少年の依頼
「何日も前から…だと…?」
「うん!」
エミリアは目は笑っていなかったが、笑顔で頷いた。
「……君が悪神を瀕死にするのを待ってたんだ…瀕死にすれば神術は解除されるからね」
「それで…アンタは何故ここに来たんだ?」
「質問が多いね」
「まぁな」
するとエミリアは俺の質問に、即答で答えた。
「………元の世界へ帰る為…」
「…俺が悪神を殺したら元の世界へ帰れるんじゃないのか?……アンタがいなくても大丈夫だったろ」
「そうもいかんのだよ」
エミリアはナイフを構えた、するとナイフに、赤黒い瘴気が発生し始め、ナイフは黒色になった。
「……これはね…神斬りと呼ばれた刀の持つ神斬りの力をコピーしたものだ…この神斬りじゃないと…神は殺さない…」
「要するに…アンタは俺が悪神ぶちのめして…結界が解除されるまで待っていた…そして解除されたから神斬りをしに来た…というわけね」
「まぁ…そういう事だね」
すると、エミリアは俺の持つ刀をジッと見た。そして「えっ?」と声を出していた。
「……え?…何でソレ持ってるの?」
「え?…これは…貰った刀だけど…」
「ウソ!?」
エミリアは刀を近くでまじまじと見て、息を飲んだ。
「うぉぉ…スッゲ…本物初めて見た…!」
「え?…これ神斬りなの?」
「そうだけど………なんだよぉ…!……それじゃあ僕が来なくても良かったじゃん!」
刀を見て、エミリアはその場で座り込んだ。この刀、確か樹一郎さんのものと同じ刀だ。それじゃあ樹一郎さんの刀は神斬りだったのか。
「……とりあえず…桜郎にコレを戻さないと…」
「神の力…か」
俺は倒れている桜郎の近くへ行き、神の力を胸に入れた。すると桜郎の眉が動き、心臓の鼓動も聞こえた。良かった……
「…ミ……ノ…ル…」
「喋るな…休んでろ…」
エミリアの方を見ると、エミリアは悪神の目の前に立っていた。神斬りで斬るつもりか?
「……うお!?」
その瞬間、城が揺れ始めた。俺は桜郎を抱きかかえて、立った。
「なんだ!?」
「……どうやら…ゲームによくある自爆イベントみたいだね…!」
「クソ…早く悪神を神斬りで斬って脱出しないと!」
しかし、エミリアはその場を動かない。何をしているんだ!?
「…君は行きなよ!……僕が悪神の始末をしておくからさ!」
「そんな…大丈夫なのか!?」
「大丈夫だよ!」
そうこうしている間にも、城は崩れ始めている。早く出ないとヤバい!
「……死ぬなよ…王サマ…!」
「…分かってるよ!」
俺はエミリアに一言そう叫んで、桜郎を抱きかかえながら元来た道を戻っていった。
……
「……ヤバイな…」
九階に下りると、床に大きな穴が空いており、蛇とモンスターの姿はなかった。蛇…生きて脱出していると良いが……
「うお!」
大扉を蹴り破って廊下へ出ると、壁が壊れて無くなっていた。危うく落ちる所だ。この高さから落ちたらグシャグシャだな。
「いや…落ちた方が良いかもしれない…」
俺はステータスを確認した、俺にはまだ【風立我生】が付与されており、身体能力が上がっている。それに階段から下りてたら間に合わないだろうしな。
「……南無三…!」
地面を蹴って飛び降りた、やはり怖い。俺は目を瞑り、足に力を入れた。すると昔に聞いた音、たしかマンションの六階に住んでいた時に、隣の住人のベランダから何故か椅子が落下した時に聞こえた、あの音が聞こえた。幸い下に人はいなかったが。
「…ッ……」
目を開けると、俺の足は地面についていた。良かった、なんとか着地できたようだ。その時、桜郎が目をゆっくりと開いた。
「…こ…こは……」
そしてハッとなると、辺りを見回した。
「ミノル!!」
「安心しろ…全て終わった…」
俺は混乱する桜郎に簡潔に今までの経緯を説明した。
「…悪神を倒したのは良いが……エミリア殿と蛇は……!?」
「エミリアは大丈夫だ…こんなんで死ぬような人じゃない…だが…蛇は……分からん……」
桜郎が立ち上がろうとしたので俺は急いで止めた。
「やめろ!…死ぬぞ!」
「だが…蛇が!!」
「……俺の依頼は神殺しと…追加でお前の護衛が増えた……だから行かせるわけにはいかない」
俺がそう言うと、桜郎は焦っている様子で俺に言った。
「なんだと……蛇があの城の中にいるのかもしれんのだぞ!?」
「………かもな」
「…それでは助けなければ!!」
「俺の依頼内容は神殺しとお前の護衛……蛇を守るなんて事は無い」
すると、桜郎は俺を睨んだ。まぁ、そういう反応になるだろうな。
「………お主という奴は…」
「…俺はギルドの人間だ……だから…やってほしい事があるのなら…依頼をしろ……さぁ…お前が俺にしてほしい事を言いな」
「……ッ!!…………頼む…蛇を…助けてくれ…」
刀を握りしめて、崩れゆく城の方を向いた。
「お前の依頼…たしかに引き受けた……少し待ってろ」




