告白
彼女が耳元にそっと囁いた後、美しい髪の毛を素早く纏めて同じ場所に座りなおした。
別にドキっとなんかしていないさ、ああしていないとも・・・。
先ほどの彼女の意味ありげな発言も含め見ないうちに言える事を言えるようになったのかと昔の彼女と今を比べて変わったものだなと感心した。
「まあダメって言われても手錠されてちゃ何も出来ないんだが・・・」
「そう、でも外したらまた何処かに行ってしまうでしょ?」
ジト目でそっぽを向いて彼女は非難するような声音で言う。昔、碌に挨拶もせずに離れ離れになった事を根に持っているんだろうか。やれやれ怖い女である、俺は視線を手錠に戻し拘束されている腕を曲げたり引っ張ったりとしてみるがビクともしない。
「いやリアのために言っているのさ、ほら男性が女性の寝室にいるのはマズイだろ!?」
「そんな事?そういうのは私は気にしてないわ?」
「ほう?つまり・・なんだ?よくこうして男を連れ込んでいるのか!?」
そう言うと彼女は顔を真っ赤にして俺の頭を両手で掴み自分の顔と正面になるように寄せる。
「あのね!貴方が思っている程、私は性悪ではないのよ!?わかりましてレイドくん?」
ふわりと彼女から漂う香りが鼻腔を刺激した、それと同時に頭に痛みが走る。
「イタイ!イタイです聖女さまあああ!!」
「ふん!久しぶりに貴方に会えたと思いきや逃げるのだもの!!」
どれくらい心配したと思っているのよ!と此方が聞いてもいない話とあれから私が探したとか厄介事に巻き込まれたとかベラベラと話し始めた彼女は思っていたより再会を楽しんでいるようで俺も少し嬉しかった。
彼女の話を聞きつつ俺も祖父の家に引き取られた事を話したりとお互いに昔の思い出の話に付き合った。
「あ、ところで何で急にこっちに戻ってきたの??」
君に会いに来たのさとそんな恥ずかしい事を言えるわけもないので適当に話をはぐらかすために嘘をつく。
「ああ俺さ、祖父にも急かされてそろそろ嫁探しついでに旅に出てるわけよ」
「ふーん、そうなの?それで良い人は見つけれたの?」
先ほどまでの会話が嘘のようにこの場の空気の温度が下がったような感じがした。ついさっきまで楽しそうに話していた彼女の顔は笑顔のままだが、作り物の笑顔と言うのだろうか?それに近いものに感じる。
「ま、まあね?」
「そう、その子はどんな子なの??」
どんな子って言われてもなあ・・・咄嗟についた嘘である。いきなりそういうことを聞かれても返答に困って悩んでいると
「ねえ、教えてくれないの?」
隣の座っていた彼女は俺の隣で横になり顔を此方に向けたまま返答を待っているようだった。俺も少し驚いて手錠を着いている腕と反対に身体を逸らす。
というかリア近いから!もう少し離れて!
もしかして嘘をついてるのに対して怒ってるのか??なら正直にネタばらしをするべきか・・・。
自分の中で言うか言わないかと会議をしている最中に返事がないせいかリアが閉じていた口を開く。
「そう、また教えてくれないのね」
彼女は目を瞑り納得したような顔をしたあと、此方に真剣な眼差しでその蒼い澄んだ目で見つめなおす。
「その子が誰かはわからないけど・・・そうね、私にも考えがあるわ」
と言って彼女は外さないと拒否していた手錠の鍵を持ってくるとそれを目の前で
何か唱えると魔法を使い鍵を後も残さずに破壊したのだった。
「おいリア!!何してるんだよ、それないと外せないじゃん!?」
「だってレイドが話してくれないのだもの」
「でもやって良いことと悪いことがあるだろ!?」
「大丈夫よ、私が養ってあげるわよ、ずっと面倒を見てあげる。そう昔のあの時みたいにね?」
彼女はそう言って微笑むと此方の必死の抵抗を無視し再び俺の隣に横になり俺の首に腕回し蛇のように絡む。この体勢は我ながら不味いと思ったのか自分の顔が真っ赤になるのがよくわかるくらいに必死に抵抗をする、しかしながらこれが全くと功を成さない。
ああ、このままでは俺の威厳があああ!!
なおこの状況になってからというものそんなものは残念ながら何処にも存在してはいない
「あ、あのリアさん!、僕がいない間に一体何かあったの?いやあったのですか!?」
「何もないわよ?何も」
俺の片手を封じられた抵抗を虚しく彼女はそのまま自分の胸にしがみ付くように抱きついた。
「ひゃあああ、リア!ごめんって!嫁探しの旅は嘘なんだ!!本当だ、信じてえええええ!!」
こんな大胆な事をするような奴ではなかったんだが彼女と俺の空白の期間は一体何をもたらしたのか・・・
待てよ、こいつ本当に性悪のリアか??
「お前リアだよね!?本物のリアだよねえええ???」
「何バカなこといってるのよ、動かないであと少しだから・・」
「何があと少しなの?ちょっと待ってリアお願い!!話を聞いてえぇ!」
俺の様子を見て哀れに思ったのかそれとも必死な声が届いたのか彼女は漸く拘束を解く。それと同時に俺も素早くできる範囲で離れ彼女との距離を取る。
「私に嘘ついた罰よ」
「オレ、シヌ。リア オカシイ」
「何よ?昔はよく一緒に寝てたりしたでしょ?」
別に問題でもあるのかと言いたげな目で睨むリアにこのままではいけないと思った俺が紳士淑女のたしなみを教える事にした。
「あのなリア?俺らはもう昔みたい餓鬼じゃない。もうそういうお年頃だからこういう事は好きな人同士だけがやっていいの!おい、わかるか?」
「ふーん、へぇ?そうなの?」
「そうだよ!だからそんな簡単に男に抱きつくのはダメだ!」
「そう?なら言うわよ、私は貴方の事好きよ?」
「そう!好きな人ならいいんだよ・・・・・うんっ???」
今彼女は何て言っていったのか俺にはよく聞こえなかったような聞こえてしまったような・・あれ俺の耳が悪いのか?
そうだ!そうに違いない。
「えーとリア?今なんて言った?」
そう言うと呆れたと表情を浮かべたリアが今度はしっかりと聞こえるように耳元まで顔を近づけて囁く。
「私は貴方の事が好きよ」
「それで・・・レイドはどうなのかしら?」
100人いれば100人が美しいと答えるような美しさで可憐な面持ちを身に纏うようになった彼女は恥ずかしがる事もなく凛とした顔でそう答えた。