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プロローグ いきなり魔王を倒します


「ついに……ココまで来たわね」


 俺の隣で、少しだけ震えた唇でそう告げる少女、『ローレントの剣姫』こと、ローレント王国第一王女、リーナ・フィル・ローレント。真紅の髪をポニーテールにざっくり結って、化粧っ気も無いのに、与える印象は『高貴』。腐っても……と言っては失礼だが、数々の戦闘でボロボロになった装備を着ていながらも、それでもこんな印象を与えれるのは、ひとえに持って生まれた高貴さ故だろう。

「……ええ。ココまで……来てしまいましたわね」

 リーナとは逆隣にいる少女も、リーナと同じ様に唇を震えさせながらそう言った。金色の髪と、真っ黒な衣装は『魔女』をイメージさせるが、さもあらん。この少女こそ、『ローレントの魔姫』こと、アリア・フィル・ローレント。リーナの妹で、凄腕の魔術師。いつも自信満々で、どんな事にも物怖じせず、堂々としていた彼女も、この決戦を前にしてはいつもの様に堂々と振る舞う事は出来ない様子だ。

「……なんだ、お姉様方。震えているじゃないか? ここまで来て怖いなどと言い出すつもりでは無いだろうな?」

 ショートカットに眼鏡の女の子がそう軽口を叩くも、彼女の声も若干震えてる。『ローレントの賢姫』と呼ばれた、ローレント王国の第三王女、シオン・フィル・ローレント。知的美人の彼女は、見た目通りバックアップが中心で自身でガチンコで殴りあう、なんて事は無い。『私は頭脳派なんだ。拳骨で殴り合う、なんてモノは粗暴な姉上と、和真に任せておくさ』と、一見クールに言っているが、実は自分のみが安全圏にいる(そんな事は無いんだけどね?)という事を誰よりも気にしていて、魔王の四柱の一人ゼナサンとの決戦で傷を負った俺が、『シオンに怪我が無くて良かった』というと、『何が良いんだ! 和真が傷ついて、私だけが後ろでのうのうとしているんだぞ! こんな……こんな辛い事があるか!』と、その瞳に涙を溜めて俺に抱きついて来てくれた事もあったりする。

「……それじゃ、行くか」

 俺の言葉に、『ローレントの三美姫』と呼ばれた三人の表情が一斉に強張る。まあ無理も無いか。そびえ立つその城を見上げながら、俺は溜息を一つつく。


 これから立ち向かう相手は『混沌と暗闇の覇者』と呼ばれた、魔王メルバ。


 この世界を混乱の渦に叩きこんだ、その元凶。今まで各国の軍や、名だたる強者たちが彼を討たんと立ち向かい……そして、帰らぬ人となって来た。その魔王メルバの住まう城に、俺達はこれから乗り込もうとしているんだ。緊張するなって方が無理があるだろう?


「どうした? 三人とも顔が暗いぞ? ビビってるのか?」

「び、ビビってるって何よ! そんな事無いわよ!」

「そ、そうですわ! 何を失礼な事を言っておりますの!」

「和真、君にそんな事を言われるのは心外だ。誰が恐怖していると言うのかね!」

 三者三様、口角を上げて主張するお姫さま方に、俺は苦笑を浮かべる。それぞれ際立った美人、という共通点はあるも、普段は全然似て無い三人が同じ様な反応を見せると、やっぱり姉妹だな~なんてのんきな感想も浮かんで来るってもんだ。

「な、なに笑ってのよ! ホントに失礼!」

 口を尖がらせるリーナに、ますます苦笑の色を強める。三人が見咎めるが、俺は手を振り、口を開いた。

「いや……似たもの姉妹だなって思ってさ」

「ますます心外だ。私を……このシオン・フィル・ローレントを、姉上方と同じ脳筋キャラだと言いたいのか、君は」

「だ、誰が脳筋キャラですか! 脳味噌まで筋肉で出来ているのはリーナお姉様だけですわ! そもそも魔術とは高尚な学問ですわよ!」

「ちょい待ち、二人とも。シオンもアリアも何失礼な事言ってるのよ! わ、私は別に何も考え無しで戦っている訳じゃないわよ!」

「どうだか。リーナ姉上はいつもいつも前衛で戦っているから、周りの様子が見えて無いじゃないか。猪突猛進も結構だが、フォローをする私の身にもなって頂きたい」

「そ、そうですわね! やっぱりリーナお姉様は……」

「他人事の様に聞いて貰っていては困りますね、アリア姉上。場所と場合を考えて魔法を使う様に何度も進言しているのに、貴方は見た目重視の派手な魔法ばっかりです。魔術は高尚な学問? は」

「は、鼻で笑いましたわね! 貴方こそ、いつもいつも宿屋で『発明』とか称して、部屋に籠ってウジウジと……なんでしたっけ? 和真の世界の……そう、『ひきおたにーと』という奴じゃありません事?」

「ひ、『ひきおたにーと』だと? た、確かそれは和真の世界で言う所の『社会不適合者』と同意であると聞いたぞ! ローレントの頭脳と詠われる私にその様な侮辱……断じて許せん!」

「そんな事言うなら私だって『ローレントの剣姫』よ! 剣を持って戦うのが、私の使命だもん! 後衛は貴方の仕事でしょ! それをグチグチグチグチと文句ばっかり……だから『ひきおたにーと』って言われるのよ」

「な! リーナ姉上までそんな事を! ゆ、許せん! 断じて許せん!」

 ぎゃーぎゃー喚く三人の美女を見つめながら……俺はこっそりと溜息をつく。ほれ、最終決戦の前だぞ? 何してるんだ、こいつ等は。

「はいはい、ストップストップ」

「止めるな和真!」

「そうよ! 止めないで!」

「そうですわ! この生意気ながきんちょと姉上を、私の魔法で黙らせて差しあげますわ!」

「……仮にも魔王との決戦の前で、パーティー仲間割れして全滅しました、なんて目も当てられんだろうが。元気なのは良いが、喧嘩は終わってからにしろ」

 俺がそう言うと、三人とも不満そうな顔をしながらも、小さく頷く。別に、意図してやった訳じゃ無いんだろうけど、良い感じに緊張もほぐれた様子。これなら……勝てるかも知れない、なんて希望的観測だろうか? ま、考えてもしょうがないんだけどね。誰かがやらなくちゃいけない事だ。それじゃ、さくっと魔王を倒しますか!

「……ありがとね」

 いざ進まんと足を一歩踏み出した俺に、かかる声。リーナだ。

「……何がだ?」

「うん……あのね」

 そこまで言って、言葉を切りリーナが妹達を見やる。

「……リーナお姉様が言って下さいまし」

「……そうだな。リーナ姉上が言うのが正統だろう」

 二人は納得したように頷く。その姿を見て、リーナが言葉を続けた。

「……私達の国の為に……ううん、私達が住むこの世界の為に……命の危険まで冒して、ここまで一緒に戦ってくれて……ホントに、ありがとう。この国を、この世界を代表して……お礼を言います」

 不意なリーナの言葉に、思わず顔が強張る。

「……どうした? らしく無いじゃないか」

「……うん。らしくないかも知れないわね。でも……これだけはどうしても言っておきたくて」

 そう言って、小さく笑うリーナ。良く見れば、アリアもシオンも、同じ様に優しい笑顔で微笑んでいた。何だよ?


「……ねえ、覚えてる? 貴方が初めてこの世界に来た時の事……」



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