聖剣
感想ありがとうございます。
「なあ、本当にここで間違いないんだよな・・・?」
さっきまで頭上にあったはずの太陽が少しずつ傾き始めていた。先ほどから誰も手入れがされていない屋敷の中や周りを隈なく探索しているが目的の聖剣が見つからないまま時間は刻一刻と過ぎていた。
「我が君、焦ってもすぐには見つからないよ」
「それもそうだけどさ・・・」
食欲もそろそろ限界で屋敷の食料庫だった場所に足を運び干物や保存できるものが無いか探すが勿論
あるはずがなかった。
このままじゃ本当に倒れそうだ・・先に食事をしに行こうと提案するために腰にある剣を撫でる。
「あのさマール?」
「最後まで言わなくてもわかるよ、お腹減ったんでしょ?」
「わかるなら俺の気持ちを汲んでさ?」
両手を合わせて腰の剣を拝んでみるがそれから返事はなかった。
要は見つかるまで飯は無いという事である、諦めて探すしかないが立っているの辛くなったため倉庫の壁に
寄りかかって体重をかけた。するとすぐ横の食料棚が前に倒れ屋敷内に轟音が響き渡る。
「あぶねえ、あっちに寄っかかってたら俺が潰れても可笑しくなかったぜ・・・」
息を短く吐いて再び此処にあるとされる聖剣を探すために服の埃を払う。
「我が君」
「うわっ、びっくりさせるなよ!」
突然、マールから返事が来たことで少し驚いて返事をするとマールの顔は見えないがやれやれといった調子で再び喋り始めた。
「後ろ見て」
「後ろって壁だろ?驚かせたって無駄だ・・・ぞ??」
どうせ何もいないだろうと話ながら後ろを見て目を見開く。
「うーん、何だこれ?」
先ほどまで食料棚があった壁に薄っすらと扉の輪郭が見て取れた。おそらくこの壁は・・・
壁を触りゆっくりと押してみると壁は回し扉のようにその場で一回転をする。
「マール、もしかして?」
「うん、多分この向こうにあるのかも」
「じゃあ行くか、あと真っ暗で何も見えないしマールが出てきてくれると助かるんだけど?」
回し扉の中を覗きながら返事が無い腰の剣をずっと見つめていると息を吐いたと同時に剣が暗闇に溶けて
散開し徐々にその黒い靄のようなものが実態を現した。
「まあしょうがないよね!ここは我が君のために働くとしよう」
そこには腰に手を置きそっぽを向いたまま偉そうに踏ん反り返った身長が頭ひとつ下くらいの少女が立っていた。
「久しぶりにその姿見たな」
「どう?」
「どうって言われても・・・ねえ?」
黒い修道服に身を包み込んだ少女の胸には平らな大地が広がっていた。
まあ最後まで言うと女性にあるものが全くないのだ、もはや絶望的である。
「我が君、聞こえてるんだけど??」
「そんなこといいから早く中にいこうぜ」
「そんなこと!?そんなことっていうのね?我が君のバーカー!!」
このままだと埒があかないのでマールの背中を押して暗闇が広がる扉の奥に無理やり進ませる。
最初はそれでも抵抗をしていたが扉の奥に入ると指の先に黒い炎を灯して俺にも周りが見えるように
ゆっくりと進んで行く。
「階段だな」
「階段だね」
少し進むとそこには階段が地下まで広がっており、そこは真っ黒で何も見えない。ここからだとよくわからないのでゆっくり身長に階段を降りる。万が一、トラップがある場合もあるのでここは特定の実態を持たないマールが先頭を歩いている。
どれくらい歩いたものか階段を降りることより自分のお腹の調子の方が心配になって摩っていると不意に先頭歩いていたマールが足を止めた。
「うん、ここだ」
「ここ?ここってまだ一番したじゃないでしょ」
「間違いないよ、分かるの」
そう言うとマールはもう片方の手から黒い炎を出しそのまま壁に手を近づける。すると壁があった場所がガラスのように砕け散りその衝撃で暗闇に慣れていた目が少しだけ驚く
「ここはいくら下に降りてもそこには着かないんでしょうね」
「なんだ?もしかして阻害魔法でもかかっているのか」
「うん、とりあえずいこっか」
言葉に出さず首を縦に振りマールがそれに合わせて壁の中に向かって歩き出した。壁の中は真っ黒で何も見えない、まるで光が全く差さない夜の森の中のようだった。
壁の中に入っていったマールのあとで壁の外で勇気を振り絞って中に入ろうと意を決した時、先に壁の中に入っていったマールの手が俺の腕を掴み情けない体制で中へ引っ張られた。
「うわああああマール!いきなりやめろって心臓が止まるかと思ったぞ!?」
「我が君が遅いから悪いの!」
「だって何も見えないんだぞ?心の準備があるんだ!」
「そんなことはいいからほら見てよ」
そんなことってそれはどういうことだとマールに反抗をしようと口を開いたがそれが声として発されることはなかった。
マールが指を差した方向には摩訶不思議な森が広がっていた。こんな地下になぜこのような世界があるのかと息を忘れるくらいに美しい世界がここには木々や川に太陽があり、現実の世界とは懸け離れた手つかずの未踏の地がここには存在していた。
そしてその中央に佇む大木の下に目的のそれはあった。
「あれが聖剣マーレなのか・・・」
「そうね、マーレはずっとここで寝ていたのかも」
聖剣マーレと称えられた剣は大木の下で根を張り地面に深く突き刺さっていた。恐らくこの別世界、いや別の空間とも言えるこの場所を作ったのも聖剣マーレなのであろう。
でなければ説明がつかないほど神秘的な光を放ち続けていた。
ようやく見つけることが出来た聖剣の元へ行こうと足を進めるとマールが俺の服のすそを掴んだ。
「おい、何してるんだマール?」
「私すこし疲れたから休むね」
言い終わるとすぐに黒い靄に戻ったマールは俺の腰の定位置へ戻るために剣の姿に戻った。
俺はそれを無言で掴むと腰へ指し歩みを続けた。
進むにつれて聖剣の放っていた光がより強くなっていくのが分かる。それはまるで心臓のように脈を打っており近づくにつれて鼓動が聞こえてくるかのようだった。
「ようやく見つけたぞ、マーレ」
今に破裂しそうな勢いで鼓動をし続ける聖剣に緊張で目が乾燥する。
見つけたってのは変かな、ここはこう言おうと先ほどの言葉を訂正するのかのように
思いついた言葉を口に刻んだ
「待たせたね、マーレ」
そして聖剣を掴むためにその手を伸ばし
しっかりと"彼女"を掴んだ。
俺の気持ちを汲み取ったのか聖剣はより一層輝くと剣に根を張っていた大木の根っこが剥がれ落ち
地面から美しい刀身が現れると同時に俺の意識に声が響いた。
「ええ、ずっと待ってました」
辺りは目の眩むような暖かい光に包まれた。
ここら辺は話しの展開が進まないのでもう暫くお待ち頂けると嬉しいです