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第五話


「……はー」

 王城の、奥まった一室。俺が、『王太子』として与えられた部屋。その部屋のベットから天井を見つめながら、大きくため息をつく。

 あれから、なんやかんやの手続きがあって、ローレント国王より『立太子の詔』が出された。『立太子』とは、太子を立てる、つまり王様の後継者が出来ましたよ~と、国民や諸外国に宣言する儀式……らしい。その立太子の宣言を受けたものが『王太子』、つまり王子様になるんだとか。


 ……俺、王子様になったらしいぞ、おい。


 そもそも貴族なんてもんすら存在して無い国に生まれた俺だ。いきなり王子様ですって言われても……って感じ。まあ、それはいいよ。

「……暇だ」

 王子様になって一カ月。俺は無茶苦茶暇だった。

 最初の一週間こそ、各国の来賓とか、祝賀に訪れた国民に手を振る行事とか色々あったけど……流石に王子様になって一カ月もたてば潮も引く。

 リーナやアリア、シオンなんかも最初こそ頻繁に俺の部屋を訪ねて来てくれたが、最近ではトンとご無沙汰。

リーナは、王立近衛騎士団の団長らしく、毎日会議やら稽古やらで忙しい。守って貰う立場のお姫様が率先して稽古をつけるってどうよ、と思わないでも無いが、リーナがただ守られてるだけのお姫様だったら魔王討伐なんて荒行には絶対参加してないだろう。

アリアはアリアでローレント魔術学院とか言う所の非常勤講師をしているらしい。『ローレントの魔姫』とまで呼ばれたアリアの講義は、学院の生徒には非常に人気が高いらしく、王城からちょっと離れた所にある学院で泊り込みで講義をしている。こっちもこっちで、お姫様の癖にと思わないでも無いが、リーナと同じ理由で納得。

シオンは実は学生さん。ローレント王立科学技術学院とかいう所で、入学以来成績トップをキープしてるらしい。異世界から勇者を召喚、なんて途方も無い装置を作った彼女だ、半年ぐらいのブランクは問題では無いらしいが、『出席日数が足りなくて留年しそうだ』と泣きそうな顔をして毎日遅くまで特別課題をしてる。世界を救ったんだから大目に見て上げれば良いのに、と思わないでも無いが、王様の教育方針なら仕方ない。


……まあ、そういう訳で。


「……超、ひまだ~」

 ベッドの上で、俺、ゴロゴロ~。だって、やる事無いし。

 この平和は俺達が必死に戦って手に入れたものだ! なんて、初めの方はゴロゴロするのにも満足していたが……この世で一番の苦痛は退屈だ、とは巧く言ったもんだ。三日で厭きたよ、エエ。だって、この世界、テレビもゲームも漫画も無いんだぞ? そんな中で部屋の中に閉じ込められて、何しろってんだよ! いや、別に外に出ても良いんだけどさ。出たら出たで、王城で働いてるメイドさんとか、仕えてる騎士とか、なんかそんな人たちが仕事の手を止めて一々俺に最敬礼とかするんだよ。

『堂々としていれば良いのですわ。和真は世界を救った勇者で、王太子ですわよ?』

 とはアリアの弁だが、お姫様として生まれたアリアとは違い、元々はサラリーマンの息子である小市民の俺。最敬礼されて踏ん反り返れるメンタルの強さは持ち合わせてねえ。そんな訳で、ずっと部屋に籠ってるんだけど……。

「……これって、引き籠りだよな?」

 しかも、働いて無いからニート。今流行りのヒキニート。オタクで無いのだけが救いっちゃ救いだが、充分『社会不適合者』だ。知ってるか? 魔王を倒した後の勇者って、ヒキニートになるんだぞ? ははは、笑え笑え。ははは……


 ……はー。


「……もう一遍、魔王でも現れないかな?」

「何を縁起でも無い事を言っておるのじゃ」

 独り言に返事が返って来た。びっくりして声の方を向くと、そこには髭を撫でながら、呆れた顔をする王様の姿が。

「……王様」

「王様、では無いわ。何をしておるのじゃ、お主は」

「何をって……ゴロゴロ?」

「……」

 俺の言葉に、王様溜息。社会不適合者を見る様な目で……いや、実際その通りなのだが、ジト目でこちらを見やる。

「……和真」

「……はい」

「お主、そのままで良いと思っておるのか?」

「……そうは思っちゃいませんですけど……」

「魔王メルバを倒した、我が娘三人が慕った勇者和真はどうしたのじゃ! 何も出来んと宣言したお主が、今では我が娘に剣技で勝り、魔術でも肉薄しておると聞く。お主はやれば出来る人間じゃと思うたから、口うるさい事も言わずわしも様子を見ておった! それが何じゃ! お主は日がなゴロゴロゴロゴロ……最近では、この部屋に籠りっぱなしで、一歩も外に出て居ないらしいでは無いか!」

「……」

 ヒートアップする王様を横目で見ながら俺、無言。返す言葉も無い。

 いや、その通りなんですけど……何だろう? 某賭博黙示録的な漫画で言う所の、ひと勝負終わった後みたいな感じ? こう、今までずっと気を張っていたのに、急に糸が切れたというか、気が抜けたっていうか…… 

「……確かに、魔王メルバを倒すという偉業を成し遂げたお主じゃ。その反動で、一気に力が抜ける事もあるじゃろう。それにしてもじゃ! 今のお前は余りに情けなさすぎる」

 王様の言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。た、確かに……今の俺、無茶苦茶格好悪い。

「……まあ、わしにも責任の一端はある。政務の忙しさにかまけて、お主の元を訪れる事もせなんだからな。そこで、じゃ」

 そう言って、王様はマントの内ポケットから何やら取り出す。あれは……巻物?

「王太子、天草和真。そちをローレント王国第一騎士団長に任命する」

 巻物を読み終えると、王様はその巻物を俺に手渡した。半年も住めば、少なくとも英語よりは得意になったローレント語で書いてあるので文字自体は読める。読めるが、書いてある意味が分からない。

「……ええっと?」

「じゃから、お主を今日からローレント王国第一騎士団長に任命する、と申したのじゃ。知っておるじゃろ? 第一騎士団」

 王様の言葉に、頷く。ローレント王国に三つの騎士団があることはリーナから昔聞いた事がある。彼女が団長を務め、主に貴族の子弟が入団する『華の近衛騎士団』、辺境地域の警護に当たり、その任務の性質から王権を離れ、そして最も人数の多い『数の独立騎士団』、そして……ローレント最強の騎士たちによって構成された『力の第一騎士団』。

「……その第一騎士団の団長に……俺を?」

「そうじゃ。和真の実力は既に我が娘リーナを上回っておると聞く。今の第一騎士団の団長は『暁の聖騎士』と呼ばれたラロッズ・クエーサーが務めておるが、寄る年波には勝てんでの。後継者を探しておった所じゃ」

 ホレ、と巻物を手渡しながらにこやかな笑みを見せる王様。いや、ホレと言われても……。

「……まあぶっちゃけた話、わが国も決して国庫が潤っておる訳ではないのじゃ」

「……はあ」

 関係あるのか? 騎士団長と国庫が。

「第一騎士団長と言えば我がローレント王国を代表する、言わば顔役。一挙手一投足が注目されるそんな役職じゃ。外交費も嵩むし、他国との会議や酒席にも出なければならぬ。酒席に招かれたなら、返礼に酒席も開かなければならんじゃろうしな。そうなると、あまりみっともない事もさせれんのじゃ」

 例えばと、指を振って。

「『お金が無いので酒席を開けません』等となって見よ? 我が国自体が笑われるじゃろ?」

 ……ああ、そう言う事。

「その点、我が国のごく潰……ではなく、王太子である和真なら、王室財産の中から出せる。新たに騎士団長に払う給金も必要無いわけじゃ」

「さげなく漏れい出た本音は胸に留めておきますが……そう言う事なら、良いですよ」

「なんと! やってくれるか!」

 まあ、日がな一日ボーっとしてるのにも飽きてきたし。っていうか、このままでは確実にダメ人間になるしな、俺。


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