目的
遅くなりました。感想見させていただいてます。
何故この状況になったのか俺は理解ができなかった。幼馴染のリアが、あのリアが聖女となったと噂を耳にし久しぶりに大陸を渡って着くや否や、リアが刺客によって襲われるのを防ぐ所までは良かったのだ。
もしあのまま名も告げずに立ち去っていたら主な目的である、昔暮らしていた屋敷に今頃着いてる頃だろう。
その予定を台無しにし調子に乗って昔の身内ネタを振った挙句にリアに気づかれ、弱った所を魔法やなんやらで意識を刈り取られ、そのまま拘束・・・そして現在そのリアに愛の告白
正直言うと彼女・・・リアは昔から性格に難はあったがそれを入れても美しい容姿をしていた。
それが数年経って会ってみるとより美しさとあの頃の無邪気さは残っていたようだが、一層可憐な少女になっていた。
「レイド?そろそろ返事くれてもいいじゃないのかしら?」
考え込んでいると返事を待っていたリアが俺の手を握ると顔を赤くして俯いていた。
このままじゃ良くないと俺も意を決して口をゆっくりと開いた
「リア・・・気持ちは嬉しいけど・・」
「他に好きな人がいるの?」
「違うよ、だけど「ねえ、何で・・?」
俺の声に被せるように話すと彼女は手を握ったまま俯いていた顔をあげる。
その手は少し震えており、彼女の瞳には涙が溜まっていた
「何でよ!私はずっとこんなに我慢してたのに・・・ずっと我慢してたのに・・・」
「俺、いや僕は君が好きだ、昔からそうだったのかもしれない」
昔の僕は彼女に憧れていたのかもしれない。何事も考えずに突っ走り、転んでも直ぐに立ち上がって走り続ける彼女のような存在に
「じゃあそれでいいじゃない!」
「君は聖女になったんだ。昔のようにはいかないよ。今の僕は廃れた貴族に過ぎない、だから君を・・・リアを僕はきっと幸せにできないよ」
俺はこれは彼女のためだと自分の想いを胸に閉ざした。
そして彼女の首に触れた
「そんなの関係「ごめん」
最後まで言わせることはなかったが彼女が話したかった事は分かる。彼女が俯いていた時に親指を無理やり外して手錠から外すと自由になった手で優しく支えたまま寝台に横にさせた。そして親指を治し残る痛みに苦痛に歪ませ、最後に彼女の顔を見る。
「さてと、ここから脱出しないとな・・・」
横になったリアの涙を手で拭き取り、部屋にあった紙に言葉を残すと窓を開ける
城から見える街はとても広くも狭くも見えた。なんたって俺の家もここから見えるしね
「まあそこまで高くないし・・・」
窓からそのまま身を投げ出して飛び降りる。
足の裏に魔力を流し壁を伝って走る。そろそろ床に着くだろうという所で
ここへ来るまでの間に口にしていなかった相棒と言われる存在、そして今は手元に無い剣の銘を叫ぶ。
「マール!」
呼ぶが返事がないため焦りながらもう一度叫ぶ
このままじゃ落ちて死ぬ!
「マール、そ、そろそろ来ないとやばい!!」
「しょうがないな、君が死ぬと先代達に顔向けできないし」
「だからごめんって!」
頭上から黒い鞘に包まれた剣が現れ、それを掴むと同時に魔力を発現させ身体に身に纏い背中から魔力の塊で形どった黒い翼をはためかせる。
壁から足を話し空中に飛び、城の正門を飛び越えるとそれを見た衛兵が何か騒いでるようだった。
人の目もあるかもしれないがこのまま落ちて城内を走り回るよりマシだろう。
衛兵に捕まるわけにもいかないし怪我をさせるわけにもいかないのだ、これが最もいい方法であると信じたい。
「魔力少し足りないからもらってもいいよね?」
可という具体的な返事は無かったが、剣から足りなかった魔力を補填するかのように身体中に流してくれたため身体の気だるさを消し飛ばした。
「ありがとう、それとあまり話せなくて悪かった・・・」
「別に怒ってないし・・・」
「とにかくごめん」
この剣を祖父から預かったものだが、受け取った時はただの剣で喋ることなどなかったが
幾旅の途中に一度無くしてしまい探すのを諦めて次の目的地のために船に乗って横になったところ
何もない頭上から顔面目掛けて落ちてきたのだ。
その時が初めて俺に説教をするために長い間の休眠から目を覚ましたのが世に言う魔剣が相棒のマールである。こいつはあまりおしゃべりではなく普段ほとんど喋ることがないのだが流石に俺のピンチで答えてくれたのが唯一の幸いだった。
じゃなかったらカッコよく窓から出てそのまま落下死という不遇にも程がある。
「我が君、何か食べたい」
魔剣マールは剣であるため勿論だが食事はいらない。食事は俺の魔力といったほうがいいか
しかし稀に剣から人の姿を変えて一緒に食事をとることもある。彼女の食べた物はどこに行っているのか
誰にもわからないだろう。
「言うなよ俺もだから・・」
とにかく俺は腹が減った・・・もう食事の話を聞きたくない
聞くとこっちまで腹が鳴り出しそうだ
ここに来てから怒涛の展開で丸一日食事といった食事をしていなかった。
まあ大半は自分のせいなのだが
「それとあの娘のことはいいの?」
「もしかして聞いてたのか?」
「うん、繋がりは離れていても通じているから」
悪趣味なヤツだ俺の話してたこと全部聞いてたのかよ。マールと俺は旅の途中に契約によってお互いに
魔力を共有しあっている。主に俺の魔力を彼女に渡し、それを彼女が増幅して俺に返す仕組みだ。
勿論、俺の考えていることもわかるらしい。
「我が君・・誰に説明しているの?」
「いや何でもない」
「まあいいけど、もうそろそろ着くよ」
ようやくか・・・この旅の目的。マールが言った話が本当ならここにはあるはずなのだ。
アウリアス家の本屋敷跡地。
現在の聖ルグイド王国になる前の旧ルグイド王国時代に名を馳せていた聖剣の担い手の屋敷であった場所である。
「マール、本当にここにいるんだよな?」
「間違いないはず、妹の・・聖剣マーレがね」
公では聖剣と呼ばれている剣は大陸の何処を探しても陽を象徴する聖剣マーレのみであり、それに対するマールは相反する陰の存在として聖剣マールではなくその存在を知る一部の者には魔剣マールと呼ばれ大衆には秘匿されている。理由はこの国において主教とされるルグイド教を管理するルグイド教会にとって魔剣マールは魔剣であるがため邪となる存在とされているのだ。そのため魔剣マールと聖剣マーレが姉妹剣である一対の剣という事自体が秘密とされている。結論、聖剣の担い手は一人だとしても聖剣は決して一本ではないのである。
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