聖女
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その頃、王城の城内に不審な者が居たとして慌ただしくしていた。其の者は魔族のような翼を生やした人間で正門の向こう側へと飛び去ったと衛兵からの報告で上がっているため高位の腕のある騎士を派遣し探索に追われている。
私が目覚めたのは随分と後のことで日課である祈祷の時間に迎えに向かったものの私室から返事が無いのの疑問を持ったアリスが中を覗いてみると寝台に寝ていたそうだ。
「イリア様?お顔が優れ無いようですがあの不埒者に何かされたのですか?」
「いいえ、違うのよアリス・・彼は何もしてないの」
「そうですか私はてっきりあの不埒者が何か無礼を働いたのかと、しかしイリア様がそう言われるのでしたら・・・」
アリスはそう言うと短くお辞儀をし事態の収拾に向かった。
彼は何もしていない。むしろ何かをしたのは私の方で
彼はまた私の元からいなくなった、でも彼も私を好きと言ってくれた。
それだけで今は嬉しかった・・・この報告を聞くまでは。
「報告です!」
彼女は私の護衛の一人の イオリア=ヴェルイン
聖女として選定された時に配属されたこの国の女騎士の一人で護衛や身の回りの世話を受け持っている。
アリスと同じく私が最も信用できる、ほんの一握りの者達だ。
「聖女様がお連れになった者は恐らく魔族の者かと」
この報告を聞いた時、私は自分の耳を疑った。
「目撃した守衛の者によると其の者は黒い魔族のような翼を生やした者が城内から飛び去った とのことです」
「それは・・・本当の話なの?」
再度、視線で確認を促すとイオリアはもう一度足を曲げて床に屈み、頭を下げ先ほどの話を繰り返した。
「はい、他の目撃者もいます。聖女様がお連れの者の正体は魔族の者に違いません」
これが現実なのかと呆然としていると
混乱する私に対してより強く現実に引き戻す力強さで彼女はもう一度同じ言葉を申し訳無さそうな表情で答えた。
「嘘・・ねえイオリアお願いだから嘘と言って・・・嘘といって!」
「聖女様申し訳ございません・・・これが事実かと」
足が竦みその場で倒れそうになると横にいたイオリアが身を案じて支える。私は感謝の言葉を言う余裕もなく一人で先ほどの報告を繰り返した・・・
「レイドが魔族・・レイドが魔族・・・私はどうしたら彼を」
魔族?レイドが魔族なの?ありえない絶対に
だって昔からそばにいたもの・・・ありえないわ
そうよレイドは操られてるのよ 絶対にそう。
だって私を好きと言ってくれたから でも彼が私を求めてくれないのは
きっとその魔族のせい
次は私が彼を助けるのよ、必ず彼を正気に戻して見せるわ。
彼と遊んだ記憶が次々と脳裏に映り、それが焦燥感を募らせた。
そして悲しみは憎しみに変わり、レイドを操っているであろう魔族に向けられる。
しばらくその場で小言と自問自答を繰り返し、私は一つの答えを導き出した。
「他の者に通達して!レイドを、いえ彼を私の元に連れてくるように」
「危険です!聖女様の身に何かあっては私たちが困ります」
「私のお願いなのに聖女としてではなくイリアとしてお願いしたいの・・」
懇願するように彼女の手を取ってそう答えると気持ちに折れたのか私が楽な姿勢が取れるように寝台まで移動させ、重たい口を開いた。
「それはアリスと私を含むイリア様の護衛の者達だけでやります。イリア様の気持ちはわかりますが此れは大変危険なものです」
「ええ知ってるわ、イオリアとアリス達に任せる」
「承りました、イリア様。聖女様の願いではなくイリア様の願いとして我々が責任を持って実行致します」
その後イオリアはイリア様の言う例の男を捕まえるために他の者にも話を通すために私室を出た。
これがイリアとレイドの仲をより遠ざけてしまうとも今は誰もしらない
そしてまた一人になったイリアは横になったまま、最後に見たレイドの姿を思い出し私は彼のためにと更に決心を固くした。
中央の広場にて事態の収拾に当たっているであろうアリスの姿を探した。
イリア様の話を早く伝えなければならないと奮起した彼女は柄にもなく衛兵が歩き回る広場で大きな声を
荒げた。
「アリス!どこにいるの!?」
その声を聞いたのか広間の中で此方に向かって手を振るアリスの姿が見えたので
彼女の元に歩み寄ると何かを隠すように手のひらの紙を丸めて懐にしまったのが見えた。
「それは何?」
「な、なんでもないわ!私が書き間違えてしまったの」
「そうなの?ならいいわ」
「誰かが私の名前を呼んだ声が聞こえたと思ったら貴方だったんだもの、驚いてしまったわ」
あくまでこの紙は自分が間違えたのだとアリスはそれを握りつぶした、それがあの男がイリア様へ宛てた
手紙だとは敢えて言わずに。そして疑心な目で此方を伺う彼女の意識を逸らすために話を変えた。
「それでどうしたの?イオリアがそんなに急いで」
「それはねイリア様からお願いを承っているのよ」
「え、お願い?命令じゃなくて?」
先ほどイリア様の話していた時の様子とお願いを掻い摘んでアリスに伝えると彼女は唸るような顔で
イオリアとアリスは顔を見合わせた。そして互いにこれは聞いていて気にしていた点について話し始めた。
「随分イリア様らしくない話ね、それって?あの魔族の男の事でしょ?」
「ええ、いつものイリア様なら求婚してくる男なんて山ほどいるのにそれを無視して、昨日見つけたあの魔族の男に興味を持っているようなのよ」
「そうよね、それでお願いっていうのはあの男を捕まえてイリア様の前に連れて行くのよね?」
「そうよ、多分イリア様がその魔族の男に裁きを与えるのかしら?」
彼女らはルグイド教を重んじる教徒の一人でもある本来のイリア様の願いの本質もわかるわけがなく
聖女としてあの男を神罰として処刑するのと真逆の意味で捉え、後日イリア様の願いを他の護衛の女騎士に伝えた。
「イリア様の命によりあの魔族の男を捕らえよ、死ななければ手段は問わない」
この間違った命令が通達され、レイドはこの聖女を主と崇める騎士隊を敵に回した事となり
これによってレイドとイリアの関係が彼女の希望とは真逆の方向へ転がっていくのであった。
ハイファンタジーのカテゴリでランキングに出ていました嬉しいです、皆様のおかげですありがとうございます。
次回の話は視点をレイドの方にもどします。
あまりこういうのは得意ではないんですよね・・・ゆっくりと修正したりもしているのでこれからもよろしくお願いします。