先駆けの主神
「……君達のように…神の手によって別世界へ移動した人間は時間の影響を受けない…つまり老化しないんだ……あ!…ちゃんと髪の毛とか傷は治るようにしといたけど」
「なるほどな…」
「…少し待ってください…それでは僕達が元の世界へ帰った時…時間のズレが生じますが…」
「……あ…確かに…」
この異世界は俺達のいた地球と同じ早さで時間が進む。だったら悪神ぶっ倒して、元の世界へ帰った時に俺達だけ若いなんて事があるかもしれない。リアル浦島太郎だ。
「……フッフッフ…そう言うと思って…君達がこの世界に行った後…僕の独断で君達のいた地球の時間を止めたから大丈夫さ!」
「…そんな簡単に時間って止められるのか…」
「それでは…大丈夫ですね」
俺は歳の事を聞いた後、再びホワイトに気になっている事を尋ねた。
「……ホワイトは悪神が何をしようとしてるのか…分からないのか?……会社の従業員なら性格とかどんな奴か分かってるだろうし…大体やろうとしてることを予想できるだろ」
「………………推測だけど…世界を人質に取って…僕に勝負を挑んで…負けを認めさせて代表取締役になろうとしてるとか?…僕との勝負で僕に負けと言わせれば代表取締役になれるし…」
ホワイトも悪神が何をしようとしたいのか、イマイチ分かっていないようだった。しかし、神の世界ってのは、リーダーである主神との勝負に勝てば誰でも主神になれるらしい。
「…じゃあ俺がホワイトに勝てば…俺が神の代表取締役になれんのか?」
「……そんなの考えるだけ無駄だよ……だよね…ホワイト!」
「まぁね」
エミリアがホワイトを見ながら言った。
「なんで?……人間でも神に勝てるってのは話で聞いたミノルさんが証明してくれたし…」
「悪神とはレベルが違うよ、レベルが」
「疑うのなら…一回勝負してみる?」
ホワイトはフードを脱いだ、背は一気に縮まり小学生のような見た目になった。
「……おもしれぇ…ミノルさんの話を聞いてから…神と戦ってみたくなったんだ…!」
「フフッ…」
俺達は外へ出た、朝日が眩しい中、俺とホワイトは向かい合った。ホワイトを朝日が照らしている。
「………梅岡さん…大丈夫ですか?」
「ああ……ホワイトよ……これで俺が勝って主神になっても…悪神はぶっ倒してやるから安心しろよ!」
「君が勝ったら悪神ぶっ倒せなくなるよ!」
まぁ、確かに俺が勝って主神になったら人に手を出せなくなる。つまり人間として活動している悪神をぶっ倒せなくなるな。
まぁ、その時は十郎が何とかしてくれるだろう。そして、会話が終わると少しの沈黙が続いた。ホワイトは全然動かない。
「………神にもスキがあるんだな!」
俺は地面に踏み込み、ホワイトに向かって思い切り殴りかかった。
「…なッ…?」
しかし…俺は意識が遠のいて膝を地面につき…倒れた……一体何が起きた?
「…一体……!?」
「………多分…このまま続けても…コレが続くよ…?」
ホワイトが俺の目の前でしゃがんで言った、すると十郎が困惑する俺に言った。
「………梅岡さんが殴ろうとした瞬間…ホワイトさんは梅岡さんの顎を殴り…瞬時に背後へ回り込んで膝カックンした後…目の前に戻ってきてきました…」
馬鹿な…俺が気付かない程のスピードでジャブをして…膝カックンをした後に前へ戻るなんて…アニメキャラかよ……
「…その時間…1.8秒…」
「………これでもゆっくり動いてあげてるつもりなんだけどなぁ…」
「……ヤ…バすぎる…だろ…」
……
「……参りました…」
「ホワイト君に勝つのは無理だよ……」
俺は少し休んだ後、ホワイトに頭を下げた。
「…ここまでとは……俺もまだまだ未熟だ…」
「………未熟じゃなくても勝てないよ…多分…」
「……なんで?」
エミリアさんが俺にそう言うので、俺は気になって尋ねた。
「……【先駆】という能力を持ってるからね…ホワイトとブラックは…」
「…先駆…?」
「うん!」
【先駆】
自分よりも身体能力の高い者が誕生した場合、その者の身体能力の1億倍の身体能力を得る。自身が持たない能力を持つ者が誕生した場合、その者が持つ能力を完全無効化し、その能力の上位互換を得る。
「…なんだよソレ……絶対勝てねぇじゃん…」
「敵無しですね」
「……まぁね……神だからね…」
【先駆】まさかホワイトがそんなヤバイ能力を持っていたとはな。
「………それでは…ホワイトさんとブラックさんが戦った場合は…どうなるのですか?」
「…多分…決着がつかないだろうね……永遠に殴り合わなければならない…」
十郎が尋ねると、ホワイトは少し考える素振りを見せて答えた。するとスカーレットさんが言った。
「…普通の生物が主神に勝つ方法は……頭脳戦しかない…」
「……頭脳戦?」
「ああ……ゲームとか……それならば勝てる可能性がある……勝負は何でも良いからな」
「…ふむ……」
俺達はいつのまにか、主神の話で持ちきりだった。




