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第八話


「何て事をしてくれるんじゃ、お主は!」

 玉座の上で、王様の怒声が響く。脇に控えた大臣たちが首を竦める中、王様の前に立たされた俺は少しだけ首を傾げる。

「ええっと……何て事って……」

「とぼけるつもりか! お主、今日一体何をしたんじゃ!」

「何をって……ちょっと稽古をしてただけですけど……」

「誰と!」

「誰って……クエーガーと」

「それじゃ!」

 ……どれだよ?

「お主、クエーガーと一対一の模擬決闘を行ったらしいな!」

「ええっと……はい」

「それで! クエーガーをどうしたんじゃ!」

 いや……どうしたって……

「……叩き潰しましたが?」

「叩きつぶしてどうする!」

 ……ええ?

「ええっと……ダメでした?」

「ダメに決まってるじゃろうが! むしろ良いと思っておるのか!? 何系の発想じゃ、それはっ!」

「アリアにはメッチャ褒められましたよ? 『流石、和真!』って」

「この脳筋コンビがぁああああああ!!」

 ………………えええええ~?

「すいません、王様。ちょっと意味が分からないんですが?」

 俺、別に卑怯な事なんてしてないぞ? こう、一対一の対決で正々堂々勝負して勝っただけ何だが……

「クエーガーのプライドまで粉々に砕く様な奴があるか! 少しはあろうが、手加減というモノが!」

「いや……お言葉ですが王様。クエーガーも俺の団長就任には納得がいって無かったみたいだし、こう、どっちが群れのボスか白黒つける為にも――」

「お主は猿山のサルか! 首の上についておるのは飾りか何かげほげほっ!」

「へ、陛下! お、お水を!」

 むせる王様に大臣その一(なんて名前だっけ?)が水差しから注いだ水を王様に渡す。それを一気に飲み干して少しクールダウンしたのか、額に手を当てた王様が溜息交じりに話を再開した。

「……和真よ。お主がクエーガーよりも強い事は儂を含め、皆重々承知しておる」

「……はあ」

「なんせ、メルバを退けた勇者じゃ。強いに決まっておろう。いくら『力の第一騎士団』の隊長クラスと言えど、腕に段違いの差がある事ぐらい、容易に想像が付く」

「……クエーガーは納得して無かったと思うんですけど?」

 大体、ちょっと『模擬訓練しない?』って言ったらノリノリで乗って来たぞ、アイツ。

「それにしてもじゃ! 数合切り結べば一体どれくらいの実力差があるかは容易に想像がついた筈じゃ!」

「……それは……まあ」

 実際、三合当たり切り結んだ所で顔色変わってたし。十合過ぎたあたりでは膝が笑ってたな、アレ。

「口ほどにも無かったっすね、クエーガー。大口叩いた割には大した事無かったっす!」

「それを何故嬉々としてココで話す!」

「いや、散々舐められてたんでついカーッとなって」

 今は反省してます、ハイ。

「……あのな、和真。お前は一体、何者じゃ?」

「ええっと……勇者?」

「『今』じゃ」

「……騎士団長?」

「……王太子じゃ」

 ……。

「……おお。忘れてた」

「……忘れ――はあ……あのな、和真? 仮にも儂の後を継いで、このローレント王国の王になるんじゃぞ? 王にとって大事なのは『徳』じゃ。別に、舐められて許せとは言わん。言わんが、明らかに戦意を失っている相手を叩きつぶすなど……王以前に、獣と変わらんではないか」

「……ええっと……すいません」

「……確かに、王たる心構えを教えてなかった儂にも非はある。あるが……」

 大きな溜息をつく王様に、自身の身が小さくなる。えっと……すいません、思慮が足りませんでした。

「クエーガーは荷物を纏めて実家に帰るそうじゃ。そりゃ、そうじゃの? あれだけ大勢の騎士の前で涙目になるまで小突かれたんじゃ。恥ずかしくてもう人前には立てんと、そう言っておったぞ?」

「っぐ!」

「……クエーガー自身は確かにお主より弱い。弱いが、それでも世間一般の騎士から見れば十分『優秀』じゃ。力だけでは無いぞ? 第一騎士隊の隊長として、部下の統率にしても見事なものじゃった」

「……」

「和真、確かにお主は強い。強いが、クエーガーが指揮した第一騎士団二百人の精鋭と戦って……勝てると思うのか?」

「……」

 え、ええっと……

「……楽勝です」

 だって、魔王城では魔族五百対俺ら四、とかあったんだぞ? クエーガーが一番強いレベルの騎士団なんかでは、正直相手にはならんと思うんだが……

「……」

「……」

「……そうじゃの。お前は勇者じゃもんな。それでは言い方を変えよう。和真、お主は同時に数ヶ所から攻めてきた敵を一人で打ち倒せるか?」

「それは……」

 体は一個しか無いし、流石に無理だろう。

「お主の強さは個人の『武』じゃ。なるほど、それは確かに見事じゃが……正直、『国を守る』という一念から見れば、お主程の武は要らん」

 分かるか? と問うて来る王様に黙って頷く。要はアレだろ? オーバーキルってやつだろ? 包丁持ってる泥棒から身を守るのに核兵器はいらねえって事だろ? それなら拳銃が一丁あれば事足りるって訳だ。

「お主には第一騎士団でそう言った、人事の機微を学んで欲しかったのじゃが……」

 深い深い溜息をつく王様に、思わず身が縮こまる。親の心子知らずとは良く言ったもの……じゃなくて。

「え、ええっと……それじゃ俺は……」

「……あんな事をした後じゃ。流石にこのまま第一騎士団に留任、というのは少々難しいじゃろう」

「で、ですかね?」

「そりゃそうじゃろ」

 ま、マジで? その、これから仲良くなっていったり……

「無理じゃな」

「……ええぇ~」

「儂が言いたいわ」

 再度の大きな溜息。もう……何か、すいません。

「……取りあえず、お主をこのまま第一騎士団に置く訳にはいかん。申し訳ないがラロッズにはもう少し頑張って貰うかの」

「……」

 ラロッズさん、逢った事無いけど……色々申し訳ないです。

「……まあ、考え方を変える事にしようかの。よくよく考えて見れば、王太子であるお主に第一騎士団を任せたのが間違いなんじゃろう。だってそうじゃろ? なんせお主は王太子じゃからな! 第一騎士団は最前線で戦う訳じゃし、そんな危ない所に世継ぎを置いておくわけには行かんわの!」

「……なんか……すいません」

『自分に言い聞かせるように』という表現がぴったりの王様に、もう、何と言うか、顔向けできない。申し訳無さ過ぎて。

「そ、その……陛下?」

「なんじゃ?」

「そ、それじゃ俺、じゃなくて私は……」

「……ふむ」

 しばし、迷う様に中空に視線を飛ばす。

「……そうじゃの。確かお主、魔法の方も優秀じゃったな?」

「優秀?」

「違うのか?」

「そこまで優秀じゃ無いですよ? アリアには魔法勝負じゃ勝った事ないですし」

「そうなのか?」

 王様の言葉に頷く。剣の勝負ならリーナ相手でもいい線行くんだが、流石に魔法勝負ではアリアには勝った事が無いし。

「アリア曰く、『魔法は幼い頃からの積み重ね』らしいですし。流石に十五過ぎてから覚えた俺じゃアリアには及びませんよ? 足を引っ張らない程度には出来るでしょうけど……」

「ふむ……じゃが、アリアの魔法は我が国でもピカ一じゃぞ? それで足を引っ張らない程度ならば、それはかなりの実力じゃろう。うん、そうじゃ! そうに違いない!」

「……はあ」

 ……なに言いたいんだ、王様は?

「よし、和真! お主にはこれからローレント魔術学院に行って貰おう! そこでお主にはアリアと共に臨時講師を務めて貰いたい!」

「ええ! お、俺が臨時講師ですか? い、いや、さっきも言いましたけど、俺は別に魔法は得意じゃ無いんですって!」

「アリア程では無くとも魔法の腕はあるのじゃろ? ならば何の問題も無かろうて!」

 そう言ってうんうんと頷いた後、ニヤリとイヤらしい笑みを浮かべる王様。

「……それにの? すこーしばかり、リーナが優遇されとる気もしとったんじゃ。アリアにも『アドバンテージ』が無いとの?」

「……」

 そ、それを言われると……

「ちなみに有効じゃぞ?」

「……何が?」

「忘れたのかの? 旅立つ前に言ったじゃろ? 『あーんな事』や『こーんな事』があっても文句は言わんと。実の親がおる王城じゃと気も使うじゃろ? じゃが、アリアがおるのは此処からは少しばかり離れた場所じゃしの? ああ、そうじゃ! どうせなら、アリアと同じ宿舎に住むかの? どうじゃ? 一つ屋根の下じゃぞ?」

 そう言って先程よりも下卑た笑いを浮かべる王様に俺は言ってやったね!


「よろしくお願いしますっ!」


 こうして俺の魔術学院での臨時講師生活が始まった。きっと、俺は王様よりも下卑た笑顔を浮かべていただろうね、うん。



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