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第6章 人が変わると悲しむ人もいる

練習試合が終わって次の日。俺はふつうに学校に行く。その前に、朝ごはんを食べることにする。

寮での朝ごはんというのは、まあそのまんまでみんなと一緒に食べることが基本とされている。だいたい、中学生は中学生で食べるし、高校生以上はなんかよくわかんないけど、男女で食べる場所がなんとなく決まっている。

「先輩!おはようっす。」

俺が朝ごはんに行くと、前に中谷君が並んでいた。

「おお!おはよう!」

こうやって中谷君と二人で話すというのもなんか新鮮である。普段は部活の時しか話さないしな。

「あれ、中谷さんと、藤浪先輩?」

中谷君の友達らしい人に声をかけられた。あれ、待って。この人誰?

「あ、どうも」

「藤浪先輩…俺、熊谷って言います。よろしくおねがいします。最近卓球部に入って数々の伝説を残してるって話題の藤浪先輩かあ。」

待って。俺が残してる伝説って何?そういえば、前にも確か、俺が中谷君たちといい勝負するって聞いたみたいなこと言ってた人がいたような。

「そうそう。昨日もライバル校のエース候補倒しちゃってさあ。まじで伝説の先輩だわあ。」

中谷君もそんなこと言うけど、いやいや何も伝説じゃないからね?ただの練習試合だからね?

そんなことより熊谷君か。あ、熊谷君って思い出した。確か足が速くて陸上部でトップで、全国大会行くんじゃなかったかな。名前だけは知ってたけど、声は覚えていなかった。

「熊谷君か。こちらこそよろしく。」

てなわけで、朝からなんとなく面白いできごとに遭遇してしまった。

とりあえず、並んで食事をとったわけだが、まあ同じ高校生男子なんだから、同じテーブル行くよね。

「ていうか熊谷、なんで藤浪先輩のこと知ってんだよ。」

「いやあ、俺は基本的に在学生覚えてるから。」

在学生の声覚えられるのか。それなりに感心する。俺なんて、同学年覚えるだけで精いっぱいだったしな。それとも、これが全盲と弱視の差か?んなことないよな。声で覚えてるやつだってけっこういるし。俺が覚えなさすぎなだけか。

「そういや、藤浪さんって、岩崎と中学同じだったんですよね?」

熊谷君にそんなことを聞かれた。岩崎…。岩崎といえば、確か先週ぐらいに卓球部に現れて、俺が追い返したんだっけ。あれ以来、彼女は元気なのだろうか。なんてことを考えているが、本題はそこではない。俺と岩崎が同じ中学だなんて、この人まじでいろいろ知ってるな。

「そうだけど。なんでそんなこと知ってるの?」

「あ、いや、俺岩崎と同じクラスなんすけど、岩崎が前に藤浪さんの話してたんで。」

そうか。どおりで覚えなさすぎと思えば、熊谷君って1年生だったのか。そして、岩崎がした俺の話っていったい何?もしかして、

『先輩にひどいことされた』

とか?いやいや、ひどいことをしたといえばしたけど、あれはあとで埋め合わせするつもりだったし、頼むから変な噂が流れていないことを祈るばかりだ。

「藤浪さん、昔バンドやってたんすよね?岩崎がボーカルやってたって話してたときに聞きました。」

「ああ、その話ね。そうそう、俺が中3で、彼女が中1のとき、ちょっとやってた。俺が受験で大変だったから、文化祭で演奏する程度だったけど。」

「へえ。じゃあ、なんで高校入ってからも続けなかったんですか?」

その熊谷君のなんとなくの問いに思うところがあった。俺が中学を卒業し、寮があるこの学校に入学した時、岩崎は俺とのユニットを解散させた。まあ、毎日練習できるわけでもなかったし、当たり前といえば当たり前なんだけど。地域離れてたし。

「そりゃ、学校が離れたからかな。」

「じゃあ、もう1回バンドやるんすか?」

「ばか!先輩は卓球で忙しいからそりゃないだろう。」

さっきまで話を見守っていた中谷君がそんなことをいう。たしかにそうだ。今は卓球で忙しいし、バンドに戻る気はない。卓球終わったら受験だし。

でも、そんなことを考えながら俺は思った。てことは、俺の都合だけで、俺けっこう岩崎を突き放してるんだな。

「そうなんすね。岩崎、音楽の時間でボーカルの才能を発揮しちゃって注目されてんすよ。」

「そうなの?それはすごいなあ。」

「今度カラオケにでも行くといいとおもいますよ。まあ、一緒にバンドやってた仲だったら、今更驚くことでもないのかな。」

カラオケ!それだ。岩崎とカラオケ行こう。久しぶりに彼女の歌を聴くのもよかろう。て、違うな。高校生男女が二人でカラオケとか、さすがにだめかな?

「ちなみに、藤浪先輩って、アニメみるんすか?」

「アニメ?なんで急に?」

「いや、アニメとか見てるんだったら、どんなヒロインが好きかなって語ろうと思っただけっすよ。最近はいろんなヒロインがいますから。年上から同級生から年下まで。しかも、年下一つとっても、いろんな人いるんすよ。なんかこう、コミュニケーション苦手そうだけど主人公に心開くタイプ、主人公よりしっかりしてて主人公をリードするタイプ、あとはもう主人公大好きすぎて主人公のためならなんとやらっていうタイプ。藤浪さんはどういうタイプが好みですか?」

普段アニメなんて見るほうじゃないけど、ヒロインのバリエーションってそんなにあるんだな。まあ、なんとなくフィーリングでその3タイプを比べるのだとしたら…。

「やめとけやめとけ!お前お宅トークに入ったら抜け出せないから。しかも、先輩に対して理想のヒロインとか聞かなくていいから。」

俺が答える前に中谷君にとめられた。まあ、それもそうだよね?て思った人はきっと、画面の向こうにいるはず…。画面の向こうについては深く言及しないことにするけど。

「あ、中谷さん、とめないでよー!」

「いいから、食べ終わったなら行くぞ!」

そういって、中谷君は熊谷君を連れて食堂の流しのほうに向かた。3年と1年なのに、朝から一緒に食事行くって珍しいよなあ。2年と1年だったら同室とかありそうだけど。


まあ、そんなこんなで朝ごはんを食べ終えて学校に向かう。

「ねえねえ、あれが藤浪先輩だって。」

「ええ?藤浪先輩って、あの卓球強い人?」

「そうそう。ぜんぜん知らなかったんだけどさ、なんかスポーツマンって思って眺めてみたらかっこよくない?」

「え!あ、あたしの視力じゃちょっとわかんないけど。でも、スポーツできるひとってかっこいいよね?」

どこからかひそひそ話が聞こえるんだけど、これなに?どうなってんの?

俺が教室に入ると、

「よう、藤浪ー!お前まじで有名人じゃん?」

「そうそう、女子たちが藤浪君のうわさしてたからびっくりしちゃった。藤浪君、卓球めっちゃできるんだね。ぼくもできるようになりたいなあ。」

なに、なに、なんで教室もこんなことになってるの?

「あ、いや、昨日は練習試合で…」

「あそこの1年生エース候補を倒したんだろ?いやあ、すごいわあ。あそこ、いろんなスポーツでエースになるようなやつらが入学していくからな。ほんと、視覚障害系の体育会系学校ってかんじだわあ。そこの新人に卓球初めて1か月のお前が挑んで勝ったっていうんだから、もうすごすぎっしょ!」

「え!あそこってそんなに強いの?だって、卓球はたしか2年生コンビにやられてたんじゃ?」

「卓球だけな。フロアバレーもグラウンドソフトボールも、ブラインドサッカーも、うちはあそこに勝てないんだよ。」

というわけで、朝からめっちゃクラスメイトに囲まれていた。まあ、いい話だからいいんだけど、なんでみんなこの話知ってるんだろう。卓球部以外知らないはずなんだけど。

「おお!雄太!なんか、昨日夕飯の時間に中谷が友達に卓球の話してたらこうなったらしい。」

と、太陽が教えてくれた。なるほど。中谷君、自分の結果言えなかったから、人の結果言ったのかな。

「あと、女子には高山さんが言ったらしいよ。」

とも教えてくれた。二人とも、俺の勝利がそんな嬉しかったんだな。それはとてもうれしいことだけど、それにしてもうわさ広がるの早くない?やっぱそこは生徒数少ない学校だけのことはある。


一方そのころ、その噂を聞きつけた一人の生徒がいた。初めて主人公以外の視点で書きます。読者の皆さん、文の質が落ちてもちょっと我慢してね。

なんで。なんで雄太先輩、こんな注目されてるの?確かに、卓球ができるっていうのでは話題だったけど、なんでみんな雄太先輩かっこいいとか言っちゃってるの?わたし、雄太先輩のことは中学時代に一番近くで見てきたのに。高校入って先輩はわたしから遠くなったっていうのかな。

いや、切り替えろわたし。何のために先輩を追ってここに入ってきたっていうの。せっかくだから、久しぶりに一緒に出掛けちゃおっかな。先輩のってくれるかなあ。

よし!行動あるのみ!!


そして視点は主人公のもとに帰ってくる。この切り替えってなんか逆に表現するの難しいと思った作者のわたしです。あれ、今回ちょっと登場しすぎですかね。


昼休みになった。まあ、俺には一緒にお弁当を食べる幼馴染なんていないので、食堂に行くことにする。一緒にお弁当を食べる幼馴染っていいよなあ。いいヒロインだと思う。あ、そもそも寮生活だったからそういうイベント発生しないんだった。

「雄太せーんぱーい!」

俺が教室を出ようとしたとき、そんな声に呼び止められた。この声には聞き覚えがある。というか、雄太先輩なんて呼んでくるのは一人しかいないのだ。

「おお!久しぶり!」

そう。朝から話題に上がっていた、岩崎百合。会うのは1週間ぶりかな。

「雄太先輩、すごいじゃないですか。朝からうわさの的になるなんて。それも、いいうわさの。わたし、雄太先輩におめでとうって言いたくて、1年の教室から食堂に行かず、逆方向の3年の教室まで来ちゃいましたよ。」

「それはありがとう!練習試合勝っただけなのに、こんなにうわさになって本人は困惑してるんだけど…」

「自信持ってください雄太先輩!そして、今度の大会勝って、目指せ全国です!」

岩崎はそんなことをいう。そういえば、今度の大会勝ったら全国行くんだっけ?すっかり忘れてた。というか、行けると思ってないから気にしてなかった。

「まあ、頑張る。とりあえず、昼行こうか。」

そんななんとも複雑な気持ちを抱えながら、俺は岩崎にたいして食堂に向かうことを促す。

「雄太先輩!今度、一緒に出掛けましょうよ。わたし、雄太先輩とひさびさに歩きたいです。」

そう。これが岩崎百合。いつだって俺が考えてることの先を行く。俺が誘おうと思ってたことわかっているかのように。

「いいよ。時間たったら受験とかで自由に出かけられなくなるし。」

「やった!じゃあ、また連絡したいので、ライン教えてください!」

岩崎はなんとなくその場で飛び跳ねていた。こうやってしっかりうれしいって表現されると、なんか照れる…。そして、俺もうれしくなる。

「あ、電話番号教えてなかったっけ?」

「ああ、わたし携帯変えて連絡先消えちゃったんですよ。ほんと、雄太先輩に連絡できなかった時期が寂しくて寂しくて」

「そ、そうか。わかった。」

ということで、しっかり連絡先を好感して、今度こそ俺たちは食堂に向かった。

ちなみに、忘れてないと思うけど、ここは3年の教室の前。通学していて教室で昼ご飯を食べる生徒二人ぐらいに、がっつり見られた。今度はそっちのうわさが立つのではないかとそっちのほうがどきどきするんですが…。まあ、1年の間でも俺と岩崎の昔が話題になってるみたいだし、今更

「同じ中学だったしなあ」

ですまされそうな気がしなくもない。というか、そうあってほしい。


というわけで、部活もない休日(今週の土曜)に岩崎と二人で出かけることになった。ちなみに、この前ラインを好感した江越さんのように、岩崎は文字で豹変するのか?ということを考えてみたのだが、どうやらそうではなかったらしい。というのを、ラインのトーク履歴をさかのぼりながら思う俺であった。

『岩崎です!雄太先輩、届いてますか?』

「ああ、届いてるよ。これからよろしくね。」

『やった!これで好きな時に雄太先輩と話せる!!雄太先輩、これでお互い男子寮や女子寮というところに閉じ込められてる間も、いっぱい語りましょうね!楽しみにしてます♪』

「おお!勉強の話とか、クラスの愚痴とか、なんでも聞くぞ!」

『ありがとうございます!じゃあ、今度出かける予定たてますか!』


といった感じで、やっぱりどんな媒体になっても、岩崎は岩崎だった。まじで、どうやってそんな長文打てるの?岩崎はやっぱ画面見えてるから打ちやすいのかなあ。なんか、これじゃあ俺が一方的にそっけないみたいになってるんですが…。

そういえば、岩崎、なんの躊躇もなく3年の教室に来たってことは、3年と面識あるのかな。いや、先輩の教室って怖いじゃん?俺だけ?

というわけで、朝から夜まで岩崎のことを考えていたら終わってしまった1日だった。とりあえず、出かける日を楽しみにしつつ、卓球頑張りますかね。

というわけで、今回も夜でちょうど区切りがいいので、おやすみなさい。


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