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第四話


「……なんと……残って下さると……そう申すか?」

 パーティーから一夜明けた玉座の間。俺は、リーナ達の父親であるローレント国王に謁見し、自分の考えを告げた。

「ええ……もし、宜しければ俺をローレント国民として……この国に住まわせて貰えれば……そうですね、出来れば小さい家なんかを一軒貰えれば……なんて、そう思うんですけど……」

 目をシバシバさせて呆然と宙を見た後、王様が口を開く。

「……本当に良いのかの? 和真殿にも父や母、或いは親しき友が居ろう? その者どもに別れも告げず、この様な異世界に、たった一人残るなど……後悔は無いのか?」

 王様の言葉を聞き、ゆっくり視線をめぐらし、リーナ、アリア、シオンの三人の顔を順々に見回す。

 自分の考えは昨晩、リーナとアリアにも告げた。リーナは、嬉しそうに顔を綻ばしてくれ、アリアに居たってはシオン同様、抱きついて泣かれた。二人とも、俺が残る事には快く賛成してくれている。だから……

「……一人じゃ、ありません。リーナも、アリアも、シオンも居る」

「……」

「……」

「……ふむ」

 長い髭をモソモソ撫でながら、王様は俺ら四人を順々に見回し、

「……お主ら、ひょっとしてイイ仲か?」

 とんでもねえ事を言いやがった。

「な、何を言ってるんですか! お父様!」

「そ、そうですわよ! だ、誰が和真なんか!」

「ふ、ふん! ち、父上も人が悪い!」

 三者三様、そんな風に全力で否定するお姫様方。おいおい……昨日の涙は嘘だったのかよ?

「……和真殿が絶望に打ちひしがれた顔をしておるの……なるほど、勇者はココまで鈍いか。お主らも苦労したの」

 しんみりした様子で語りかける王様。何がさ?

「……そうじゃの。和真殿。お主の望みを半分は叶えても良い」

「……半分?」

「そうじゃ。この国に住まうのは問題ない。むしろ歓迎しよう」

「ありがとうございます!」

「じゃが……小さい家を一軒くれ、と申したの?」

「……はい」

「それは出来ん相談じゃな」

 言いきる王様。そっか……やっぱり、家を一軒くれなんてちょっと図々しかったかな? 俺の親父も苦労して銀行から金借りて家建てたもんな。

「お、お父様! 魔王メルバを倒し、オーランドを救った和真の功は測り知れません! 家の一軒どころか、爵位だって惜しく無い筈ですわ!」

「そうです、父上。和真の功績を考えれば、家一軒などタダみたいなものでしょう?」

 アリアとシオンが口々に抗議をしてくれる。リーナはリーナで、じーっと無言の抗議で王様を睨みつけているし。いや、別にいいよ? 俺頑張って、狭いながらも素敵な我が家、建てるよ?

「このバカ娘どもが。和真殿の功が多大なるからこそ、家一軒なんぞ与えれんのじゃ」

「な、何故です!」

「……それでは、聞くがの?」

 はーっと溜息をついて、髭をモサモサさせながら。

「世界を救って下さった和真殿に、城下の町屋で寝起きをさせるのか?」

「「「……う」」」

「近所の魚屋で買い物をさせるのか? 町内清掃美化活動をさせるのか? 鐘の音と共に職工に交じって働かせるのか? 世界を救った勇者に」

「「「……」」」

 王様の言葉に、『ローレントの三美姫』、撃沈。

そ、そんな夢の無い……なんてちょっと思ったけど……確かに、王様の言う事は正論。こっちの世界で暮らすって事は、生活費やら何やらも捻出しなきゃならない。まあ、モンスター退治をするとか、賞金首を倒すハンターなんてのも良いけど……あんまり、元勇者がやる職業じゃない気もする。イメージ的に。

「そういう理由で、和真殿の希望を叶える事は出来んのじゃ」

「……分かりました」

 こう言うしかないだろう?

「で、ですがお父様。そ、それでは和真はどうすればいいんですか!」

 リーナの抗議に、王様はぐるりと三人に視線を睥睨し、最後に俺の下でその動きを止めた。

「……ところで和真殿」

「はい?」

「わしの娘三人とは、少しは仲良くなったかの?」

「……ええ。俺の勘違いで無ければ」

「そうか。それで?」

「……それで、とは?」

「誰が一番好みじゃ?」

 ぶっ!

「な、何を言っているんですか!」

「そんなにおかしな事を言っておらんじゃろ? 親の欲目を除いてみても、三人とも、性格こそ違えど容姿は一流じゃ。そんな三人と半年も旅を続けておれば、そこに特別な感情が芽生えてもおかしく無かろう?」

「と、特別な感情って……」

 そ、そりゃ俺だって、三人の事を憎からず思ってるよ? って言うか、ぶっちゃけ好きだよ、三人とも。で、でも、いきなりそんな事言われたって……

「ふむ。『英雄、色を好む』とも言うしの。三人とも好きと申すか」

「そ、そういう訳じゃ……」

「嫌いなのか?」

「……好きです」

 うわー! めっちゃ恥ずかしい! ちらっと横目で伺ってみれば、三人とも、顔真っ赤だし! 

「……ふむ。ならば問題無かろう」

「? 何がです?」

「和真殿。貴殿にはこの王城にて生活をして貰いたい」

「……は?」

「貴殿にはこの王城にて生活をして貰う。我が娘三人と交友を深め、いずれはこの内の一人を娶り、このローレント王国の国王になって貰いたい」

 ……。

 ………。

 …………は?

「お、お父様! な、何を仰っているのです! そ、それはつまり、わ、私達の中の誰かが和真の……そのお嫁さんになるという事ですか!」

「アリアは嫌なのかの?」

「嫌な訳ありません! むしろ、のぞむとこ……では無くて! そ、それは……か、和真の意志はどうなるんですの!」

「和真殿は嫌かの?」

 想像してみる。純白のウエディングドレス……なんてモノがこの世界にあるのかどうか知らないけど、取りあえず綺麗な衣装に身を纏ったアリアの姿。

『か、和真! そ、その……不束者ですけどよろしくお願いしますわ!』

 そんな事を言って、頬を赤らめるアリア……とか! とかとか!

「……どうやら和真殿にも異存はなさそうじゃの。取りあえず、涎は拭かれよ」

 王様の言葉に、慌てて服の袖で涎を拭う。

「勿論、一人が不満なら三人とも娶ってもらっても構わん。わしも国王である前に人の親じゃ。娘たちが真に慕う者の元に嫁ぐは……だから和真殿、涎を拭かれよ」

 嘆息と共に吐き出された王様の言葉に、もう一度涎を拭う。一人でもあの破壊力だってのに、それが三人だぞ! 涎も出るってもんだ!

「とにかく、和真殿には王城にて生活をして貰おうと思う。姫たちの婚約者……ローレント王家に婿入りしたと思って貰えば良い。そうと決まれば、善は急げじゃ。今から立太子の詔を出すぞ! 和真殿、今日から貴殿は我が息子同然! これからは和真と呼ばせて貰うぞ!」

 そう言って、玉座を降りて、俺の肩をフランクに叩く王様。ええっと……何だか良く分からないけど、取りあえずこっちの世界に住む事が出来るみたいだ。リーナ達は何だかあっけに取られた顔してるけど……

「はい! よろしくお願いします!」

 取りあえず、俺は元気に頷いて置く事にした。


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