第一章
拙作ですが、よろしければお読み下さい。
カチッ、カチッ、カチッ。
点かない。
カチッ、カチッ、カチッ。
点かない。
カチッ、カチッ、カチッ、ボォ。
やっと点いた。
社会人なりたての頃からの愛用のジッポなのだが、最近どうも調子が悪い。
よれた煙草に火を灯し、まずは一服。
ゆっくりと煙を肺に落とし込み、一気に吐き出す。
口から立ち上った紫煙は上へと流れるが、すぐに天井にぶつかり下へと帰ってくる。
行き場を失った煙は、狭い喫煙所の中に立ち込めていた。
ガラッ。
吸い始めて数分経った頃、喫煙所のドアが開く。
立ち込めていた煙達は、我先にとドアの向こうへと旅立っていく。
--ガチャン。
ドアはすぐに閉められ、逃げ場を失った煙は再び室内に停滞した。
「邪魔するよ」
入ってきたのは、片手にゴミ袋を持った掃除のおばちゃんがだった。
首から下げてある名札には白川と書かれている。
「ほら、吸い殻を回収するから、ちょっとどいとくれ」
俺は言われるままに壁に張り付く。
ここの喫煙所は、喫煙者の肩身の狭さに比例するように狭い作りになっている。
今や目にすることもほとんど無くなった電話ボックスを流用し、本来電話機が置いてあるべき台座に、申し訳程度に灰皿が置いてあるだけなのだ。
さすがにこの扱いはいかがなものか。
というか、そもそも喫煙自体は遙か昔から多くの発明家や文豪やらが愛好し……。
「はい、お邪魔様。存分に吸ってちょうだい」
「あ、はい。いつもありがとうございます」
社交辞令的台詞だが、これは本当そう思っている。まぁ、伝わらないだろうけど。
「あんた、なんだか顔色悪いけど大丈夫かい?」
「ふえ?」
予想外の返答。思わず返事を噛んでしまった。
そんな俺を気にするわけでもなく、掃除のおばちゃんもとい白川さんは話を続ける。
「仕事熱心なのはいいけど、ちゃんとしたもの食べてるの?今は若いから無理できるかもしれないけど、そのツケは年取ってからズシーンと来るわよ」
「お、仰るとおりです」
まぁ、好きでこんな生活してるわけではないのだけれど……。
「あら!? 目の下の隈もすごいじゃないの! もしかしてまともに眠れてないんじゃないの?」
「なかなか帰れないもんで……」
すでに3日完徹というこの状況を、是非そのまま労働基準監督所に伝えてほしいです。はい。
「それに煙草も身体に良くないわ。まぁ、止めろとは言わないけど、吸い過ぎは駄目。精々一日5本とかにしときなさい」
「……あ、はい。……善処します」
「まぁ、ほどほどにね」
ひとしきり話して満足したのか、白川さんはこちらに背を向けた。
「あ、そうだ。あんた檜山さんだろ? 所長さんが探してたよ。何でも大至急で所長室に来てほしいって」
煙は変わらず、行き場を求めるように立ち込めていた。
読了ありがとうございます。
続きます。