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願望転移(仮)  作者: 咲音
3/10

1-3

 やがて青年はゆっくりと目を開ける。

 その瞳は鈍く光る鋼色──彼の髪と同じ。

 そして何度か瞬きしたあと数拍。

 青年は飛び起きた。

 呆然と自分の手を握ったり開いたりする。まるで自分の存在が信じがたいかのように。

「この魔力……」

 一頻り確認したのか青年が真綾の方を向いた。

「あんた……いえ、あなたが私を助けて下さった“愛し子”ですね」

「……い、いとしごってなんでしょう?」

「ああそうか、創世主が無知と仰っていたな……」

 青年は見た目に違わず、声も美しかった。

 聞き惚れて最低限しか返せない真綾にまるで構わず青年は跪く。

「《我、鉱石族(メタリカ)はタマハガネのキリエ、この度再臨叶いし故に、我が肉体を御身に捧げん》」

 キィィイン、と金属を打ち合わせ続けたような音が響く。それが青年の発した声だと真綾にはなぜか判った。その意味までも。

「今の声、は? それに捧げるとかなんとか……」

「主は金打(かなうち)の声を聞き取れるのですね」

「あ、主っ?」

「私は鉱石族ですから」

(主? メタリカ? 金打(きんちょう)なら武士が約束するときに鍔とか鳴らすっていうのだったけど? )

 既に真綾の頭の中はクエスチョンマークだらけである。そんな彼女を置いて話は進む。

「……詳しく話した方が良さそうですが、先に聖樹へ向かいましょう。“森”の深部で夜を越すのは自殺行為ですから」

「せいじゅ? もり?」

「話は後に」

 ひゅん、と真綾の頬を何かが掠めた。

 ゆっくり横を向く。細く枝分かれした鋼が、鋭い角付きのウサギに似た生物を貫いていた。

「ホーンラビット──弱いですが素早く、十分に殺傷能力を持つ魔物です」

 ()()()()()()()()()、青年──キリエが言う。

「急いで魔物のいない安全な場所に行く必要があります。いいですね、主」

「ハイ!」

 青ざめた顔で、真綾はキリエの後を追いかけた。



 その後、魔物(青年曰く雑魚)に襲われること十回を超え、何回か死ぬかと思った(でも青年のおかげで無傷)後。

 青年は結構強いらしいと知った夕暮れ時に、やっと聖樹へと辿り着いた。

 一見、草原にぽつんと生える大樹である。

 しかしそれだけではないとすぐに知ることになった。

「丁度日が沈んだな。……主、聖樹に魔力を流して頂けますか」

「えと、とりあえず触ればいい?」

「それで結構です」

 青年を直した時のように魔力の流れを意識してみる。

 ぼう、と触れたところから幹が光り始め。たちまち聖樹全体が淡く光った。

 不思議な光で、聖樹の周りだけ昼間のように明るい。

「これでいい、の……っ!?」

 青年が鋼の手でホーンラビットの皮を剥いでいた。

(……そうだよね。よくあるネタだもんね。血抜きだってしてたもんね)

 今夜の夕食なのだろう。多分。

 昼間から魔物をさくさく倒していた(青年が)ので、大分感覚がマヒしているようだ。

「なにか?」

「えーと、故郷だと、解体するの見たことなくて、びっくりして、」

「そうですか。──イグニシオン(火よ灯れ)

 ぼっ、と地面に焚き火程度の火がついた。早速指から生やした鋼の串に肉を突き刺し、炙っていく青年。

「あつくないの……?」

「魔火ですので。元々この程度の炎ならフィードバックも然程ではないですから」

「まび。魔法の火」

「そうです」

「身体がこう、色々変わるのも魔法?」

「鉱石族は本来そういうものです。広い意味では魔法かもしれませんが」

「どういう」

「魔法がなく、普民族(ヒュムノ)だけという主の世界ならば、普民族以外の種族は魔法のような」

「ま待ってそれって、」

「焼けましたよ」

 ずい、と青年が肉付きの鋼串となった左手の小指を伸ばしてくる。

(まさか、“あーん”、だと!?)

 真綾が固まっているのを何か勘違いしたのだろう。毒味する、と人差し指の串から肉を食らった。

「魔力を使ったので疲れているはず。食べなければ体が保ちませんよ」

 そうじゃない。

(だって“あーん”だぞ? それもイケメンからの“あーん”だぞ? いいのか。本当にいいのか。イケメン君、……たしかキリエ君?よ。本当に、こんな会ったばかりの女に“あーん”をしていいのか? いいのか? 色々誤解するぞ? しちゃうぞ?)

「主?」

「あ、ん」

 覚悟を決めて“あーん”する(食べる)。

 口の中の肉が無くなると、また“あーん”される。

 繰り返し繰り返し。

 ──違う。

(餌付けだ!)

 “あーん”みたいな甘いものでは決してない。

 心はしょっぱかったが、魔物肉は想像以上に旨かった。


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