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浴衣は見せるために着る 6

 「すげえいい場所取れたな」

ヒロちゃんと二人残してもらって、嬉しいとは思いながらも急激にソワソワしそうになって心が慌て始めた私に、ヒロちゃんは全くいつもと変わらないトーンで話してくれるので、私も出来るだけいつもと同じように出来るように頑張る。

「うん。タダが見つけてくれて」

「ユズの家まで迎えに行ったん?イズミ」

「うん。…でもタダ、めんどくさくないのかな」

「めんどくさいわけねえわ」

食い気味で否定する友達思いのヒロちゃんだ。


 ヒロちゃんが続ける。「この間姉ちゃん喜んでた。ケーキうまかったって。オレもうまかった」

ヒロちゃんのお姉さんのミスズさんから水着をもらったお礼にケーキを持って行ったのだ。

「良かった。あれもタダがお姉さんに聞いてくれて」

「あ~~イズミの事、姉ちゃん気に入ってっからな。むかしっから」

「お姉さんイケメン好きだよね」

「女子はみんなそうだろ。…ユズは違うけどな」

「そんな事はないよ」

イケメンにもいろいろあるんだよ。私の中ではヒロちゃんが一番カッコいいもん。

「あ、」とヒロちゃんが言う。「ユキも違うかな」

「…」

そうだね、って素直に言えない。


 「なあ、」とヒロちゃんがちょっと笑いながら言う。「ユズもイズミの事、カッコいいと思ったりとかすんの?」

「タダはすごくカッコ良いと思うよ。クラスの女子にもタダの事すごい好きな子いるし、別クラの女子とかまで来たりするよ。ちょっと怖いくらいだよ。先輩たちにも見られたりとか」

「へ~~すげえな。中学の時もまあまあモテてたけどな。最近またグレードアップしたよな」

っとに…タダの事ばっかり喋るね。


 「…ユキちゃんが、浴衣じゃないの残念でしょ」

聞くと、「あぁまあな」と素直に答える。

 やっぱりね!


 「ユズはその柄似合ってるな」

「…」

ふいに言われて驚いた。さっきはちょっとふざけて答えたのに、ヒロちゃんが私を褒めてくれてる!

 もじもじしながら「ありがと」と言ってる自分がちょっと恥ずかしい。

 けれど、「ユキがな」とヒロちゃんが言うのでドキッとする。

 ユキちゃん、やっぱり何かヒロちゃんに言ったのかな。私が海でユキちゃんに言った事、ヒロちゃんにも言ってしまったかな。

「ユズと友達になりてえって」

「…」

「ユズの事いつもすげえ聞きたがって…」

マジで…「どんな事?」

「ちっちゃい時に一緒にやった遊びとか、いろいろ」

「ふうん」

「『おにご』したり『どろけー』したりしたよな。オレはお前にハンデをたくさんやった」

「そうだね。ヒロちゃん運動能力高かったもん、よく私みたいなどん臭いのも混ぜてくれたと思うよ」

「いや、ユズはムキにならないっぽく見えるのにムキになって追いかけてくるから結構面白かった」

「そうなの?」なんか嬉しい。「タダも引っ越して来た時は体力なさそうな感じの子だったのに、ヒロちゃんとずっと一緒にいたから逞しくなったよね」

「それはイズミに言ってやれよ。ぜってえ喜ぶから」

「タダはヒロちゃんといる時が一番幸せそうだよね」

「そうかな?」と言ってヒロちゃんは私を見てニッコリ笑った。「そんな事もねえぞ」

 可愛い!!久しぶりに間近で見たヒロちゃんの満面の笑顔ゲキヤバなんですけど!

「イズミは良いヤツだよな。なんかこうゆったりしてんのにしっかりしてて、やっぱちっちぇ弟がいるからかな。一緒にいると一番しっくりくるっつうか…」

「それタダに言ってやりなよ!」

「そうか?」

「そうだよ」

「恥ずくて言えねえわ、そんな事」

「そうだね!」



 普通にたくさん喋れて嬉しい、と思ったところにヒロちゃんが静かに言った。

「イズミと同じくらいユズもな、あと、ユキもな。オレにはすげえ一緒にいると楽で楽しい」

 わ~~~…


 わ~~~…あ~~~…ん~~~~…嬉しいけど、すごく嬉しいけどユキちゃんも出したね。

「…ありがと」と言うと、ヒロちゃんが指先でコスっと私の頭を優しく突いた。

「今の言うのも結構恥ずかしかったけどな。1回ユズにはちゃんと言っとこうと思って」

「…」

 

 ヤバい…胸がすごくズキュズキュしてきた。痛い。

 「ユズ」とヒロちゃんが言う。「こんなオレに2回も告ってくれてサンキューな。そいでユズの前でユキと仲良くして申し訳ないとは思ってるからな、ちゃんと。でもそんなのオレが気にしてたら、お前嫌だろ?そんなんオレじゃねえみてえだし」

「…うん」

「こういう事二人の時に改まっていうのもオレじゃねえみてえ」

「…うん」

「前ユズんちのおばちゃんに言った事は本当だから」

 海に4人で行った前の日に私にミスズさんの水着を届けてくれたヒロちゃんが、うちの母に『ユズとはずっと一緒にいるから妹みたいな感で、これからもずっと仲良くやっていきたいと思ってる』って言ってくれたのだ。

「…うん」


 ヤバい…どうしょう泣きそうだ。泣いちゃダメだよね。こんなにちゃんと話してくれてんのに。それにさっき、ユキちゃんよりも私の名前を先に出してくれた。ユキちゃんの事を好きなのに、私に気を使って先に名前を言ってくれた。

「そいで」とヒロちゃんが続ける。「ちゃんと可愛いく見える。今日は」

「え!?」

今ヒロちゃんが私を可愛いって言ってくれた!

 言ってくれた!!

 言ってくれたよね!?


 「…ヒロちゃん…あの、ごめん、今の、も1回言って…欲しいんだけどダメかな」

「は?今言ったのも相当恥ずかしかったぞ。お前舐めんなよ?すげえちっちぇ頃から遊んでるヤツにわざわざ『可愛い』とか言うの、どんだけサブイボが出るかっつう話だよ」

「…うん…そうだよね…」

「もう~~~大サービスだぞ。可愛い!今日のユズはすげえ可愛いよ」



 「うわ…」とヒロちゃんがちょっと身を引いた。「もう~~ユズ~~~~なんで泣くんだよ」

「…うん」

「うん、じゃねえよ。泣くなって」

「うるさい泣くよ!嬉しい事言うからヒロちゃんが」

「お前がも1回言えっつうからだろ!」

「ひどっ!無理矢理みたいに言って~~」

「泣くなってもう~~。あ~~失敗した。別の時に言えば良かった。ほらもうアイツら帰って来るって」

「へへへ」

「なに今度は笑ってんだよ、気持ちわりいぞ」

「うん、ごめん」だって悲しいけど嬉しいもん。

 私が目をこすろうとするのをヒロちゃんが止めて自分の指で優しく拭ってくれた。

 うわもう…妹発言を3回目に数えると、4回目振られました、みたいな事なのはわかるんだけど、今が私の一生の中で一番幸せかも。



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