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第二話


「……忘れようとしても忘れられねえだろ、アレ」

「……あ、あははは」

「笑って誤魔化すなよ!」

 まあそんなこんなで、旅に出る事になった俺達四人。自慢じゃないがスポーツの類は全く出来ない俺。王城から出た瞬間に、ドラ○エでいう所のスライム(あんな愛らしい容姿はしていなかったが)にぶっ飛ばされた。

『ちょっと、貴方! 大丈夫?』

 そういう風に心配してくれたのはリーナ。後の二人はと言うと、

『ふん! スライムごときにこのザマでは、先が思いやられますわ!』

『そうだ。名誉の戦死、と言うのはどうだろうか? 国民の士気も上がるし、足手まといも片付く、一石二鳥だ』

 なんて事を言いやがりやがった。酷くね?

 それからも、ファイナルなファンタジーでいう所のゴブリンだとか、ポケットなモンスターをゲットする例のアレのピカ○ュウ的な奴にボコボコにされ続ける俺、心配してくれるリーナ、我関せずのアリア、俺が生き残る度に『……っち』と舌打ちをするシオンと、パーティー仲はなかなか酷い状態であった。まあ……良く生きてるよ、俺。



「でも……貴方は変わったわ。今では、『ローレントの剣姫』と呼ばれた私でも、五本に一本、取れるかどうか……」

 


 そもそも俺に、やる気なんかあった訳じゃねえ。それでも、流石にホレ、アレだ。仮にも三人も美女が居るこのパーティーで、いっつもいっつも俺だけボコボコにされ続けるのは……格好悪いだろ? そう思ったから、リーナに剣術を教えて貰った。スライムなんかにボコボコにされるのも嫌だったし。


 ……すぐに後悔する事になるんだが。


 リーナの稽古は熾烈を極めた。いや、マジで。こっちは剣なんか握った事もねえ、って言ってるのに容赦無しだ。このままスライムにやられ続ける方がマシだと思う程に。スライムにやられても死にはしないが、リーナの稽古は死にかねん。なんせ剣を握った瞬間に、目のハイライトが消えるんだぞ? アレは末期のヤンデレの目だ、絶対。


 まあ、そのお陰で自分でもびっくりするぐらい強くなった。


 こう言うと、『なんだお前、元々才能があったんじゃねえか』と言われそうだが……事実は小説よりも奇なり。残念ながら、俺には剣の才能なんて全くねえ。

 このオーランドって世界は……重力だか引力だか良く分からないが、地球より若干ソレらの力が弱い……っぽい。正確に調べた訳じゃないから何とも言えんが、妙に体が軽いのだ。ホレ、月で人間が兎みたいにピョンピョン跳ねる映像があるだろ? あそこまでびっくりするほど差がある訳じゃないけど、イメージはあんな感じ。『剣道』みたいに、綺麗に当てる事が目的じゃ無い、実戦の『剣術』において、相手よりも速く動けるってのはびっくりするぐらいのアドバンテージになる。

「……それに、魔術も。『魔術は才能と経験』という、魔術師の常識を、壁を、貴方は打ち破って見せて下さいました。易々と、とは申しません。貴方のその、血の滲む様な努力は一番近くで見て来た私が……良く……良く、知っています」

 そうは言っても、基本的な事はゼロからの俺。最初こそ筋肉痛やら生傷が絶えなかったが、そんなものに少しずつ体が慣れ始めて余裕が出て来た頃、並行してアリアに魔術を教えて貰った。剣で少しずつ敵との戦闘が出来るようになって来ると、段々戦闘も苦じゃ無くなってくるし、純粋にもっと強くなりたいと小学生みたいに思ったりもしたから。『魔術は生まれ持った才能と、積み重ねて来た経験がモノを言います。付け焼刃で覚えた所で、何の役にも立ちませんわ』と、最初こそけんもほろろに断られた俺だが、必死に頼み込んで弟子にして貰った。アリアのいう通り、魔術は才能と経験がモノを言う。オーランドに生まれた人間は、元々神々の加護で生まれ持って『魔法力』というMPみたいなものを持っているらしい。当然、日本生まれの日本育ちである俺に、そんな便利な能力はねえ。


『……貴方、欠片もありませんわね?』

『……何が?』

『才能が』


 なんて、酷いトークもあったりしたが……取りあえず、魔法力を鍛える特訓からスタート。まあこの特訓、特訓という名の拷問だったのだが……知ってるか? 人間って、まじで血の涙が出るんだぞ?

 元々、無い物を無理矢理作るんだから、どうしても体にガタが来る。初めて魔法力を人工的に作り出す特訓をした時は、高熱で一晩眠れなかった……って、この話は辞めよう。今でも思い出すとブルーになるんだ。

「それでも、魔術に関してはアリアにはまだまだ及ばないんだけどな」

「それは仕方ありませんわ。魔術は才能と経験。生まれた時から魔術と慣れ親しんで生活して来た私が、オーランドに来て半年の貴方に負けたのであれば、逆に私が恥ずかしくて街を歩けませんわ」

 そう言って笑った後、瞳を伏せるアリア。

「でも……貴方は、その私との差を、必死に埋めようとして努力をしてきました。『魔術は才能と経験』。この言葉を信じ、有り余る才能の上に胡坐をかいて、努力を怠って来た私は……まだまだ未熟でした。貴方のお陰で、貴方が居てくれたから、私はそれに気付いて……昨日の私より、今日の私の方が、強いと断言できます」

 そう言って、ぺこりと頭を下げるアリア。正直、意外だった。あの、プライドの高いアリアが、こうやって頭を下げるなんて。

「……ふん」

 若干、拗ねたようにシオンが鼻を鳴らす。

「どうした、シオン?」

「……別に」

 むすっとした顔で、腕を組みそっぽを向くシオン。その姿を見ると、ついつい昔の事を思い出す。

 リーナと、アリアに鍛えて貰う様になって、徐々にパーティーの中でも会話が増えた。なんせ、二人にとっちゃ可愛い……かどうかはともかく、弟子だ。少しずつ打ち解けて、宿屋で一緒に酒を飲んだり(この世界では十五から飲酒おっけー)、他愛も無い話をしたりしていた。でも、その輪の中にはシオンは絶対に入ってこない。


 多分、シオンは怒っていたのだと思う。


 世界の命運をかけた召喚で、俺みたいなへなちょこを引き当ててしまった事。勢い込んで旅に出たものの、遅々とした進まない速度。加えて、自身の姉二人は、徐々にこの『出来そこない』と親交を深めてる……とくれば、へそを曲げない方がおかしいのかも知れない。次第に空周りをしだすシオン。バックアップが主であるはずなのに、前に前に出ようとして失敗して、アリアを危機的な状況に追いやってしまって、ソレを気に病んでパーティーから離脱してしまう。

「……あの時の話は忘れろと言った筈だぞ、和真」

「そうは言ってもな。中々衝撃的だったし……」

「……ふん。君はいつも、私のそんな失態ばかりしか覚えて無い」

 そう言って、頬の膨らみを大きくするシオン。

 パーティーから離れたシオンは、一人で魔王の四柱の一人、ゼナサンの居城に赴いた。詳しい話はシオンが絶対に教えてくれないから知らないけど、とにかく俺が駆け付けた時には絶体絶命のピンチだったって訳。何とか二人で協力してゼナサンを倒した後、シオンが目に一杯涙を溜めて俺に聞いた。何故、来たのか? と。

 ……何でってね。

「……そう言えば、あの時の答えを聞いていなかったな。君は……和真は何で……私を助けに来てくれたのだ? 自分でいうのは何だが、あの頃の私は、君に対して感情的に当たっていた事は否めない。それこそ……居なくなった方が良かった程度には。それでも……君は、私を助けてくれた。何故……だ?」

 期待する様な、それでいて答えを聞くのが怖い様な、そんな瞳を浮かべるシオン。

「なんでって……当たり前だろ? 仲間だし」

「仲間……その……た、ただの仲間か? そ、それとも……そ、その……もっと大事な……」

「おかしなシオンだな? 大事に決まってるだろ?」

 俺の言葉に、シオンの顔がぱーっと華やぐ。いや、なんでさ?

「ちょ、し、シオン! 抜け駆けはずるいわよ!」

「な、何を言っているのだ、リーナ姉上! ぬ、抜け駆けなど……」

「そ、そうですわ! 自分だけそうやって得点を稼ごうとするなんて!」

「あ、アリア姉上まで!」

 三人娘、再び。何だろうね、女三人で『姦しい』とは、昔の人は良く言ったもんだ。しばし三人でギャーギャー騒いでいたものの、しばらくして落ち着いたのか、リーナが俺に視線を向ける。

「な、なんか最後の最後で巧く締まらなかったけど……とにかく! 私達は、貴方に、和真に感謝してるって事! それを伝えたかったの!」

 ……なんだよ。

「……知ってるか? 俺の世界ではそういうの、『死亡フラグ』って言うんだ」

「何それ?」

「『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!』みたいな事を言っている人間は、絶対にその戦いで死んでしまうって言う鉄の掟だ」

「縁起が悪いわよ!」

 いや、侮れんのだぞ。漫画やゲームの世界では、十中八九死んでるしな。

「で、でも、ソレはお話しの中での事でしょ? 私達は大丈夫よ!」

 ……そうだよな。人生はゲームじゃ無い。ロードもセーブも無いから常に行き当たりばったり。リセットはあるけど、一度リセットしたら、ハイ、それまでよ。コンテニューは当然無いし、お約束のチートじみた必殺技も、一発で体力マックスにしてくれる回復薬も、自分のステータスを教えてくれるウインドウなんて便利なモノもねえ。俺が経験して来たこの世界は、そんな世界。鋼の剣はアホみたいに重かったし、薬草はこれが毒じゃねえのか? と思うほど馬鹿みたいに苦いし、毒を受けた時なんか一歩も歩けなかった。

 そう……俺が来てしまったのは、そんな世界。

「……俺も、お前らには感謝してる」

 だから、だからこそ!

「もし……あのままあっちの世界に居たら、俺は努力何かして無かったし、そのまま大人になって、行きたくも無い大学に行って、勤めたくもねえ会社に勤めて、したくもねえ仕事をしてたと思う」

 俺の人生なんか、所詮そんなもん。

「でも……お前らのお陰で俺は代われた。体も、心も、強くなれた。本当に……ありがとう」

 そう言って、俺は頭を下げる。頭を下げるのは、恥ずかしい事。男なら、軽々しく頭を下げるな。そんな事も、言われた事がある。でも……でもな?


 そりゃ、確かに神様を恨んだ事もある。


 世界を憎んだ事もあった。


 なんで俺だけこんな目に、なんて毎日呪った事もある。


 でも、今の俺があるのは絶対、今までの冒険の日々が糧になってるって言えるから……


 俺は、堂々と頭を垂れた。


「……ふふ」

 頭上から漏れ聞こえる、リーナの笑い声。怪訝な顔をしながら頭を上げた俺の目には、三人の呆れた様な……それでいて、とびっきり優しい笑顔があった。

「……なんだよ?」

「ふふ。だって、貴方が言ったんじゃない。『しぼうふらぐ』って」

 ……。

「……俺達は、大丈夫なんだろう?」

「……ええ!」

「当然ですわ!」

「ふん。当たり前すぎて答える気にもならないな」

 三者三様、そう言って顔を綻ばせ。

「……んじゃ、さくっと魔王を倒して世界に平和を取り戻しますか!」

「ええ!」

「行きますわよ!」

「仕方ない。最後までちゃんとフォローをしてあげよう」


 俺達は、笑顔でラスボスの待つ城に乗り込んだ。




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