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暫く書きため分を連続投稿します
目が覚めたら草原でした。
……ちょっと待て。シンくんどこだ。
真綾が見回しても誰もいない。何もない。本ッ当にない。
地平線なんて初めて見たレベルで何もない。
あるのは無限に続きそうな草地とこの身一つ。いや、何か入ってるっぽい肩掛けカバンが……空だ。
「いきなり放置プレイですか……」
ハードル高ぇなオイ。
愚痴ったところで仕方ないので取り敢えず立ち上がってみる。
心なしか視界が高い気がした。なんとなしに下を見ると服が変わっている。なんだろう、東欧の民族衣装とか言ったらそれっぽいかもしれない。そんなワンピースタイプの服だ。靴もなんかそれっぽい。ぴょんぴょんしてみる。……うん、意外と歩きやすい。
空を見る。太陽はちゃんと(?)一つあった。少し眩しいけれど、太陽の方向へ歩いてみよう。
こうして、真綾は異世界での一歩を踏み出した。
が。
「無理無理無理無理ッ!」
すぐに引き返す羽目になった。
虫が追いかけてくるからである。
巨大な。
毒々しい。
芋虫毛虫蜘蛛百足蜚蠊その他諸々が。
「やっと、消え、た……」
真綾は土の上に倒れ込む。ショッキングピンクの蜂が居なくなったところだった。
しかし休めはしない。間もなく出現した巨大竈馬に追われる。
そうこうするうち真綾は確信した。この草原では虫の化け物が出現する。しかしそれらは真綾を多少追い掛けはするが、攻撃はしない。そして虫と逆方向にある程度逃げると消え失せる。よってあの虫に対して立てられる仮説は二つ。
一つ、対象をどこかへ追い込もうとしている。
一つ、対象を危険から遠ざけようとしている。
真綾としては後者を推したいが何分見た目が見た目である。どうみても罠にかけようとしているモンスターにしか思えない。元々虫は嫌いだ。
(シンくーん私に癒しをプリーズ)
そう思ってみても何も起こらない。せめて状況の解説役は欲しかった。
なんて気がそぞろになったからだろうか。
「だっ」
真綾は転ぶ。
「痛ったいなー、なんなのこ、れ……」
虚ろな瞳が真綾を射抜く。
それは人の頭だった。
否、──よく見ればそれは砕けた人間の一部と言うべきか。
折れ曲がった四肢にひしゃげた胴体。
しかし傷口は血の赤でなく金属特有の光沢でもって鈍く輝いている。
咄嗟に周囲を見れば、そこかしこに錆びた武器や何とも知れぬ骨が散らばっていた。
「うぇぇー……どうしろと……」
気分としては虫よりマシだが、長居するのはマズい気しかしない。取り敢えずナムナムはしておく。さらにこけた時に蹴ってしまった頭部を拾って撫でた。流石に蹴ったままは祟られそうで怖い。
(なんか死んでる気がしないんだよね)
精巧な人形のように整った青年の顔。それなら血の気がないかというとそうでもないのだ。今にも喋り出しそうな、手足をくっつければ歩き出しそうな。
「……」
真綾はそっと頭部を横たえ胴体と近付けた。傷口同士の金属が重なる。
そして。
「──ァ゛」
「ぉおう……!」
頭が胴体と接続されたためか青年が声を発した。そのまま何かを訴えるような目で真綾を見る。
「……」
「え、何?」
「……マ、……りョ、く……」
まりょく。魔力とな。なんとファンタジーな。
いや、そうではなく。
「魔力、え、必要ってこと? どうすればいい」
「……チ……」
「ち?」
えっ今舌打ちされた? いやまさか、きっと別の単語だ。きっと、うん。じゃあなんだ?
ふと見れば、青年の腹の傷口はナイフのように鋭い。
……血?
「ちょっとお腹触るよ」
一応断ってから傷口に触れる。その一辺に指を滑らせた。
瞬間、感じたのは身体から流れ出る違和感。その何かは青年の身体を繋げ直し、傷口を埋め、修復していく。
(──これが、魔力)
やがて青年はその服までもが修復される。
一方の真綾は倦怠感に包まれながら切り傷の痛みに小さく呻いた。