表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第六話


「あれ? 和真?」

 練兵場に現れた俺に、一瞬驚いた様な顔を見せた後、笑顔を浮かべてリーナが近寄って来た。

「よっ。久しぶりだな」

「本当ね。なんかずっと部屋から出てこなくて、腐った眼をしてるって聞いてたから……今日あたり、貴方の部屋を訪ねるつもりだったんだけど……」

 ……腐った眼をしてるって。いや、否定はせんが。

「んー……まあな。だってお前、する事も無く日がな一日あのやたらめったら立派な部屋でぼーっとしてたんだぞ? そりゃ眼も腐ってくるさ」

 若干、自虐気味に言ってみる俺に、苦笑を浮かべるリーナ。

「それもそっか。ごめんね、ホントはもっと早く貴方の部屋を訪ねるつもりだったんだけど……」

「気にするな。忙しかったんだろ?」

 なんせ、王様を守護すると言われた近衛騎士団の団長だ。引き籠りの相手をしてる暇はねえだろう?

「忙しかったと言うか……こっちに居るのは私だけだし、抜け駆けはずるいというか……『協定』があったりして……」

 なにやら口の中でボソボソ言うリーナに、俺は頭に疑問符を浮かべる。協定って何だ?

「な、なんでも無い! そ、それよりどうしたのよ、練兵場なんか来たりして。あ、もしかして久々に体を動かしたくなった? それなら私、付き合うけど?」

 手持ちの木剣を掲げて見せ、笑顔を浮かべるリーナ。あれ?

「聞いて無いのか? 俺、今度騎士団に配属になってな」

「……」

「……」

「……え?」

「だから、騎士団に配属になったの。これから宜しく頼むぞ、リーナ」

 まあ所属は違えど、騎士団という括りでは同僚みたいなものだろう。いや、騎士団同士の横の繋がりなんかは良く分からんが。

「え、ええ! き、聞いて無いよ! 和真、騎士団に配属になったの! いつから!」

「一応、今日からだが?」

「そ、それ、ホント? 嘘じゃないよね!」

 何を言ってるんだ、お前は。こんな事で嘘をついてどうするんだよ。

「か、和真が騎士団! って、言う事は、よ? そ、その……わ、私の副官とかして貰ったりして、『リーナ、背中は預けた!』『任して、和真!』みたいなそんな嬉し恥ずかしな事もあったり! で、でも『協定』違反に……う、ううん! これはお父様の意志だもん! べ、別に私が頼んだ訳じゃないし! で、でも……え、えへへへ……」

 ……。

「思えば……騎士団に入ってからいつもいつも最前線で戦って来たもんね……メルバの時もそうだったし……べ、別にただ守られるだけのお姫様に憧れてた訳じゃないけど……で、でも! 私だって女の子だもん! そ、そりゃ少しぐらい良い事があっても罰は当たらないわよね!」

 ……リーナ、帰って来い。

「……リーナ」

「え、えへへへへへへへへ~」

「リーナ!」

「……はっ! な、なに!」

「いや、何じゃ無くて……まあ、とにかくこれから宜しく頼むぞ?」

「う、うん! こちらこそ宜しく! そ、それじゃ和真、取りあえず貴方には私の副官をして貰おうと思うわ! そ、その……だ、団長と副官は戦術面でも戦略面でも一体になる必要があるから、こ、これからは……い、いいい一緒の部屋で寝起きをして、親交を!」

「あれ? 第一騎士団って、近衛の副官扱いなのか?」

「そ、そうよ! 第一騎士団は、近衛騎士団の副官あつか……って、へ?」

 あ、そうなんだ。まあ、王族が率いる騎士団だからな。そりゃ、格式は他の騎士団よりも高くてとうぜ――リーナ?

「……え?」

「どうした? 呆けた顔して」

「か、和真? 貴方、今何て言ったの?」

「だから、第一騎士団は、近衛の副官……って言うか、指揮下って言ったらいいのか? まあ、そういう扱い何だろう?」

「……」

「……ん?」

「……ごめん、和真。ちょっと整理させて貰ってもいい?」

「いいぞ」

「まず……貴方は近衛騎士団に配属されたのよね?」

「いいや」

「私の考えてた前提条件から違う!」

 顎が地面につきそうな程大口を開けるリーナ。おい、美少女がそんな顔をしちゃダメだ。

「だ、第一騎士団って……何でよ! 和真、貴方は王太子、つまり王族なのよ! なんで王族が近衛騎士団じゃ無くて第一騎士団なのよ!」

 いや、何でって言われても……

「王様がそうしろって。第一騎士団の団長さん、結構いいお年何だろ?」

「え、ええ」

「だから、その後任って事で」

「あ、貴方……第一騎士団の団長になるの……?」

「そ、そうだけど……?」

「……有り得ない」

 膝を地面につき、天を仰ぐリーナ。お、おい! どうしたんだよ?

「……折角……折角、和真と一緒に居れると思ったのに……神よ! なんか私、悪い事しましたか! そ、そりゃちょっと、妹たちに差をつけれると思ったりしましたけど……で、でも! それぐらいは良いでしょ!」

 ……リーナ。頼むから、帰っておいで。

「……で、でも……団長会議とか、そう言うので和真と一緒に居る時間は増えるし……そ、それに……良く考えたら私の副官より、第一騎士団の団長の方が……守って貰える気がするし……うん! そうよ、モノは考え方よ、リーナ! これはむしろ天祐! そう思う事にしましょう!」

 折った膝を地面から離し、いい笑顔をこちらに向けながら手を差し出すリーナ。

「和真! これから宜しく!」

「あ、ああ」

 何だか巧く自己解決を果たしたらしいリーナに、若干ついてイケない(イってはイケない、か?)モノを感じながら俺はその手を握り返す。

「そ、それで……第一騎士団はどの辺で鍛錬してるんだ? 挨拶なんかもしておきたいし……」

「第一騎士団の詰め所はあそこよ」

 リーナが指差す先に見えるのは、少し大きめの体育館ほどの建物。

「あんなでかいのか、第一騎士団の詰め所って」

「近衛は貴族出身者ばかりの騎士団だけど、第一は本当に実力のある騎士ばかりだからね。人数も二百人ぐらいは居るんじゃない?」

「にひゃ……マジかよ」

「そりゃそうよ。いざ戦端が開かれた場合、真っ先に赴くのは第一騎士団何だから。足りないくらいよ」

 二百人の命を預かるのかよ、俺。日本ではタダの高校生だったんだけどな……出来るのか、俺に。

「なに言ってるのよ。貴方は世界を救った勇者よ? 第一騎士団の団長職は相応しいと思うわ」

「……そっか?」

「自信、持ってよ?」

「……うん」

「ま、いじめられたら言って来なさい。慰めてあげるから」

 そう言って、にひひと笑うリーナに苦笑で返し、俺はリーナに教えて貰った詰め所に向かって歩きだし――

「和真!」

「ん?」

「そ、その……何があっても、私は貴方の味方だから! 困った事があったら言っておいで!」

 頬を赤く染め、そんな可愛い事を言ってくれるリーナに、俺は苦笑を笑顔に変えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ