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浴衣は見せるために着る 4

 シャトルバスの乗り場に並んでからもタダは、結構道行く女子にチラ見ガン見されていた。後ろに並んだ私は、その女の子たちの浴衣をこっそりチラ見する。やっぱりピンクと白系が多いな。ユキちゃんどんなの着て来るかな。私のはやっぱちょっと地味だったかも。この柄好きだけど。


 バスが来て、順番で乗り込んでいくと、先に乗ったタダが席に座る前に私を窓際に座らせてくれてから横に座った。まぁシャトルバスだから詰めて行かないと後の人が困るけど、海に行った時みたいだな。結構幅もキツめの座席に、すぐ横に男子が座るのは、他の男子より慣れているタダでも少し緊張する。

 通路を挟んで横に座った、中学生くらいのやはりピンク系の浴衣を着た女の子二人がタダを見て、「カッコいい~」とささやき合っているのが聞こえる。小さい声にしているつもりなのだろうが、花火大会と浴衣を着ているという状況からかテンションが高くなって、聞こえてるよ、と思う。私に聞こえてるわけだから、タダにも聞こえてるよね。

「高校生だよね」と通路側の中学生A。「浴衣メッチャ似合ってる。隣、彼女かな、うらやまし~」

いや、彼女ではないよ。恥ずかしいから私の事は見ないで欲しいな。

「浴衣の色、お揃いっぽいね」とB。

紺色系ね!柄は全然違うからね。



 タダがどんな顔で聞いてるんだろう、と思ってチラッと横目で見る。

 ほらほら、言われてるよタダ、と思っていたらタダがぼそっと言った。

「ユズル」

「へ!?」

「ヒロトはユズって呼んでるよな。だから敢えてオレはユズルって呼んでみようかと思う」

「なに急に言い出してんのビックリする。…ていうか、ビックリするんだけど」

「2回言うなビックリすんな」とすぐ横にいて私を見て優しく笑うタダにドキッとしてしまう。

「いや、ビックリするよ…なんでそんな事急に言い出した?」

…もしかして今の中学生の子たちの話が聞こえてたよね?聞こえてたのにこういう事急に言うって…こいつ本気で私の事…

「もしかオレが呼ぶとしての話な。ヒロトとの差別化」

「…」


 はいはいはいはい…もし自分が呼ぶとしたらって事ね。ヒロちゃんと同じ呼び方はしないって事ね。

「大島」とタダが私をいつものように呼ぶ。

「なに?」

「別になんも」

「…」

 なんだこいつ…



 お客を満杯に乗せてシャトルバスが出発する。40人乗りくらいのバスに、通路まで乗せてぎゅうぎゅうだ。それでも通路向こうの中学生の声が聞こえる。

 「やっぱ彼氏とか隣座ったら」と中学生女子B。「手とかさぁ、恋人繋ぎでずっと繋いでてほしいよね」

「さりげにね」とA。「女子はさ、繋ぎたいと思ってんのにさ、繋いで来ないから男子」

 そうか中学生でもそういう風に思うよね…私もヒロちゃんで数えきれないくらい妄想したよ。


 ぷっ!

 ちょっと吹き出すような音がして、ピクッとする。

 タダが私の膝の辺りを見て、笑って手の甲でちょっと口を押さえてる。

 へ?あっ!

 中学生たちの話を聞きながら、自然と膝の上で広げて見つめていた自分の手の平をぎゅっと握った。

 

 「なあ」まだちょっと笑っているタダが私の方へ頭を寄せてきてこそっと言う。「隣の子ら、オレらをカップルだと思って、そんでオレが手もつながねえからダセえって思ってるよな?」

急に近付けてきたタダの顔にビクッとしながら「大丈夫」と答えた。

「大丈夫?何が?」

「だって、…カップルじゃないじゃん」

「そうだな!」面白そうにうなずくタダ。

 その私たちを女子中学生二人は揃って見て、私と目が合うと気まずそうに体勢を戻した。




 半月山運動公園までシャトルバスで約15分かかった。直接自分の車で行く人たちも多いみたいで道が込んでいた。先に着いた方が着いた事と待っている場所を連絡する、とタダとヒロちゃんが予め決めていたらしくさっそく連絡していた。

 半月山公園の裏手には大きな河があって、その向こう岸から花火を打ち上げるのだ。タダがヒロちゃんに連絡をして、私たちはこちら側の河岸から続く土手の上の眺めのいい石のベンチの一つで待つ事にした。

「ここに4人で座るの?」とタダに聞く。

ちょうど4人掛けくらいの長さだ。私とタダは今、隙間を一人分くらい空けて腰かけている。

「ここだと浴衣汚れないんじゃね」

「まあ…そうだけど」

ヒロちゃん達来たら、どの順番で座るのかな…


 「ヒロトの隣に座れるようにしてやろうか」とタダが私の心を読んだように言う。

それでユキちゃんはどこに座るんだ?

 他のベンチや土手の上の芝生の上にも敷物を敷いた人たちが来た順に場所を取っていく。もう缶ビールや缶チューハイを飲んでいるグループもいて、いつもの公園の雰囲気とは全く違う。

 ベンチの脇の通路を通る女の子たちがタダをチラッと見ていく。そしてその隣にいる私の事も。まあ、こんな感じで空けて腰かけてたらバスの中みたいにカップルには間違われないと思うけど。

「タダさぁ、今日いつもよりも女の子に見られてるね」

「そうかな」

「気付いてないの?」

「う~~ん…と、ビミョー。そんな事聞くな」

「恥ずかしいの?」

「恥ずかしいわ」

そうなんだ。


 私を彼女だと思われるのは嫌じゃないのかな。

 そう言えばタダはさっきのハタナカさんたちみたいに、女の子に囲まれる事はあったけど、特定の女の子と付き合ったりした事はないと思う。私の知ってる範囲では。もし誰かと付き合ったりしたら、ヒロちゃんが面白がってみんなに言ってたと思うし、タダはどんな可愛い女の子に囲まれてる時より、ヒロちゃんといる時が一番楽しそうだもんね。

 …そういえば私もタダ好きの女子から嫌な噂を立てられた事があったな中学の時。タダと仲良くなりたいからヒロちゃんと仲良くしてるんだって。ヒロちゃんは家も近くて小1の時から仲良くしてくれてて、中学も高校もこのままヒロちゃんの近くにいれたら…と思ってたところにタダが小6で転校して来て、ヒロちゃんはもうタダとばっかりいるようになったのだ。まぁどっちにしろ中学生になったら小学生のノリのまま男女仲良くするのは難しかったとは思うけど。


 「私とカップルだと思われて嫌じゃないの?」

つい、聞いてしまった。だってヒロちゃんとミスズさんが、タダが私の事を好きなんだって言うし、うちまで迎えに来てくれたし、花火大会一緒に行くの楽しみだって言ってたし、さっきは名前呼びまで…

 が、ふん?と一瞬驚いた顔をしたタダがじっと私を見つめてきたのでパッと反らしてしまう。

「あ、ごめんなんでもないや」と慌てて言う。

「大島は?」とタダが言った。

「え?」

「大島は嫌じゃないの?ヒロトの事好きなのに」


 嫌か嫌じゃないかって聞かれたら嫌なわけはない。

「だってヒロちゃんと付き合ってるわけじゃないし」

タダの事を好きな女子にそう思われたら面倒だから嫌だけど、なんとなくヒロちゃんを取られた感もあったけど、タダは転校して来た時から他の男子より接しやすいし、ヒロちゃんが親友にするくらいなんだからよっぽど良いヤツなんだって私もわかっているのだ。

 


 

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