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第一話


 俺、天草和真がこの世界、『オーランド』に召喚されたのは丁度半年前。前から楽しみにしていたギャルゲ『しゃけんぶ!』の発売日の事だった。

 ……いやね、確かに浮かれすぎだったんですよ、エエ。

『しゃけんぶ!』は夢姫っていうメーカーが出してるゲームで『部活シリーズ』というシリーズの最新作。『やきゅうぶ!』『てにすぶ!』『しつじぶ!』に続く第四弾。完全新作の上に、前作のメインヒロインが全員登場するっていうファンディスク的要素も兼ね備えた一品で、俺も予約までして買った訳なんだが……


 帰り道に車に跳ね飛ばされました。


 自慢じゃないが、ガキの頃から超が三つも四つもつくインドア派の俺。車にはねられただけでも大概なのに、まして跳ね飛ばされた先が崖下なんて……絶対死んだと思った。薄れゆく意識の中で、過去の思い出たちが走馬灯の様に流れて……


 ……気が付いたら、俺はこの『オーランド』にあるローレント王国の王城の召喚の間に居たって訳。


『ななななな何だよ、ここ!』


 当然っちゃ当然だが、俺はいたく取り乱した。だってそうだろう? 『トンネルを抜けるとそこは雪国だった』なんて小説があるが、俺は車に跳ね飛ばされたら異世界でした、だ。雪国どころの話じゃ無い。

『やった! 成功したわね! 流石シオン!』

『ふん! これぐらいはして当然ですわ!』

『当たり前です。『王立』の人間を何人使ったと思っているんですか、姉上方』

 最初に聞こえて来たのは真っ赤な髪をした少女……リーナと、金髪の少女……アリアと、眼鏡の知的クールな女の子……シオンの、そんな話し声だった。

 意味が分からず、パニックになる俺にシオンが教えてくれた。


 この世界は『オーランド』という、俺が居た世界とは別の異世界である事。


 オーランドは、魔法と剣と科学で成り立つ、平和な世界である事。


 そのオーランドが、今、破滅の危機に瀕している事。


 魔王メルバによる侵略で、次々に国が滅びている事。


 そして……俺は、そのメルバを倒す為に召喚された勇者である事。


 ……ぶっ倒れるかと思ったよ、正直。


『お前、俺は由緒正しきインドア派だぞ! 魔王とガチンコで殴りあうなんて出来る訳ねえだろ!』

『……君の言っている事は良く分からないが、とにかく勇者として召喚されたんだ。頭は良いんだろう?』

『自慢じゃないが学年でも下から数えた方が早えよ!』

『……』

『ほ、ほら! 剣技の方は? 一子相伝の秘術を授かってるとか……』

『剣なんて握った事もないし、体育は10段階で2しか取った事ない!』

『……』

『ま、魔術はどうですの? 仮にも勇者様ですわ。強力な魔術の一つや二つ……』

『そもそも俺の住んでた世界に魔法なんて概念はねえ!』

『……』

『……』

『『『それじゃ貴方(君)は何が出来る(んだ)(んですの)(のよ)!』』』

『だから何も出来ねえって言ってるんだろうが!』

 ……まあ、ファースト・インプレッションは最悪だった。お互いに。俺は魔王なんて退治できない、さっさと元居た世界に返せ! と主張。それに対してのシオンの返答は、

『残念だが、ソレは出来ない。この『時空転位装置』は、そう何度も何度も発動出来る物では無いんだ。最悪でも半年ほどはエネルギーを充電する必要がある』とのこと。

『勝手に連れて来てソレはねえだろうが!』

『こちらとしても心外だ! いいか? この計画の為にどれほどの予算と、労力と、知識を集めたと思う? 我々としても、最後の期待だったのだ! それを……召喚したのは、頭は悪い、剣は使えない、そもそも魔術も無い世界から来た、しかもこんなに冴えないやつだぞ! せめて見目ぐらいは麗しくあれ!』

『おま、ソレはちょっと酷いんじゃないか!』

 なんて、喧々囂々とシオンと貶し合い。最後は掴みあいの喧嘩になるかと思ったが、リーナとアリアに止められ、そのまま王様の前に強制連行。

『……何にも出来ない……じゃと?』

 事情を聴いた王様の落胆振りって言ったら無かったね。シオンの言葉を借りるなら、予算と、人と、頭脳の粋を集めて召喚したのが、ゲームオタクと来たもんだ。そりゃ落胆もしたくなるだろうけど……でもな、別に俺のせいじゃないだろう、これ?

『お、お父様! お気を確かに! だ、大丈夫です! 魔王メルバは、必ず私が討ち取って見せます!』

『そ、そうですわ! 勇者はこんなですが、わ、私の魔法はローレント……いえ、このオーランド一です! 必ずや魔王を!』

『父上。こ度の失敗の責は、全てこの私にあります。どうか私にメルバ討伐の命をお降し下さい』

 麗しき親娘愛が垣間見える一幕だったが、考えてもみて欲しい。張本人前にして、『勇者はこんな』だとか『こ度の失敗』だとか……鬼か、お前らは。

『……ふむ。そなたら三人の気持ち、父はしっかりと受け取った。どの道、座しても死を待つばかり。そなたら三人に任せてみよう』

『『『はい!』』』

 元気に返事を返す三人娘。おーおー、良かったな。これで俺はお役御免って事だろう? 半年も日本に帰れないのは痛いっちゃ痛いが、まあ魔王と戦うとか、常識外れの展開に巻き込まれなくて良かったよ。

『そして……和真殿……と仰ったな?』

 そう思って、ほっとしていたのが行けなかったのかも知れない。この人の良さそうな顔をしたじーさん、とんでも無い事を言い出しやがった。

『そなたにも……この三人に同行して貰いたい』

『……は?』

『だから、そなたにも三人と一緒にメルバを討伐しに行って貰いたいと言っておるのだ』

 声にならない声、とはこういう状態を指すのだろう。アレだろ? それって、四人でパーティーを組んで魔王を倒しに行けって、そういう事だろ? つまり、事態は全く好転してないって……そういう事だろう?

『ちょ、ちょっと待って下さい! だ、だって、俺、何にも出来ないってさっき言いませんでした?』

 自分で言ってて悲しくなるが、事実は事実。こう言う事はしっかり伝えておかないと!

『分かっておる。しかしな、和真殿。そなたの召喚は、このローレント王国のみならず、オーランドに住まう全ての民が期待しておった、最後の希望なのじゃ。もし……勇者が使いものにならないクズだと知れたら……そして、そんな勇者を召喚する為に徴税をして、国家の経済を疲弊させていたと知れたら……どうなると思う?』

『言い方に何だか悪意を感じますが……俺なら、暴動を起こしますね』

 間違いなく。

『そうじゃろう? 今は、魔王という共通目的の為に、国民全てが一丸とならなければならない時。人間同士で無用な争いなんぞ、起こしている暇はないんじゃ。じゃから形だけでも『召喚は成功。人々を救う為に、勇者は魔王討伐の旅にたった』と言う事にしとかねばならん』 

『……』

 言ってる事は正論だし、分からんでも無いんだが……何だ、このハラグロは。『形だけでも』って。

『国の平穏を守る為なら、儂はどんな汚名も受ける覚悟じゃ』

 俺の言わんとしている事を察したか、王様が先回りして口を開く。

『……ちなみに断ったら?』

 俺がそう言った瞬間、玉間に詰めかけた兵士たちが、一斉に手に持った槍を俺に向けた。

『ちょ、これはずりーだろ! 痛い! さきっちょが当たってる!』

『どんな汚名でも受けると言ったじゃろ? それに、ホレ。親の儂が言うのも何じゃが、三人ともわしに似て美人じゃろ? どうじゃ? 旅先で『あーんな事』や、ましてや『こーんな事』があっても一切文句は言わん』

『図々しいにも程がある発言だな! おっさんの面影何か娘にコレっぽっちも受け継がれて無いわ! 大体アンタ、親父の癖に娘に対して『あーんな事』や『こーんな事』の許可を出すな! つうか痛え! さっきより深い!』

『メルバに世界を滅ぼされたらどの道一緒の事じゃからの。ここで串刺しにされるよりは、一縷の望みをかけて世界を平和にする旅に出てみるのも、一興では無いかの?』

『一興じゃね……痛い! 分かった! 出る! 旅に出る!』



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