第1章 あこがれを抱くと何かきっかけがやってくる
こちらは、視覚障碍者であるわたしがサウンドテーブルテニスを通じて青春を描く物語です。
普段みなさんが見慣れないサウンドテーブルテニスや、視覚障碍者の青春なんかをしっかり味わっていってください。
そして、年下ヒロインばかりでてくるというのにも注目ですよ!
第1章 あこがれを抱くと何かきっかけがやってくる
出会い。それは突然にやってくるもの。
出会い。それはきっと運命のいたずら。
出会い。それはその先のあらゆる人間の方向性を変えてしまうこともある。
そう、俺は衝撃的な出会いを求めて、高校生活を始めた。何か面白い、自分のターニングポイントになるような出会いを求めて。
……。そんな出会いあるかあああ。2年たって、そんな出会いは一つもなかった。
俺の周りといえば、よくわからないお宅男子、そして陰口のひどい女子、極めつけには俺を怒鳴りつける教師。これのどこが出会いなんだよ。俺の運命、いったいどうした。
てなわけで、とくに何もないまま、俺藤浪雄太は高校3年生になってしまった。
「よう、雄太。」
「ういっす。」
「俺たち今日から3年生だぜ。かわいい後輩とか入ってくるかなあ。」
「いやいや、それ1年前に期待してだめだったろ。」
「待てって。今年の後輩は可能性あるかもしれないだろ?」
いや、こいつまじで何考えてるんだ。というか、いつまで夢見てるんだ。
「まあ、そんなやついたらいいな。」
「もう、つれないなあ雄太は。ちょっとぐらいギャルゲ展開想像してもいいんじゃないか?」
「俺は去年でもうあきらめた。」
おっと、こいつの紹介をしておくのを忘れていた。こいつは上田上田。まあ、その名の通り、明るいやつだ。
ほんと、親はいいネーミングセンスしてる。
そして、そんなどうでもいい会話をしながら、俺たちは学校に到着した。
「おっはよう」
今日も上田のあいさつは明るい。なんでこいつ、こんなテンション高いんだ。
「ああ、上田じゃん。この前発売された漫画読んだ?」
「読んだ読んだ。ある日俺はスポーツ少年になったてやつだろ?いやあ、あこがれるわあ。俺もいきなりスターになりたいもんだ。」
上田が言っているのは、先週発売された漫画のこと。高校2年までふつうに帰宅部してた男子生徒が、突如野球部に誘われて、3年夏の大会では4番を打つようになるというもの。俺も話は聞いていたけど、まあぶっちゃけ興味なんかなかった。だって物語の世界だろ?いきなりスターなんて。
「なあ、雄太。俺らも運動部入ろうぜ!なんか見えるかもしれないぞ。」
上田は、これぞ明暗とばかりにこぶしを突き上げる。
「やだよ。俺らはあれの主人公とは違って高3なんだ。今更運動部なんて。」
俺が腕で罰を作って誘いを拒否すると、上田はつまらなそうにする。
と、そのとき、威勢のいい女子生徒がこちらに向かってきた。
「こんにちは!卓球部入りませんか?」
まじかよ!ここで勧誘くるのかよ。彼女は身長160センチぐらいの体格で、髪は肩ぐらいまで伸ばしていた。
となると、当然、
「はいはい、やりまーす!」
上田が手を挙げる。やっぱ単純なやつめ。
「ほら、雄太もやるぞ。」
「え?いや、俺は…。」
俺が上田を払いのけようとすると、
「まじですか?二人も入ってくださるんですか?感激です!私、高山望っていいます。高2で卓球部の部長です。」
やはり、その気にさせてしまった。
「じゃあ、放課後体育館でお待ちしてますね。あ、3年だからとかぜんぜん気にせずきちゃっていいんで。」
いやいや、むしろそっちが気にしろよ。
「やったー!これで俺もスターだ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる上田。まったく、単純な奴だ。
「でもさあ、お前卓球なんてできるの?」
「当り前さ。一般卓球はできなくても、サウンドテーブルテニスならできる!」
おっと!俺はすっかり忘れていた。この本の世界が、どういう世界か語ることを。
説明しよう。ここはとある盲学校。つまり、視覚に障害を持つ人が通っている。そのため、ここの運動部がやるスポーツは、視覚障害関係がほとんどである。
サウンドテーブルテニスというのは、視覚障碍者の卓球で、ころがると、「ごろごろ」と音が鳴るピンポン玉を、ネットの下を通して打ち合うスポーツである。
毎年全国大会が行われている。
「そ、そうか。ここでやるのはサウンドテーブルテニスだったな。」
「いや、お前、主人公のくせにこの物語の世界観忘れるなよ。」
「まあ、そうなんだけど、どこにも紹介するタイミングなかったっていうか、なんというか。」
「まあいいか。とりあえず、放課後行くぞ!」
「お、おう!」
てなわけで、いやいや卓球部に行かされるという、なんとも微妙な高校生活3年目がスタートしたのだった。
そして放課後。
「雄太!卓球部行こうぜ!」
朝からずっとのりのりな上田が話しかけてくる。
「ずっとのりが続くってすごいなあ。まあ、冷めないのがお前のいいところなんだけどな。」
「おお!どうしたどうした。俺なんか褒めちゃって。何もでないぞ?」
「はいはい、すぐ調子に乗るのは悪いところだから。」
なんていいながら、卓球部が活動する体育館にやってくる。すると、上田が立ち止まりながら、
「なあ、どっちがドアを開ける?」
「いやいや、お前開けろよ。」
「やだよ。怖い顧問とかでてきたらどうすんだよ。」
上田はあからさまに震えていた。
「てか、怖いならくるなよ!」
「だ、だって。お願いだ雄太!ドアを開けるんだ!」
これ以上話し合っても無駄な気がしてきたので、俺がドアを開けることにした。
ドアは横にがらがらと開く方式で、すこし重かったけどすぐ開いた。てか、このドア、いつもの体育館と同じ、だよな?
「あ、こんにちは。本当にきてくださったんですね。」
ドアを開けた俺たちを出迎えたのは、朝俺たちを勧誘してきた高山望だった。
「おう!約束はまもるからな。」
上田が元気に答える。まったく、さっきのはいったいなんだったんだか。
「卓球部は私と江越さん、中谷君の3人で活動してるんですけど、4人以上メンバーいないと休部になっちゃうんです。だから、メンバー集めしてるんです。」
4人以上…。てことは、最悪俺は入らなくていいと。そっちのほうが偶数で楽になるんじゃね?
「顧問の先生はいるのか?」
俺は何気なく聞いてみる。こういう部活は、顧問が大事だからな。
「はい、平日の練習のときは金本先生が見てくれてますし、休日に練習するときは、掛布さんっていう外部コーチもきますよ。」
「が、外部コーチ…。すげえがちだ。」
上田がなんとなくおびえた表情を見せる。それもそのはず。廃部寸前とはいえ、外部のコーチを雇ってまで、この卓球部には何か成し遂げたいことがあるらしい。
「じゃあ、二人も自己紹介して。」
高山さんの合図に、まずは江越と呼ばれる女の子が前に出る。
「え、えっと…江越真奈美って言います。あの…話すのあんま得意じゃなくて…。よろしくおねがいします。」
話すの苦手で運動部にいるってのも、なかなか珍しい。どうせあれか。話さないけど、球は強い!みたいな。
「おっす!俺、中谷正樹!この学校の卓球部を世界に広める男だ!」
いやいや、その挨拶卓球部じゃないような。
「世界?それって、つまり、この卓球部にいればスターになれるってことか?」
いたいた。一番くいつきそうなのがいた!
「うっす!スターなんて夢じゃないっすよ!俺と一緒に、レッツプレイ!!5点マッチでいいっすね!」
「ちょっと中谷君!相手は初心者かもしれないんだから、あんま本気になっちゃだめだよ。」
これって、つまり俺らなめられてる?
「なに?俺は初心者ではない。体育の授業ぐらい経験はある!」
いやいや、それほぼほぼ経験じゃないから。
「よーっし!じゃあさっそく俺と試合しようじゃないっすか!先輩の実力、お手並み拝見!!」
なんか、嫌な予感しかしねえ。
「サーブは先輩からどうぞ!」
「おいおい、サーブレシーブはじゃんけんで決まるはずだろ?」
「いいんすよ。サーバーのほうが有利ですから。」
上田のやつ、完全になめられてる。大丈夫かなあ。
「藤浪先輩!」
「は、はい…!」
「中谷君が人にサーブ権を譲るなんてめったにないんです。この試合、何も怒らないといいんですけど。」
「どういうこと?」
「卓球部の人が少ないのは、実力に差がありすぎたからなんです。みんな、卓球にたいしてやる気なくしていっちゃって。残ったのが私たち3人。」
やっぱりそういうことか。あの中谷って人も、部長の高山さんも、そしてほぼほぼだんまりの江越さんも、みんな強いんだ。
「よし!行きます!」
上田がボールをセットする。
「はい!」
相手の返事を確認してから、上田がサーブを打つ。サーブはセンターラインよりすこし右、そのコースは…。
次の瞬間、ボールは上田側のエンドフレームにはね、台に乗った。
「セーフ ポイント中谷 ラブワン」
「なに!リターンが早い!!」
なんだ今の。センターラインより右側のうちごろのコースに転がっていったまではわかった。でも、そのあと中谷君のラケットに当たったボールは、速攻で上田側のエンドフレームに到達していた。
「くそ!こうなったら、とっておきのサーブをお見舞いしてやる!」
上田がボールをセット!
「いきます!」
「はい!」
上田は、相手側のサイドフレームを狙ってショットした。これなら、相手は打ちにくいし、自分は左半分を守っていればいい。
しかし…。中谷君が打ったのは、再度からセンターラインより右側にいくクロスのスマッシュ。完全に読みが外れた上田は茫然としていた。
「セーフ ポイント中谷 チェンジサービス ツーラブ」
無理だ。上田にこの状況を変える手はない。相手のほうが上手すぎる。
「くそ!でも、リターンなら。」
ボールをセットする中谷君。
「いきます」
「はい」
センターラインとサイドフレームのちょうど真ん中あたりから放たれたボールは、一瞬にして上田のコートのセンターラインよりすこし右のエンドフレームに当たって台に乗った。
「セーフ ポイント中谷 スリーラブ」
「なんだと!サーブも早いのか!」
また中谷君がボールをセットする。
「いきます」
「はい」
中谷君は、また同じ方向にサーブを打った。
それを上田はラケットに充てるが…。そのボールは相手コートに到達する前に、サイドフレームのないとこから地面に落下した。
「リターンミス ポイント中谷 チェンジサービス ラブフォー」
「くそ!当ててもいかねえのかよ。0点なんかで負けてたまるか。」
サーブは再び上田に。
「いきます」
「はい」
上田が打ったのは高速サーブ。これなら…。
「フォルトネット ポイント中谷 ラブファイブ」
あっさりサーブはネットでゲームセット。
「くそ!」
「先輩!スターになるってのは、そんなに簡単じゃないんすよ。なんの憧れでうちに入ってきたか知らないっすけど、そんな夢物語を持ってるなら、うちにはいりません。ここのメンバーは、本気で世界を目指すんです。」
世界…。確か、STTは、世界大会なんて行われてなかったはず。じゃあ、彼が言う世界っていったい。
「俺たちは、STTがパラリンピックの協議になることを願ってるんす。でも、願うだけじゃだめで。だから、俺たちが積極的に発信できるように、強くならなきゃいけない。」
そうか。この人たちは、本気でSTTを世界に広める気なんだ。そんな中に、俺たちが変な理由で入るのはおかしいよな。
「帰るぞ上田!お前もわかっただろ。」
俺が上田を促し、扉に手をかけようとしたとき、
「待ってください!まだ、藤浪先輩の力見てないんですけど。」
俺たちを呼び止めたのは高山さんだった。
「いや、俺なんて別に…。」
「中谷君がいうことも一理ある。私たちは、世界を目指して戦っています。でも、この協議を広めるためには、まずは楽しいって思わせることも重要だとおもってます。先輩たちも、まずは私や江越さんとのラリーから始めてみませんか?」
「高山!お前、うちのレベル下げる気か。」
「中谷君。この部活は、即戦力を求める部活じゃないの。今はぜんぜんでも、いつか大会で活躍する。そんな部員がいてもいいとおもわない?」
「でも、先輩たちの相手してる間に、次の都大会きちゃうだろ。」
やっぱり俺たちは迷惑なのかな。俺たちがいないほうが、卓球部は発展するんじゃないだろうか。
「その点は部長の私が責任取るわ。それに、先輩たちは3年生。半年間だけ新しい選手育てると思えばいいのよ。」
「あの…さ…」
突如口を開いたのは、江越真奈美だった。
「それぞれ目指すところって違うと思うんだよね。部活って、それでいいとおもうんだ。だから、無理に合わせようとしないで、もっとのびのび卓球しようよ。」
のびのび、確かにそうかもしれない。なんのプレッシャーもない、純粋に楽しむところから道が開けて、それでうまくなったら退会優勝とか、そういう道が見えてくるんだよな、きっと。
「わたしは、先輩たちの入部、大歓迎です。」
「江越さん…」
「私も、ぜひぜひ入ってほしい。勝ちたいって思うだけじゃ、失ってしまうことだってあるとおもうし。」
「わかったよ。そのかわり、高山はちゃんと運営するんだぞ。」
中谷君も納得してくれている様子だった。よかった。でも…。
「わりい。俺はやっぱパスだわ。」
「上田、どうして。」
「なんていうかさ、このスポーツ、根気がいるじゃん?俺には合わないなって。」
「いやいや、お前がやらなかったら、俺やれないじゃん。」
「やれよ、雄太。お前ならいける。」
「んなこといったって。」
「中谷、藤浪と勝負してやってくんない?俺とやったように、5点マッチで。」
「ちょっとまてよ。俺やるなんて。」
「いいから。普段の体育で、お前を見てるから言ってる。お前なら、俺みたいな無様な負け方はしない。」
そういわれると、言い返す言葉はない。上田のやつ、俺の姿見てたのか。褒められたら、ちょっとはもえてくる。やろうっていう気になる。
「いいっすよ。さっきの5点だけじゃ物足りなかったんで。」
「頑張れ藤浪!」
こうして、俺と中谷君の練習試合が始まる。俺のサーブ。
「いきます」
「はい」
俺のサーブはセンターラインとサイドフレームの間に転がるボール。このサーブなら、敵のリターンは、おそらく真ん中にくるはず…。
予想通り、中谷君のリターンは、高速で真ん中へ。これだけスピードがあれば、当てるだけでも相当な速度で帰るはず。ネットにかけないように、ボールが弾まないようにしてボールをとめるつもりで当てる。
しかし、それでもリターンが返ってくる。強い。これが世界レベルか。
結局、10回ほどラリーが続き、中谷君のリターンが、俺のエンドフレームではねた。
「セーフ ポイント中谷 ラブワン」
「やるじゃないっすか先輩。リターンうまいっすね。」
俺にはこれしかない。まだ、相手をせめる方法なんて知らないけど、とりあえず、相手の球をとってとってとりまくる。そして、相手がミスをするのを誘う。
「いきます」
「はい」
俺が打ったサーブはサイドへ。さっきの上田との勝負の時、彼は逆に打った。だったら、来るのは右側!
しかし、球は左側へ。慌てて打ったが、球はサイドから外に出て落ちた。
「リターンミス ポイント中谷 ツーラブ」
次は中谷君のサーブ!
「いきます」
「はい」
中谷君のサーブは、高速でサイドフレームへ。しかし、サイドフレームは俺の得意ゾーン。サイドフレームに行くには、球の速度を落とさなければならない。それをうまく利用して、ボールがくるところで狙い撃ちした。
結果、俺が打った球は相手コートの角にはねて台に乗った。
「セーフ ポイント藤浪 ツーワン」
「なに!俺が失点するだと!」
「よっしゃ!いいぞ雄太!」
「すごい!あの中谷君のサーブからリターンエースとるなんて。」
周りから賞賛の声が上がる。でも、きっと彼は油断していただけ。次同じようなリターンをすれば、確実に拾われてしまう。
「いきます」
「はい」
中谷君のサーブは、ラインぎりぎりに打つ玉。サイドに構えていた俺としては、追いつくことができない。
「セーフ ポイント中谷 チェンジサービス ワンスリー」
やはりサーブは入っていたか。
「先輩、筋はいいっす。だからこそ、卓球の時はいろんな技が必要なんすよ。」
確かに、彼の言うとおりだ。同じ手を使っても、何度も通用するわけじゃない。通用しないとわかったら、別の手を使わなければならない。それができるかできないかというのが、勝てる人と勝てない人の差なのかもしれない。
俺が打てるサーブは、再度に打つか、ラインよりすこし右にうつかのゆっくりサーブのみ。となると、リターンで勝負するしかない。
「いきます」
「はい」
俺が選択したのは、サイドをなめるように動くサーブ。これなら、リターンのスピードは緩む。そして、きっと左側を狙ってくる。
やはり、ボールは左側。俺はその球をゆっくり真ん中に打ち返す。さあ、こい!
中谷君が打ったボールは浮いてネットに。
「リターンミス ポイント藤浪 ツースリー」
「なに!それを狙ってたのか。ラリーして、俺のミスを誘う作戦なのか!」
これしかない。打ち負けずにどんな球にも食らいつく。それがエースの攻略法。
「いきます」
「はい」
俺が打ったのは、ラインぎりぎりにいくすこし早いボール。相手がサイドマークなら、これで崩せる。しかし…。
中谷君が打ったボールは、そのまま転がって俺の手に当たった。
「ハンド ポイント中谷 チェンジサービス フォーツー」
なんだ今の。打球の方向がまるでわからなかった。球がテレポーテーションしてきたような。
「いきます」
「はい」
中谷君のサーブは真ん中へのスピード玉。これなら打ち返せる。
「こんこん」
俺のラケットに、球が2回当たった。
「ダブルヒット ポイント中谷 ファイブツー」
こうして、俺のあがきは実らず、俺は敗戦した。
「藤浪先輩、いい筋してますよ。俺の球をとるなんて。しかも、ミスを誘える。」
「私も驚きました。ぜひ、卓球部に入ってほしいです。先輩なら、きっと私たちと一緒に世界に行ける。」
「いや、俺はその…」
無理だよ世界なんて。俺は上田に強引に連れていかれたような存在。今更このメンバーで世界を目指すなんてできない。
「頑張れよ雄太!お前俺より才能ある。」
「いや、でも…」
俺が入部に躊躇してると、上田が思いっきり俺の肩をたたいた。
「ふざけんな!お前には実力があるだろうが。それを無駄にしてどうすんだよ!!お前言ったよな。高校生活はつまらない、出会いなんてない、どうせ今年も同じだって。確かにそうかもしれない、高校入ってていいことなんてないのかもしれない。でも、見てみろよ。こいつらのお前に対する顔を。お前にこんなに期待して、歩み寄って、一緒に強くなろうって言ってくれてんだぞ。期待するしないは自由だけど、今までいいことがなかったなら、自分から変わってみろよ!!」
俺は何も言い返すことができなかった。確かに、今までの2年間、何もしてこなかったのは俺自身だ。だから、みんな俺を避けてきたんだ。俺が変わらなきゃ、周りも変わらない。
「わかった。俺でよければ、やらせてください。」
「やった!部員一人獲得!」
「上田、お前はどうする?」
俺は上田に向かって振り向いた。
「ばーか!お前に偉そうに言って、逃げ出すわけにはいかねえだろうが。俺もやるよ。」
「ありがとうございます。でも、上田先輩は基礎からですね。」
高山さんが上田に向かってほほ笑む。なんか意地悪というか、上田に対しては上からだけど、それでもなんかしっかり者の後輩っぽくてかわいい。
「お、おう!部長からの直接指導なんて、もえるなあ。」
「先輩!望みに手を出したら、許さないんで。」
中谷君が、二人の間に入る。
「う、うわあ。お前ら付き合ってたのか。」
「まあ、そうっすね。」
俺は一つ疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「じゃあ、江越さんの役目は?」
「え…わたしは…。望みについてきたっていうか…なんていうか…」
「真奈美は、私の友達。入部した時に一人じゃ心細かったから手伝ってもらったんです。それでずるずると。」
いいじゃん。2年生の仲良し3人組ってことか!2年3人に、3年二人。悪くないじゃん!
「んじゃ、先生来る前に、基礎練やりますか!サーブ練習20本ずつ」
20本…。すごいな。そう思ったのは俺だけじゃないらしく、
「に、20本。ひい…。」
上田は今でも走り出しそうだった。
「慣れればこんなの楽勝です。さあ、中谷君!私たちから行きましょ!」
「おっす!」
こうして始まった、卓球部員としての生活。これからどんなことがあるのか、ぜんぜんわからないけど、まずは退会に向けて練習あるのみ。
上田、高山さん、江越さん、中谷君。みんなで、世界に行こう!
俺は今日、そう誓った。そして、高校生活で卓球をしていてよかったって、卒業式の日に言えるように、これからを充実させていくことを誓った。