えた。
「こっちですよ」
スケルトンウィッチの背後から、十郎が斬りかかった、そしてその刃は正確に首を狙っていた。完全に油断していたスケルトンウィッチは反応できず、首が飛んだ。
……
「な…何だ…!?」
「……妖の群れが…!?」
俺がグレートオークと戦っていると、グレートオークは突然倒れ始めた。そして次々と消滅していくと、少し遠くに十郎の姿が見えた。
「十郎!……何が起きた!?」
「……このグレートオーク達を操っていたモンスター…スケルトンウィッチを倒しました……なので催眠術が解けて…消えたのでしょう」
どうやらグレートオークは死んでいたが、スケルトンウィッチの魔法で、傀儡として操られていた。そして、十郎がスケルトンウィッチを倒した事により、消滅したようだ。
「…そんな奴がいたとは……気付かなかった…」
「……凄いな…ジュウロウ…」
「いえいえ」
グレートオークがいなくなり、辺りを見回すと、何も落ちておらず、アリスの姿はなかった。
「………どこ行きやがった…」
「まぁ…先へ進みましょう…もしかすればギルドにいるかもしれません」
「…そうだな」
俺たちは石化した竜の下を通って、ギルドの方向へ向かって歩いていった。
「……ッたく…初っ端からこんな事になるとはな……」
「………僕も予想してませんでした」
「………………」
グレートオークの群れを倒して、再び静かな赤い大地が続いた。
「…ギルドまで残りどのくらいだ…?」
「……6kmです」
「………近いようで…遠いな…」
……
「……あの[斬葬殺し]が危険度Aモンスターの群れを簡単に蹴散らしたとよ…」
「ああ…らしいな………」
ギルドでは、十郎の話で持ちきりだった。戦士達は心踊らせていた。
「…向かって来てるんだろ?……ここに」
「一度戦ってみてぇな」
アリスはソファに座りながら、天井を眺めていた。すると、小鳥遊がアリスの隣に座った。
「……ッたく…せっかく来てくれた子達を試すような真似して…」
「ごめん、どうしても見てみたかったんだ、彼等の実力を…」
「…どうだった?」
「うん…幻影とはいえ危険度Aモンスターの群れを全滅させたのは凄いね……もしかしたら…このギルドのNo.5の実力を持ってんじゃない?」
十郎と梅岡の実力がどれほどのものか尋ねた小鳥遊に、アリスは話した。
「…それと……どうでもいいかもだけど…もう一人…子供を連れてたな…」
「子供?」
「うん…確か……桜郎…そんな名前だったような……」
「桜郎……」
小鳥遊は桜郎の事を知らないようだったが、ギルドの中に一人だけ、桜郎という単語に反応した男がいた。
『………桜郎…』
……
「……エミリア様…十郎と梅岡があの赤い大地へ到着したようです」
「…結構早いね……塔からレッドゾーンまではまぁまぁ距離があったはずだけど……」
下から白い執事がそう言うと、ボロボロになった漆黒のマントを纏い、黒いTシャツを着たエミリアは黒い館の屋根から飛び降りた。
「…それじゃあ…そろそろ行こうかな…」
「残念だが、お前がギルドへ行くことは永久に無い」
「え?」
その瞬間、エミリアの身体中に剣が突き刺さった。剣を突き刺したのは、白い執事と、黒いローブを纏う男達だった。
「……まぁ…本体はそう簡単には殺せないか…」
白い執事は後ろへ立つエミリアを睨みながら呟いた。
「……【陽炎】…か…」
「…どうしちゃったの?…突然襲ってきて……給料が少なかった?」
エミリアの問いに答えず、男達は斬りかかってきた。エミリアはナイフ一本で男達の剣をさばいていく。
「うーん…ゲームしてたからか……少し身体がしんどいな…」




