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浴衣は見せるために着る 3


 「なあ夏休み中、図書館行ったりプール行ったりしたい」と、タダがいきなり話を変える。

「ヒロちゃんと?」

「言うと思った」

「…もしか、ユキちゃんと行くからとか言って、ヒロちゃんに相手にされなくなったの?」

ヒロちゃんめ…まさかユキちゃんとそんなに頻繁に会ってんの?

 許せんな!


 「まあ、そうかな」とタダが言う。「だから大島がヒロトの代わりに一緒に行ってよ」

「…え…」

それは私なら暇そうって事か?それとも…それともタダ、やっぱり私の事誘いたくて…



 「「「イズミ君!?」」」

後ろから何人かの女子の大声がタダが呼んだ。

 あれ?

「イズミ君!!イズミく~~ん!!」

 タダがどういうわけか全く振り向こうとしないんだけど、この声は同クラのハタナカさんだ。ハタナカさんは結構入学したてからタダに目を付けていたハデ目の女子。 

 目を付けるって言い方はアレだけど、ハタナカさんは先生にそこまで注意されないような、それでもきっちりとした化粧をいつも完璧にしてるし、髪型もふんわり流した感じにしてるけど、どうやっても肉食系を隠しきれていない。何かしらタダに絡もうとしてるんだけど、タダは結構ハタナカさんみたいなガンガンくる系の女子は嫌いなのだ。


 「イズミく~~~ん!!」と声は近付いて来る。

 どうしよう。シャトルバスが出る駅までの道、何気にタダと二人並んで歩いてしまっていた。現地に着いてないから油断していたのだ。

 後ろを振り向かずにタダにこそっと言う。だってタダが振り向かないのに私がハタナカさんに振り向くのはね。

「ねえ、あれハタナカさんじゃない?なんで無視してんの?」

「めんどくさい」

タダもこそっと、でもきっぱりと答える。

 が、ハタナカさんはそんな事で諦めるような子じゃない。

 「イズミ君てばぁ!!」

さらに近くで呼ぶ声と同時に、ハタナカさんが私とタダの間に入り込んでいた。そして入り込んだと同時に叫ぶ。

「やだ!イズミ君カッコいい!いつもカッコいいけど、浴衣何倍増しかですんごいかっこいい!もう後ろ姿からカッコ良かった~~~」



 すごいなハタナカさん。

 が、ハタナカさんの勢いに私は立ち止まったのにタダが立ち止まらない。

「あれ?」と立ち止まってしまった私を見てハタナカさんが睨む。「ユズり~~~ん。なんでイズミ君と一緒?ねえ?なんでなんで?」

 言うだけ言うと、少しだけ先を歩くタダにタタッと駆け寄ったのでタダもやっと立ち止まったが、ハタナカさんを無視して、歩き遅れた私を手まねきした。「大島!」

 


 あ~~…タダと並んで歩いてたなぁ…花火大会の時は来てる子も多いから気を付けようと思ってたのに、駅までの道でつい油断していた。ハタナカさんの他に2名、クラスのキクタさんとオガワさんが一緒だ。3人とも浴衣姿。全員ピンク主体の派手な花柄。もうその塊がボワッとピンク!みたいな感じ。いつもよりしっかりメイクのハタナカさんが余計に大人びて見える。

 そんなハタナカさんが、タダの気のない素振りにまったく動じず、「もう~~イズミく~~ん」と可愛らしくムッとした顔を作って拗ねるように言った。

「花火大会行かないかもって言ってなかったっけ?もしかしてユズりんに誘われたの?」

「ふぇ?」

変な声出しちゃったじゃん。



 「あ~~違う違う」とタダが答える。「小学からの友達も一緒なんだけど大島もそいつと仲良かったからオレらが誘ったの」

 良かった。タダがちゃんと答えてくれた。

が、「「「マジで!!!」」」と叫ぶ3人。

「「「うらやまし~~~~」」」

「あ!」とハタナカさんが自分の顔の前に人差し指をピッと立てながら言った。「わかった、その子って海に一緒に行った友達?」

「そうそう」

「え~~いいなあぁ」私をチラチラ見ながら言うハタナカさん。「ユズりんだけ特権ありますみたいな感じじゃん。…ああっ!他にも来るんだったらぁ、私たちも一緒に行ってもいいかなぁ」

 キクタさんとオガワさんに同意を促しながら、タダにちょっと甘えた声を出すハタナカさんだ。


 めんどくせえ…、と私も思ってしまう。ユキちゃんが一緒ってだけでも結構今日いろいろ胸がズクズクしてるのに、タダ好きのハタナカさんたちがそばでちょろちょろして騒いだりしたらもう、今日何しに来たんだって話だよ。

 私は今日、ヒロちゃんに私の浴衣姿を見てもらいに来たんです。

 タダがそんな私を見てちょっと笑った。

「せっかくなんだけど」とタダがハタナカさん達に言う。「今日オレは、大島がオレの友達にアピる手伝いしなきゃなんないから、少人数で移動したいんだよ。ごめんな」

「「「やだ~~~」」」と叫ぶ3人。

「ユズり~~~ん」ハタナカさんが低い声で私を呼んだ。「イズミ君にそんなポジとらせるって、ユズりん凄いわ怖いし」

いや、怖くはないわ。


 ハタナカさんが私に聞く。「ねえねえユズりんユズりん、そのイズミ君の友達ってどんだけカッコいいの?見て見たいなぁ。写真ないの?」

「写真は無いよ」見せたくないのからウソをつく。「…でもすごくカッコいいよ」

「あ、そう!!」

どうでもいい!みたいな感じで答えるハタナカさんに、なら聞くな!と思う私。


 「もう~~、じゃあ仕方ないなぁ。でもせっかくだから写真撮らせてお願い!だってもうすごいカッコいいも~~ん」

今日は本気で引かないなハタナカさん。

「悪いけど、」ともちろんそんな事が嫌いなタダは断る。「オレそういうのホントあんま好きじゃないから」

ぷうっと頬っぺたを膨らませるハタナカさんだ。

 これは…男子が見たら可愛いんだろうけど、私からしたら結構怖い。

 けれどタダが改まって「ごめんな」と言うと、「ううん、こっちこそ無理言ってごめんね」と羞じらって言うハタナカさん。

 そんなハタナカさんを前に、「じゃあ」と、とっとと切り上げようとするタダ。それでもタダはニッコリと笑って付け加えた。

「待ち合わせに遅れるから行くわ。でも声かけてくれてありがと」

 めんどくさいって言ってたのに。

 そんな『ありがと』とか言うんだタダ…と思って内心驚いていると、「「「うん!!またね!!!」」」と、3人とも速攻で納得したのでそれにもちょっと驚く。

 あしらいがうまいなタダ。


 それで解放された、と思ったが、「ユズりん?」とハタナカさんに呼び止められる。

「…なに?」まだ何か?

「ユズりんたらもう幸せモノ~~。こんな浴衣姿のイズミ君と二人で歩けるなんて。また花火大会で会うかもね!!」

会いたくないな、と即座に思ってしまったが、「うん、またね」と言って手を振る私。


 タダに並んで歩き出したが、ハタナカさんたちがずっと見ているような気がして、少しタダから遅れて歩く。が、それにすぐ気付いたタダが立ち止まってまた私と並ぶのでどうしようもない。

 チラッとタダを見ると、ニコッと笑って小さい声でふざけるように言った。「大島、めんどくさそうな顔してた」

「マジで!」顔に出てた!「どうしょう…」

「うそうそ、そこまで顔に出てない」

「もう…」ほんとかな…。「あんただってめんどくさいって言ってたのに『ありがと』とか言って、なんかすごい」

「早く切り上げるため」

 何気に酷いような…でも私も実際めんどくさいと思ったわけだし。もう花火大会では会いたくないって思ったし。

 やっぱり花火大会の時はなるだけタダの隣は歩かないようにしようっと。



  

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