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浴衣は見せるために着る 8

 「はいホラ、じゃあ貼るよ用意して」

と事務的に言って絆創膏のシールを剥がすと、足の指を広げて待つタダが言った。

「なあ、なんかエロくね?」

「は!?え!?」

「なあ?」

「あんた何言い出してんの!?」

「いや、なんかこういう感じが」と自分と私を指す。


 いや。キモいんだけど。

「あんたさあ…前も言わなかったっけ私。あんたみたいな子がそういう事言うの、ほんと似合わないんだって。ヒロちゃんじゃないんだから」

「ハハハ、なんかそういう事言ってたな!ヒロトだったらそういう事言っても別にいい、みたいな」

「いや別にいいなんて言ってないよ。キャラだよキャラ。ヒロちゃんならまあまあ許されるって事!ダメだよ?タダがそういうのクラスの女子の前で言ったりしたら引かれるから」

面白そうに笑ってタダがうなずく。「わかった」

 …でも…もしかしたら女子のみなさん、逆に大喜びするかもしれないけど。



 「はい」と片方、絆創膏を二重に張り終えて、「反対」と偉そうに言う私だ。でも当然だよね。ここまでサービスしてやってんだから。

「ん」と返事して足を変えながらタダが言う。「ほんとはすげえ助かった。どこ連れてかれんのかと思ったけど」

「みんなの前で気を使って我慢してんのかなってちょっと思ったから」

「そっか。まぁちょっと痛いかもって思い初めてたんだけど、ヒロトの前で言いたくないじゃん」

「なんで?」

「カッコわりぃから」

「なんでヒロちゃんだよ?ずっと一番仲良いのに?」

「オレはヒロトより断然カッコわりぃから、余計な弱みを見せたくない」

「そうなの!?」そんな風に思ってたの?「以外」

「そう?」

「…もしかして私に言われるのもほんとは嫌だった?」

「なんでだよ?今助かったって言ったじゃん。…すげえ嬉しかった」

へ?と思ってしゃがんだままタダを見上げると、ニッコリと本当に嬉しそうに笑っている。 

 なにそんなに嬉しそうなんだよ、私には弱みを見せてもいいの?って思いながら、本当に嬉しそうに笑ってくれた事でちょっとキュンと来てんのおかしくないか私。



 キュンと来た自分が急に恥ずかしく思えて、もう片足の分の絆創膏のシールをはがしながら話を変えた。

「さっきヒロちゃんと二人で残った時ね、ヒロちゃんが前に私が告った時の事、今さらありがとうとか言い出したんだよ」

あんたは笑ったけどね。

「…へ~~~」と私の頭の上から気の無さそうな相槌を打つタダ。

「それで私の前でユキちゃんと仲良くするのは、ほんとは私に悪いと思ってるんだって」

「…そっか」

「それでね…私の事、妹みたいなもんだからってうちのお母さんの前でも言ってくれたんだけどさ、それでもずっと大事に思ってくれるんだって。…あんたやユキちゃんと同じように大事なんだって、結構真面目に言ってくれてさ。ユキちゃんが一番大事なくせに。妹みたいとか言ってさあ、ヒロちゃん私より誕生日遅いくせに」

 ヒロちゃんが涙を拭いてくれた事も、本当は世界中の人に話したいくらいだけど秘密にしとこ。私とヒロちゃんだけの秘密だ。

 

 でもタダが気のない相槌も打ってくれなくなったので、もうその話は止めて絆創膏を貼り終え、「ハイいいよ」と言った所で、いきなり抱きしめられた。


 「ぎゃっ!」と思わず声が出た。だって当たり前だ。ビックリする!

「ちょっと!…え!?タダ!?ちょっと!」

「うん」

「いや、うんじゃなくて」と言ったら、タダは私の耳元でハハハと笑った。 

耳の上の方がゾワッとして、うわっ、と肩をすくめてしまう。

「いや何も面白くないよ!」と私は焦る。「ちょっとって!」

「うん」

「もう!ちょっ…もうタダ!何してんのビックリするってもう!」

「うん」

「いや『うん』じゃないって!浴衣汚れる!」

 しゃがんだまま変な体勢で抱きしめられていたので足が痛いから膝をついてしまいそうだ。

「ごめん」と言いながらタダがやっと離してくれた。

 ごめんて言ったけれどタダの顔は笑っている。抱きしめられている間はただビックリしていたが、離されてから、そしてそのタダの笑顔を見て頬が熱くなる私だ。ビックリした!ビックリした!ビックリした!ごめんじゃないし。

 どういうつもりか聞きたいが聞けない。パッと立ち上がって、もうタダの顔は見ないまま、「もう戻る」と言って先に急いだ。



 

 歩くごとにドキドキする。なんでドキドキしてんだって話だ。なんで急にあんな事するんだ!

「大島」とタダが後ろから呼ぶが私は立ち止まらない。そのままヒロちゃんたちの所まで帰ると、ヒロちゃんが私の顔を見て、「どうしたん?」と聞く。

「…どうもしない」

「トイレか?」とヒロちゃん。

「え、いや…」と言いかけたところにタダも戻り、元のように私の隣に普通に腰かけ、そしてヒロちゃんが続ける。

「ユキが一緒にトイレ行けば良かったつってな、ちょっとオレが一緒に行ってくるわ」

え!?今タダと二人にされるのはちょっと!



 花火も今は上がっていなくて、花火を提供したスーパーや企業の名前がアナウンスされている。    気まず過ぎる!なんで急にあんな事しといて今普通?やっぱ私の事好きだからか?でも急だよね?急にあんな事しちゃダメだよね?

 タダに気付かれないようにそっとタダとの間の隙間を広げると、「もう一回謝った方がいいような気もすんだけど」とタダがぼそっと言うのでビクッとする。

「でも謝らない」

 なんだそれは!

 

 何言ってんだと思ってタダとの隙間を一気に一人分くらい空けた。

「だってな、」とタダ。「感極まった」

 感極まった?

 …傷に気付いて絆創膏貼ってやった私の親切に感極まったって事?


 ちっ!、と心の中で大きく舌打ちした。

 無駄にドキドキさせやがって!バカじゃん!

「絆創膏なんか、」と、しらけた口調で言ってしまう。「タダが頼めば大概の女子は喜んで貼ってくれるんじゃないの?もう無数に体中貼ってくれるって」

「絆創膏の話じゃない」

「じゃあ何?」

「いろいろ」

 …わけわからん!


 「あんたさあ、」と思い切りタダを睨んでしまう。「ちょっと女子にモテるからって…絆創膏貼ってあげたくらいで簡単にあんな事するとか信じらんない!」

「…だから絆創膏の話じゃないつったろ」

「…」

「…」

「…」

無言で睨み合ってしまって、さっきの事を思い出して目を反らしてしまった。




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