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浴衣は見せるために着る 2


 「やだ、タダ君~~~」と玄関でテンションの高い母の声がする。

 タダが約束通り4時半にうちのドアチャイムを鳴らした。そんなにきっかりに来てくれるとは思わなかったからぬかっていた。母が先に玄関を開けてしまったのだ。

 私も急いで玄関に行く。

「浴衣カッコいい~~!ちょっともうモデルさんみたいじゃない!ねえねえねえねえおばちゃんに写真撮らしてくんない?ユズルもホラ見て?今年は浴衣着てんの。二人一緒のとこ撮りたいな~~」

「いや~~…」ハハハ…と困ったタダの笑い。


 タダも浴衣着たのか。タダのは紺色に細い白い線の入ったストライプの、落ち着いた感じの柄だけど似合っている。私のはタダのよりも少し薄目の紺色に水色の大小のチョウチョの模様が入っている。帯は黄色だ。タダの帯は黒。

「お母さん!余計な事言わないであげてよ」

「あんたもう」と母が私をなじる。「こんなカッコいい子が迎えに来てくれてんのよ!?わかってんの?その幸せさをあんた良くわかってないんじゃないの?」

「お母さんマジ恥ずかしいから止めて。ほら、タダもすごい恥ずかしそうにしてるじゃん、困ってんじゃん止めてよもう。この人そういうのすごい苦手なんだから」

「いいよねえ?タダ君」とタダに笑う母。「だってわざわざ迎えにまで来てくれてるって事は、ユズルの事嫌いじゃあないわけでしょ?」

ハハ、と苦笑するタダ。

「ほらもう~~タダが困ってんのわかんないの!?止めてあげてって」

「わかったわかった。もう来てくれなくなったら困るもんね」

 もう~~お母さん余計なことばっか。



 「浴衣着たんだね」と聞く私。「普通の服って言ってたから」

「あ~~、親が」とタダが言う。「ヒロトも浴衣で大島たちも浴衣って言ったら着てけって言って、父さんのむかしのやつ引っ張り出して…」

 それでちょっと落ち着いた感じの柄なんだ。

「でも似合ってるよ」

コレ見たら女子の皆さん大騒ぎしそうだけど。

 そう思って見ていたらタダが言った。「大島も可愛いよ」



 「「へ!?」一緒に固まる母と私。

 私は固まったままだけど母はパアっと明るく笑った。

「ありがとう!!ありがとうタダ君!」母が叫ぶようにお礼を言う。「やっぱりユズルと並んで写真撮らしてくんない?」

「止めてってお母さん!」

 私の『似合ってるよ』のお返しにちょっと言ってくれただけじゃん。…まあ私もちょっとっていうか結構、突然の褒め言葉に固まったけど。

 どうしたんだろ…普通に女子に騒がれてる時も返って鬱陶しそうにしてるくらいチャラいとこ見た事ないのに、軽く可愛いとか言ったりするんだ、と思うと同時に、こいつ…もしかしたら本当に私の事を好きなんじゃ…って思ってしまう。


 「あの、」とタダが母に改まって言った。「遅くならないように送ってきますから…あ、でも今日は10時半くらいは許してください。花火最後まで見て、それでシャトルバスで駅前まで帰ってくるんで。もちろんまたここまで送ってきますし、ヒロトも一緒なんで安心してください」

「うん、ありがと!ヒロちゃんもしっかりしてるし、タダ君もありがとうね。なんかもったいないわ…タダ君なら他に束になって女の子連れ歩けそうなのに…ほんとありがとユズルと一緒に行ってくれて!」

いや、お母さん。そこまで自分の娘を卑下しないでも…私だって今日は普通の時に比べたら可愛いと思うけど浴衣のおかげで。



 それでもまだ写真を撮らせてくれという母をどうにか諦めさせ、やっと家を出てからタダに言った。

「あんたもはっきり断んないと。お母さんとか図に乗ってホントに写真撮るから」

「別にそこまで嫌じゃないし」

「…そうなの?」サービスいいな。「…それってさ、女子とかにも撮らせてあげてんの?この間私が女子からあんたの写真ちょうだいって言われたって言ったら、やるなって言ってなかったっけ?」

「いや別に、大島の母さんならって事。一緒に撮ってくれるっていうから」

…私と?


 え、タダやっぱタダ私の事…

 そう思いかけたらタダが言った。

「後でこっそり撮ってやろうか?ヒロトとギリギリ並んだやつとか」

「ギリギリって何!」

もう、と言いながら思う。なんだやっぱり別に私を好きなんじゃないじゃん。また小バカにして。


 「どうせならちゃんと撮ってよ。…まあでもユキちゃんいるからね。私が自分でヒロちゃんの事だけこっそり撮るよ」

「ハハハ。軽いストーカーみてえ。あ、なあ、その髪、自分でやったん?」

「いや、お母さんが」

 私の髪は肩よりちょっと下くらいで、あまり長くはないけれど、母が編み込んでアップになるようにしてくれたのだ。

タダがニッコリほほ笑んで言った。「それも可愛いじゃん」

「…」

「何その目。褒めたのに」

「いや、なんでそんなに褒めてくれんの?ちょっと怖いんだけど」

「怖いってなんだよバカじゃねえの」と言ってタダが笑う。

 



 褒めてくれたり小バカにしたり…さらに不審がって聞いてしまう。「もしかして同情してんの?今日だってどうせユキちゃんの浴衣しかヒロちゃん見ないだろうし、それでも私も浴衣なんか着てきちゃったから憐れんでない?」

「いや単純にオレが見れて嬉しいし」

「…」

 タダってこんなキャラだっけ?

「…タダってもしかして、結構女子に調子良い事言ってんの?私、今までそんなところ見た事無かったけど」

「大島…」言ってタダは呆れた顔をする。「ほんとに…聞いてなかったとか言うなよ?夏祭り一緒に行くの楽しみだってちゃんと言ったろ」

 そうだけど。

 それは聞いてたし覚えてるけど。それで今もちょっとドキッとしたけど、でも、『タダってそんな事言うの!?』っていう気持ちになったし。

「え、なんだその不審な目は」とタダが呆れたように言う。「オレは普通に可愛いって褒めてんのに」


 はいはいはいはい…『普通に』な。

「いや、ありがとう…。なんていうかありがたいけど、その…そんな事男子に言われた事ないし、だから…」

「まあな。他のヤツとかから言われてても嫌だけどな」



 わ~~…

 なんか今日のタダ、普通の時より絡みづらい。って言うよりやっぱり、本当に私の事好きっぽいような気がしてきたんだけどどうしよう…

 タダにこんな風に言われるとソワソワしてくる。どうしてかな。ヒロちゃんだときっとパアアって嬉しい気分になれるのに。…まあヒロちゃんには可愛いとか言われないけどね。

 いや。『普通に』が付いてるもんなあ…タダの『普通に可愛い』ってどういう意味?普通だなお前、って意味?好きな女の子に『普通に可愛い』とか言わないよね?そこは『すごく可愛い』とか言うんじゃないの?

 ヒロちゃんはどう思ってくれるかな。一瞬でも可愛いって思ってくれるかな。例えその後ユキちゃんを『すごく可愛い』って思ったとしても、私をぱっと見た時『普通に可愛い』って思ってくれるかな。

 思って欲しい!!




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