魔法少女ボトルン
三島由紀夫の生まれ変わりを自負する、倉本保志の投稿第3弾。気弱で平凡な主人公たかし、たかしは、借金があり、それを返済するためについ出来心で 会社の金を横領してしまう。しかしまじめな性格なため、すぐに自分のしたことを後悔し、風邪を理由に会社を休み、どうするべきか、思い悩みながらシーズンの過ぎた海水浴場の浜辺で、ぼんやりと海を眺めている。衝動的に、入水自殺を思い付き、水の中を胸までつかりながら沖のほうへとゆっくり歩いて行く。そこに流れ着く小瓶、そのなかには魔法使いを名乗る少女がいた。たかしは、その少女に魔法の力で助けてもらおうとするのだが・・。
魔法少女ポトルン
たかしは、心身ともに疲れ切っていた。何も考えたくない、そう思いながら、浜辺で夕陽の海をただ、じっと眺めていた。
「・・・何で横領なんかしたんだろう、たかが50万円で、人生棒に振るなんて、ああ、最悪だ・・どうしよう・・。」
たかしは、砂の上に胡坐を組むと、頭を抱えたまま、動かなくなった。
暫くして、あっ・・・と小さく息を漏らしたかと思うと、ひょいと立ち上がり、何かに取り憑かれたように、重い足どりで水際の波をかき分け、そのまま、夕日が反射する水面を分け入るように進んでいった。
浜辺から10メートルは進んだろうか? 前方、3メートルくらい先の水面に、キラキラと光りながら漂うものを見つけた。
「・・・・何だろう?」
それが、小さなボトル、瓶であることはすぐに分かった。夕日が反射して美しかったので、しばらくそのボトルを眺めていると、それははむこうから、たかしの胸元に流れてきた。
「・・・・あれっ 中で何か動いてるぞ。」
たかしは急いでその瓶を拾い上げ目の前で大きく振ってみた。
「きゃあ、何するの 痛い、痛い やめて」
女の声、正確に言うと女子の声が、瓶の中から聞こえてくる。
「わっ・・・なに、これ・・・? フィギュア・・・?」
「でも いま しゃっべったよな ?」
たかしは もう一度 緑色をした、ガラスの瓶の中を覗いた。、
間違いない。中には、女子が大きく尻もちをついた格好で座っていた。
「ちょっと、いつまで覗いてるの、早く出してよ、ねえ。」
彼女は眉間にしわを寄せて 少し怒ったような口調で、言った。
「えっ? ああ、・・・うん、 このコルクを取ればいいのかな・・」
状況をしっかりと確認できてはいなかったがが、瓶を開けるよう強く促された為、たかしはおもむろに瓶のふたを開けた。強く言われると、良し悪しを考えず、言いなりになってしまう、昔からのよくない癖だった。
ぼわわわん 白い煙がたちこめ、目の前には等身大の女子が姿を現した。
「ごほっ・・・ごほっ」「 呼ばれて 飛び出てジャジャジャじゃ~ん」
「・・・・・?」
「ちょっと、何シカトしてんのよ。ハクショん大魔王、知らないの?」
「えっ・・いや・・ちょっと・・・そっち系は・・」
「はあ~っ ノリ悪いわね、見た目も、ぼよぼよのダッサダサじゃん、っていうかモロ、そっち系じゃん。」
「あっ・・・でも一応お礼は言っとくね、ありがと 出してくれて」
「どういたしまして」
たかしは少し、はにかんで笑った。
「それより、よく見つけてくれたわね、この時期、ここまで海に入ってくる人、珍しいけど
おかげで助かったわ。」
彼女はそういうと、たかしの顔を見た。
「ま、とにかく砂浜へ戻りましょうよ、冷え性なの、わたし」
二人は浜辺へ戻る頃には、日はすっかり西に沈んで、丸い街灯が辺りを照らしていた。
「あのさ・・なんで?」
「えっ・・・? なに・・?」
「なんで君、瓶の中に入ってたの。」
「あっ、ああ・・・ そこ? 」「わたし、実は魔法使いなの、魔法使いボトルン 」
「この瓶は、まあ わたしの乗り物ね。」
「そうなんだ。僕、魔法使い見るの初めてだから、びっくりしたよ。」
「年の割には純情ね、それともただのバカ・・かしら?」
「なにかいった・・?」
「いいえ、こっちのこと・・・で、あなたは何? どうして水ん中にいた訳・・・?」
「その格好で海水浴でもないでしょうに?」
たかしは少しうつむいて、小さな声でわけを話した。彼女はたかしの話を、こしを折ることなく最後まで聞いていた。
「ふうん、そうなんだ。でも、悪いひとには全然見えないけどな」
「魔がさしたんだ。目の前の札束を見た瞬間、あ、僕の会社、金融関係だから、札束なんか見慣れているんだけど、あのときは違った。耳元でささやく声がしたんだ。この金で借金を返せばいいじゃん・・って。」
「悪魔の囁き・・? よくあるパターンね、で、我に返っていろいろ考えたけれど、結局どうすればいいのか分からず 思い悩んで、入水自殺を目論んだってわけか。」
「ああ、ほんとにバカだった。もうおしまいだ。できるなら事件を起こす前の世界に戻りたい。」
たかしは、がっくりとうなだれた。
「あなた、本当に反省してるの?」
たかしは何も答えず、うなだれたまま、首を縦に振った。
「じゃあ、戻してあげようか? 事件の前に・・」
「えっ・・・ほんと・・・? できるの・・・?」
たかしは眼の色を変えて、彼女を見た。
「言ったでしょ私、魔法使いだって 時間を戻すことなんて簡単よ」
「ほんと・・ ほんとにできる・・?」
たかしは少女の顔をそのままじっと見つめた。少女の口元が少しだけ笑っていた。
「その50万円、今 ここにある・・?」
「持ってるよ・・・これ、」
たかしは、黒い鞄の中から札束を取り出すと、彼女に手渡した。
「あと、自分の通帳とカード、できたら印鑑と免許証も出して」
「えっ・・・?」
「早く出して、時間を元に戻したいんでしょ・・早くっ」
彼女の強い言葉に、たかしは 自分の通帳、カード、印鑑など一切を彼女に渡した。
「これで全部ね。」
「うん・・全部だけど・・。」
「じゃあ、さっそく始めるね、あなた、ここに立って目をつぶって」
「うん」
たかしは彼女の言うとおりにした。少し変だな・・と感じてもいたが、魔法で、自分の横領をなかったことにできるのなら、些細なことにかまってもいられない。まさにワラをも掴む思いだった。
「いくわよ、魔法の呪文、ボトルン ルンルン オネガイネ タイム イズ モドルンデス」
さあ、大声で、繰り返して、
「キエエッ ボトルン ルンルン オネガイヨ タイム イズ モドルンデス~」
たかしは言われたとおり、大声で呪文を唱えた。体は小刻みに震え、無意識に両手を胸の前で組んで必死に叫んだ。
「ほいっ」
彼女は、自分が入っていた瓶を取り出すと、たかしの頭の上に素早く載せた。
ぼわわわわ~ん
白い煙が立ち込め、一瞬あたりが見えなくなった。煙が晴れた後には、彼女だけが小さな瓶の前で、腕組みをして 一人 立っていた。
彼女は瓶を手にとって顔の前までもっていくと、不敵な笑みを浮かべながら、小声で言った。
「居心地はどう・・?」「 私 その中に3年も入っていたんだから。」
瓶の中でたかしが、ガラスを叩きながら叫んでいた。、状況を把握できずにパニクっている
「わたしのこと、酷いと思ってる?でも、私もそうだったの、アイドルとして散々働かされて、人気がなくなったとたん、ゴミを捨てるようにその瓶に入れてポイ、ちなみに私の所属事務所って、社長が、のび太っていうんだけど、変なロボットから不思議な道具をもらって、自分勝手にやりたい放題、この瓶もその一つみたいね。あっ ちょっとおしゃべりが過ぎたみたいね、じゃ、そういうことで、このお金と通帳、カード などなど、いただいておくわね。」
「酷いじゃないか、時間を戻してくれるって、あれはうそだったのかい・・?」
たかしはようやく状況を把握すると、彼女に泣き言をいった。
「出来る訳ないじゃん、魔法使いじゃあるまいし、」
「えっ・・?それも嘘だったのか・・ひどい・・信じてたのに」
「騙してたことは、謝るわ、ごめんなさい」
「僕は君を、ボトルンを、瓶の中から助けたんだぞ、それを、こんな、恩を仇で返すような真似をして・・本当に酷い、君は悪魔だ、最低だ。ハクショん大魔王だあああ、」
「あなた本当になにも知らないのね。大魔王さんは、とってもイイ人なのよ。わたしなんかよりずうっとやさしいの・・・」
「大魔王のことなんていいよ、それより ぼくはどうなるんだい?」
たかしは膝をついて、うなだれた首を持ち上げて、彼女を睨んだ。恐らく、ひとをこんなに強く睨んだのは生まれて初めてかも知れない。
「そうね、3年かな・・4年かな、運が良ければ、もっと早く 誰かに拾ってもらって、外に出られるかも? 運が悪ければ・・一生そのままなんてことも、」
重たい空気が二人の間を一瞬のうちに取り囲んだ。
「ごめん、ちょっと言い過ぎたかしら・・。」
「あっ でも安心して、その中で、何も食べなくても全然健康に生きていけるから、うんこも出ないし、しかも頑丈だから、鮫が、かじっても平気だし、とにかく、無事誰かに拾われるまでは絶対死なないようになってるはずよ、だって、未来の道具なんですもの ネコ型ロボットの・・ふふふ」
「いやだああ・・・、出せ、ここから僕をだせ、お願いだ、出してくれ~」
たかしは、ありったけの力を搾りだすと大声で叫んだ。彼女は全くと言ってもいいほど、心を動かす様子もなく、昆虫を見るかのような目でたかしを見ると、
「じゃあ、ほんとに最後ね、無事、誰かに見つけられることを祈ってるわ、さよなら・・」
そういって瓶を、沖のほうへ放り投げた。瓶は、きれいな放物線を描いて飛んでいき、ボチャリ と悲しい音をたてて波間に落ちた。
冷たい夜風が彼女の頬をやさしく撫でて、通り過ぎていった。
「さ、軍資金も手に入ったことだし、世の中に、もう一度リベンジね 頑張るぞ」
彼女は 浜辺を後にした。
「おいっ・・・ せめて、もっと岸寄りに投げろよ、女のくせに、どんだけ放り投げてんだよ、」
「こらあああっ」
たかしの皮肉を込めた、最後の、精一杯の、悲しい叫び声は 、彼女には 届かなかった。
おわり
魔法使いの少女と平凡な男子のよくあるキャラ設定ですが、話の展開が奇抜で、作者の才能が十二分に発揮されていると思います。爆笑という感じでもないのですが、なにか、どこかおかしい そしてアンビバレント、アイロニカル そのバランスがうまくとれた作品だと、手前味噌ですが思っています。ものすごい量の作品のなかに、また、埋もれてしまうのかと思うと少し残念ですが、まあ、いつか私の才能が評価されるときがくることを確信していますので、これからも、あせらずに、気長に投稿していきます。