再会
マントを深く被り顔を覆うように門を潜ると其処には大勢の人が行き交う大通りが出来ていた。大通りに沿うように白色を主とした建物が辺りに建てられている。昔ながらの建物も修繕し今も溶け込むように重なり合ってそびえ立つさまは感動さえも覚える
自分の父親と何度か此処に用があって来ていたが10年も経つとここまで変化をするものなのかと感心して周りを眺めていると元々騒がしかった辺りがより一段と騒がしくなっている。
元から王都へ人々で栄えているのだ昼頃や夜の涼しい時間帯になると今でも溢れるようにいる人口の数が更に増え辺りは毎日がお祭りのように盛り上がっている。
暫くその場で呆然としていると人盛りから一人の老人が飛び出した
「来るぞおおっ!!聖女様のお通りじゃああ、道をあけえぇぇいっ!」
飛び出した老人は怒声とも聞こえる大声で叫ぶと先程まで人で溢れかえっていた通りが割れるかのように開かれる。まるで海が割れたのかと思えるような光景に恐怖すら感じる。
ん?まて聖女様と言ったのか?もしかしてアイツが此処を通るのか??
俺はアイツと言っているがこれにはしっかりとしたわけがある。別にアイツの名前を言うのが恥ずかしいというのでは決してない。
なんという巡り合わせか・・・門を潜って10分も経ってないのに目的の人物に会えるのだ。
緊張と同時に嫌な汗も出てきた、もしアイツじゃなかったらどうしようと焦っていたりもするがきっと杞憂に終わるだろうと無理やり落ち着かせ周りの様子を伺う。
だがここからだと周りの見通しが悪く見にくいのもあったため大通りの端にある物陰の積荷の上に飛び乗りローブを被ったまま聖女様が来るであろう道を見る。最初は豆粒のように小さかったがそして徐々に近づいてくると次第に様子が鮮明に視界に入る。
そこへ現れたのは金色と白色の装飾がされた白馬の馬車だった。恐らくその窓から手を振っているのであろうお方が聖女様なのだろう。そして遠くから馬車が此方に近づく事によって同時に歓声が大きくなっていく。
そしていよいよ自分の前を通るであろう時に不意に馬車の進路に何者かが立ち塞がった。先ほどまで何も立っていなかったはずが最初からそこにいたかのように急に姿を表したように見える。そして周りが聖女様の乗っている馬車に気を取られているのか誰もがこの異常には気が付いていない。
唯一、馬車の先導をしていた護衛をしていた女騎士が気づいたのかその場で直ぐに足を止めようするが馬が急に現れた人間のために止まれるわけがなくそのまま衝突してしまいそうになる。
そのまま打つかってしまうのかとと思いきや、その人間は身を翻し大きく跳躍すると懐に隠していたのか鋭い輝きを放つ短刀を構えて護衛の向こう側にいる白馬の繋がった馬車に飛び掛かった。
流石にこの状況を不味く見た俺は反射的に腰に掛けている剣の鞘に手を掛ける。そして瞬時に刺客の後ろに並ぶように立ちふさがるように迎え撃つ体制に入った。
しかしここからは刺客の顔はよく見えないため表情を読み取る事が難しいのだが突然後ろに現れた自分に驚いているせいか短刀を乱暴に振りかぶろうとしたため鞘でそれを簡単に受け止めることができた。
その一撃を受け止め鞘から剣を抜き取りフラー(剣の切れない所)で頭を殴打した後にそのまま身を引き寄せて首を強く引き締める。死なないように気道を圧迫しようとするとその場で身を捩り逃げようとするが刺客は抜け出すことが出来ず、その場で暫く抵抗をするが気を失ったのか手足を無防備に晒した。こうしてようやく気絶をさせることに成功し一先ずはこの場を収めることができた。
この一連の流れを踏まえて我ながら綺麗に決まったなと思っていると
馬車が突然その場で止まったことで一体なんだと騒がしくしていた歓声が止み、馬車の前に立っていた自然に自分と刺客に視線が集まった。
別に視線が集まるのは良いとして、この場の緊張感は残ったままであった
俺は刺客は無力化したはず・・・・此処は歓声があってもいいんじゃないかと思考を巡らせると周りを眺めた後に自分の現在の服装に違和感を感じた。
ああそうか、そりゃ怪しいよな・・・だって
先程無力化した刺客も黒いローブを纏っており、俺も顔を隠したまま戦闘に及んだのだ。
側から見ればそれはそれはどちらも怪しいのだろう。
「そこの怪しき者!武器を置いて止まれ!」
案の定だが護衛の女騎士に怪しまれたのだった。言われた通りに剣を鞘に収めて腰にかけ直すと両手をゆっくりとあげ、反抗の意思はないとわかるように大げさにアピールをする。
「俺は怪しい者ではない、たまたま此処にいて刺客と思われる輩を取り押さえたまでだ」
しかし先程と同じく顔に覆ったままだ。
とりあえず自分に戦意は無いと意思を表明するため上げたままの手をもう一度大きくプラプラと振る。
いい加減ずっと手を挙げているのも疲れるんだよなあ、正直言うと感謝の言葉の一つくらいあってもいいんじゃないかと不満を募らせていると馬車から何者かが降りてきた。
その者は周りを一瞥すると自分に剣を構えていた女騎士と足元の黒いローブを纏った刺客であろう者を見終わるやと同時に護衛の女騎士に近づく。
「アリス、その剣を下ろしなさい。」
「ですがイリア様、どう見たってこの者は怪しすぎます!」
ああ、そんなの俺でも分かっている。だから今すぐここから立ち去ろうとしたが
姿と凛としたその声と聞いて懐かしき思い出が脳裏に流れた。
昔遊んだ一人の少女との記憶だ。別れも言えずに互いに離れ離れになった一人の少年と少女との記憶だった。少し泣きそうにもなったが一目入れたことだし、俺帰ってもいいよね?
あのような別れになった事だし自分の事も覚えて無いだろう
この場を去ろうと思い、剣を収めさせた遠い記憶の少女、そして現聖女の彼女に隠したままの顔を向けた。
「状況を察してくれて感謝する」
顔を覆ったままで不敬とも言われかね無いが凛とし心を見透かすような蒼い目をした彼女に軽く会釈して踵を返そうと剣をもう一度付け直す。
この剣を落としてしまったらまた怒られてしまうのだ。
「こちらこそ無礼を許して、私を守ってくれたのに。それと貴方の名前をお聞かせ願えるかしら?」
周りには一目、聖女様を見に来た野次馬や信者達が固唾を飲み込んで静かにこの場を見守っている。
彼らの意識は刺客を無力化し聖女様を助けてこの男に向けられた。
こう思うと本当に10年前の彼女とは大違いだな、むしろ他人と言っても良いように思えた。
そして彼女に見え無いように口元を緩めて笑うと彼女の名前を初めて聞いた時の事を思い出したのだ。
そう、次こそはいや今度は自分が彼女にこれをやり返してやろう。
アイツ、いやリアは自分にこう言い放ったのだ。
「お前に教える名前などない、好きに呼べ」
と誰もが聞こえるようにいってやった。
これは当時の堅ッくるしい貴族間の社交辞令を完全に無視し、我が道を行く自由奔放な彼女が俺に対して言った言葉だ。この状況に固唾を見守っていた護衛や周りがより一層静まり返る。
「え、え・・?」
何言ってるんだコイツ?
聖女様からの表情と返事はこの場の空気を代弁した言葉だった。
ああ、もう無理!!
ついに10年も溜め込んだ仕返しをよりによって此処で言っちまったよ。
とりあえずこのままじゃ場の空気に耐えられないし、逃げよう・・・周りに袋叩きにもされかねないし。
俺はここから逃げるために踵を返し動きづらいマント脱ぎ捨てて顔を手で隠し走り出そうとする。
「待って!お願い待って!お願いだから!!」
「アリス、彼を追いかけて!!」
後ろから俺を静止するようにと声が聞こえるが決して振り返らずに一目散に人混みに身を溶け込ませ、傾きかけた日に隠れるようにして路地を走り抜けた。
この騒動が後日取り上げられ、聖女様の元にこの一連に現れた赤いマントを着ていた黒髪の青年を連れてきた者には報酬を支払うとお触れが出された事を彼の耳に届くのはだいぶ後の事になっている。