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浴衣は見せるために着る 5

 「いや」とタダが言う。「嫌か嫌じゃないか聞いてる」

嫌じゃないけど、『嫌じゃない』なんて答えるのは恥ずかしいし上から目線な気もする。他に良い答え方を探すがとっさに浮かばないので、「タダはめんどくさくないの?」と聞いてしまった。

 「わざわざ迎えに来てくれたりしなくても大丈夫だよ?」

じぃっと私を見つめるタダ。

 

 まずい。良かれと思って言ったのに変な感じになった。

「いや男子ってめんどくさいの嫌いじゃん。…よくわかんないけど」と言ってみる。

「大島はそれ、本当にオレが嫌かもしれないと思って言ってんの?ちゃんと楽しみにしてるって言ったよな?一緒にここ来んの」

いや、そんな真面目な顔で言われたら目を反らすしかないんですけど、距離もまあ近いし。

「すぐ目ぇ反らすしな」と呆れたように言われる。

「だって、…なんかそういう事聞かれるの恥ずかしいじゃん」

「自分が先に聞いたろ」

「そうだけど」

「嫌なん?嫌じゃないん?どっち」

「…嫌じゃないよ」と暮れて来た川向こうの空を見ながら答える。「だってタダはヒロちゃんの次に話し易い男子だし」

「ヒロトの次な。オレは大島が一番話易い女子だけど。オレが転校して来た時からあんま変わんないし」


 うわ…なんか無暗に一瞬ドキッとしたのに、小学の頃と変わんないって言われた…。まあいいけど。

「それはヒロちゃんが私によく話しかけてきてくれてたから、一緒にいたタダも話し易かっただけだよね」

「うん…まあそうかな」

「でもあの、今日もありがとうってちゃんと思ってるよ。この間もミスズさんのお礼とかも…ありがと」

「ん」

よし、という感じでタダがうなずきながら、ふっと後ろを見て、「うわっ!」と声を上げた。


 その声に振り向いた私も声を上げた。「ぅわ」

 「何してんのヒロト」とタダ。

 ベンチから少しだけ離れた木の陰からヒロちゃんとユキちゃんが出て来たのだ。びっくりした。



 え?ユキちゃん!?…浴衣じゃない!

 ユキちゃんもヒロちゃんも浴衣を着ていない。普通のTシャツとジーンズだ。ヒロちゃんは黒のTシャツ。ユキちゃんは黄色で胸に緑色のカタツムリのイラストが付いている。

「なんでそんなとこいんだよ」とタダ。

「いやビックリさせようと思ってこっそり来たら、」とヒロちゃん。「なんかお前ら良い感じだったから思わず様子を伺ってしまった」

「伺うな」とタダ。

そうだよ…しょっぱなからヒロちゃんに、「タダと良い感じ」って言われたよ…。

 「こんにちは」と、ほんのちょっと私を見る目が揺らいでいるように見えるユキちゃん。「あ、こんばんはだね。ユズちゃん可愛いな」

 私はタダを伺う。なんでこの人たち浴衣じゃないの?ヒロちゃんも浴衣着るような話してたじゃん。観たかったのに!!

「ヒロト浴衣は?」と、それを察知してくれたのかタダが聞く。

「ユキを迎えに行くのに、やっぱ地味目の普通の服の方が印象いいかなって思ってな」

 ヒロちゃんがそんな気を使うなんて!



 「…ユキちゃんは」と私が聞いてしまう。「ヒロちゃんに合わせて浴衣止めたの?」

「ううん!」勢い込んで否定するユキちゃん。「違うよ。私ガサツだから。歩きにくいし。こっちが楽だから。でもユズちゃんすっごい可愛いね!この前の水着姿も可愛かったけど、今日の浴衣すごく似合ってる。すっごい可愛い!」

 褒めすぎだよね。自分でも今日は普通の時よりは可愛いかなって思ったけど、ユキちゃんがこんなにあからさまに褒めてくれるのは…やっぱりこの間の海での事をずっと気にしてくれてるからだ。私の方がずっと前からずっとたくさんヒロちゃんを見て来たし、大好きなんだってユキちゃんに言ってしまった事を。


 

 「ねえほら、」とユキちゃんはヒロちゃん言う。「ユズちゃんすごく可愛いね!」

わ~~ヒロちゃんには振らないで欲しい。ヒロちゃんこういう時に良いコメントくれた試しがないから。

「お~~、なんつうか、」と私を上から下までじろじろ見て、そしてタダを見て言った。

「イズミと良く似合ってるな」


 最低だよねヒロちゃん、じろじろ見られて内心キュンキュンしてたのに。

 もしかしてヒロちゃんはタダと私をくっつけたいのか?私を2回も振ったもんだから、その気まずさもあって、取りあえず誰かと私をくっつけようとしてない?

 そう思ったところへユキちゃんが言った。

「ヒロトって最低。今ユズちゃんの浴衣姿の事言ってんの。ユズちゃんの事だけ見てよ」

 ユキちゃん…完全に海での事を気にし過ぎてくれてる。


 

「う~~ん」ともう一度ヒロちゃんが私をじろじろ見る。

止めて恥ずかしい。良いコメントくれるわけでもないのに。

「もういいよヒロちゃん無理になにか言おうとしなくても」

「いやほんとに可愛いとは思ってっけど実際イズミと似合ってるし、いや、ユズ、喜んでも良くね?オレが言うのも気持ち悪いけどこんなイケメンと似合ってるって言ってんのに」

 ちっ!とユキちゃんが舌打ちした。

 ユキちゃんの思いもよらない悪態に、ヒロちゃんは『へ?』て顔になり、私は単純に驚き、タダは笑っている。


 まあ…もういいや。一応とってつけたようにだけど可愛いって言ってくれたし。…つってもなぁ…ユキちゃんが無理矢理言わせてくれた感強いからな…

 もうしょっぱなから負けた感あるよね。そう思った所に極めつけ、ヒロちゃんが言った。

「いつもよりちょっと胸あるように見えるかも。中に何か入れたん?」

 母に着つけしてもらう時にタオル巻かれたよね。隙間空くとか言われて。

 うん、とちっちゃくうなずく私に「やっぱな」としたり顔のヒロちゃん。「っ…」と笑いをこらえるタダ。そしてヒロちゃんのわき腹をゴスッと拳で殴るユキちゃん。

「ちょっ!ユキ!なにすんだよ急に痛ぇわ」殴られた所を摩りながらヒロちゃんが言う。

「知らん!」ときっぱり答えるユキちゃんだ。


 


 「じゃあまあユキ。食いもん買い出しに行こうや」とヒロちゃん。

「いやだよヒロトとは行かない」

ユキちゃんがそう答えるとヒロちゃんは驚いた顔で、「何でなん」と困ったように聞く。

「あ~~」とユキちゃん。「じゃあ私とタダ君とで行ってくるから、ヒロトはユズちゃんと待ってて。ね?タダ君。…タダ君て!」

 なぜだか少しぼんやりしていたらしいタダにもちょっとキレかかるユキちゃんだ。「タダ君早く来て」

「あ~うん」とタダ。「じゃあ行くかな」


 タダ。

 と残念に思う。あんたがヒロちゃんにアピールする手伝いしてくれるんじゃないの?ユキちゃんにそんなポジション取られたら私も困るし。

 でも…ヒロちゃんと二人残されるのはやっぱり嬉しい。お情けをもらっているような気もするんだけど、それでも嬉しいと思っちゃう切ない心だよね。


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