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存在消失(1)

ゆっくりがんばります

誤字脱字などは気づき次第修正します。

現代社会は承認欲求の塊だと思う。

かくいう俺こと椿木 景(つばき けい)(18)もその1人である。

SNSに投稿したものが顔も声も知らない不特定多数の人間から「いいね」を押されると言いようのない快感が得られる。

当然「いいね」の数が多ければ多いほど快感は加速度的に増していくのだ。


だが、俺の承認欲求はそんなもんじゃない、もっとこう一過性なものではなくなんて言うか、、、

そう!有名人なって歴史に名を刻みたいのだ!


「そのためにこの探偵事務所に入社したはずなんだよなぁ・・・」


俺が勤務している星守探偵事務所は異能力事件(アブノーマルケース)専門と謳っているがその実、何でも屋みたいな立ち位置である。

大抵は国民の味方こと警察の対異能力専門部署が事件を解決してしまうため、大きな依頼が来ることはまあ稀にしかない。

依頼がなければ当然、報酬が支払われることはない。

そのため猫探し、浮気調査など普通の依頼も受け付けており、実はこっちが主な収入源だったりする。

俺はため息交じりに6階建てビルの2階にあるオフィスの扉を開ける。


「おはよう、椿木君 今日は君が1番乗りだな」


「おはようございます、星守社長」


どこのジェントルマンかと思うほど左右対称に整った口ひげを弄りながらモーニングコーヒーを嗜んでいる初老の男性、彼が星守探偵事務所の社長、星守 澄隆(ほしもり すみたか)(53)その人だ。


「今日も学校はサボりかね?」


「今日は土曜日なんで休みっすよ、あと別にサボったことないですからね今のところ(まだ入学式から2週間しかたってないけど・・・)」


「軽いモーニングジョークだよ」


モーニングジョークって何だよ?と突っ込みたくなるところだが相手にしていたらキリがないことを知っている俺は冷蔵庫で冷やしておいた缶コーヒーを取り出しソファに腰掛ける。

それと同時にテーブルの上に置いてあるリモコンに手を伸ばして電源ボタンを押下する。

特に社長と会話することなくしばらくテレビを観ているととオフィスの扉が開いた。


「おはようございまーす!」


テレビの音をかき消すように元気一杯な声をオフィス中に響かせながら黒髪の女の子が出勤してきた。


「やあ、グッドモーニングだねぇ星取君」


俺の時とは違って、抑揚のある声で社長がそう発する・・・わかりやすいおっさんだなおい。


「景君もおはようだねー」


「おはようっす」


星取 綾香(ほしとり あやか)(16)、俺と同じ学校に通う2年生の先輩だ。

腰まで伸びている黒髪は綺麗に整っており清潔感がにじみ出ている。

学内でも美少女の部類に入る人種であり、勉学やスポーツもそこそこ、コミュ力も高くて男女ともに人気がある先輩である。

本人の強い要望で俺は綾ちゃん先輩と呼ばせてもらっている。


「社長!依頼ですよ依頼!しかも異能力案件かも」


「ほう、じゃあ星取君の後ろの子が依頼主かね?」


社長の声に反応を示すと綾ちゃん先輩の後ろに隠れていた女の子がひょこっと顔を出し頷く。

おそらく高校生だろうか?茶髪のセミロングかぁ、地毛かな?それとも染めてるのか?などと下らないことを考えている内に依頼主の女の子が口を開いた。


「わ、私の彼氏を探してほしいんです!」


「彼氏?」


一通り話を聞いたところ、彼女は月島 美耶(つきしま みや)、都内にある神子屋高校の2年生、半年ほど前から当時、同じクラスの男子である獅山 観月(しやま みつき)と交際を開始し順風満帆な学校生活を謳歌していた。

しかし、2年生にあがると同時に突如、学校から姿を消したという。

ここまでの話を聞く限りまだ異能力が関係しているとは断定できない、とりあえず失踪事件として警察に届け出を出すのが適切だろう。

だが、この話はここからが本題と言わんばかりに目を見開き月島が話を続ける。


「誰も、誰も観月君のことを覚えていないんです、クラスメイトや先生も・・・、まるで最初から存在しなかったかのように・・・」


なるほどなるほど・・・これは大きな事件の予感がするぞ。

俺は不謹慎ながらも心が高ぶっているのを感じた。

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