前進
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序盤の採集任務と言ってもそこらへんに生えている治癒効果のある薬草を持ってくるわけではない。今回の採集だってそうだ。解毒薬の元である解毒根を10本納めるのだがこの解毒草は葉自体に解毒効果はないので根元を切り取っていかなければならない。そして解毒草はよく探せば安全な王都内でも見かけられるが外で群生している解毒草の方が一段と効果に違いが出るのだ。
だから採集任務だからといってモンスターと戦わないという甘い事は無くモンスターの遭遇も常に視野に入れて行動しなければならない。
俺たちは任務を受注した後すぐに門から外の森に移動し解毒草の群生する地帯を探し周っていた。
「森に行けばすぐ見つかると思ったんだがそんなに簡単には見つからないんだな」
気の抜けた発言をしながら腰を屈めて草木を掻き分けて移動をする。俺が一番前で後方の左右にマールとマーレが付いてきている陣形だ。
「退屈でつまらないよー!我が君」
マールは相変わらずというか寧ろいつもこうなのかというぐらい草木を自分の腕から生やした黒い靄で削り取っている。短剣はもちろんのことだが使っていない。
「お姉様はご主人様に対して口の利き方が本当になっていませんね!帰ったら覚悟していてください!」
マーレもいつも通り姉の素行を見ては注意をし更生を促している。彼女の更生は難しいというより不可能だとは思うが。
「やめてよマーレ!怒りすぎると我が君に嫌われちゃうよ?それでもいーの?」
おい、マール。
俺に話を振るのはやめろ・・・たたでさえ今探すことで精一杯なんだからさ。
「我が君は聖女様みたいなお淑やかな人が好きなんだよー」
俺の考えはマールに筒抜けなのだが全く俺の話を聞いていないようだ。おまけに地雷を投下するような発言をするのだ。いちいち言うのも馬鹿らしくなってくるので彼女らだけで話してもらおうと無視することを決め込んで草木を掻き分けて奥に進んで行こうとすると突然後ろにいたマーレに腕を掴まれる。
「あのご主人様?あの話は本当なのですか?ご主人様はこの国の聖女を慕っているのですが?」
案の定だが地雷を踏んだマールのおかげで次々と飛び出す彼女の質問に俺は若干引きかけるがこれを無下にするわけにもいかなく短く息を吐いてマーレの方を向き宥めるかのように彼女に話し始める。
「まあマーレはわかると思うけどこの国には聖女がいるだろう?」
「はい」
彼女は素早く頭を縦に振り肯定をする。
「その聖女なんだが俺の幼馴染みなんだよ。しかも今のあいつは側から見れば聖女らしく振舞っているそうなんだが昔のあいつを知っている俺から言わせればそれは猫かぶっているのと更に性格が色々と壊滅的だったんだ」
生きたままカエルの足を捥いだりとかな。
「ええ!?ご主人様はそのような性悪女が好みなのですか!?」
その話を聞いてマーレは口に手を当てて驚く。気づけば彼女の目が病んでいる蚊のように見えるのは気のせいでありたい。そして彼女の問いに俺は肯定も否定も出来ず無言で手を制して話を続けた。
「性悪女も否定はしない。とりあえず頭のネジがぶっ飛んでいるのは間違いないんだよ。マーレが思っている事はないよ」
「そうですか・・・、ご主人様が言うのでしたら安心しました」
それを聞いて安心したマーレは胸を撫で下ろした。俺は話が終わると口には出さないが元の配置に戻るようにマーレの背中を優しく押す。彼女も抵抗することはなく歩き出したのを確認して同時に後ろに立っていたマールを無言で睨みつけた。
おい、余計な事を言うな!変な事を言うとマーレにお前がやったあんなことやこんなことをバラすぞ!
それとあんなことやこんなことについてはまた今度の機会に話すとしよう。
「さて日が暮れる前に早く探そうか!」
「そうですね!解毒草は水場に多く生えているはずです。近くに水の音がしますし向こうへ進みましょう」
そう言ってマーレは正面から見て少し右の方向を指した。
水の音がすると彼女は言ったので耳をすましてみるがそのような音は何処からも聞こえてこない。
「うーん、俺には聞こえないが水の音なんでするか?」
「はい、あちらに間違いないと思います!」
自信ありげに胸を張るマーレ。あと無意識とは思うがその胸は目に毒だ。
「我が君、マーレは自然を寵愛を受けた聖剣でもあるのだから自然の声とか聞くことができるんだよ。しかもその気になれば解毒草も出せる」
ええ!出せるのかよ!マールはそれを先に言うべきだろう。
たしかにそういえば林檎も手から出していたもんな。
今に驚くがマーレは聖剣であるがため俺が知ることより遥かに強大な力と知恵を有しているのは言わなくとも分かることだろう。
「お姉様!たしかに出せますけどそれだと任務にならないじゃないですか」
マーレの言った正論に自分の先程の考えについて一瞬喜んでしまった事を恥ずかしく思った。
「たしかにそうだよな・・・。さすがにそれは狡いしやめておこう」
「我が君がそう決めたなら私は得に異論はないよ早く奥に進もう」
そして俺たちは目的の解毒草を探すためにマーレが指していた方向へと向かって歩き始めるのだった。
其の頃、冒険者組合ではイオリアが業務を終えて王城へと帰還していた。
イオリアは聖女イリア様を守る女騎士の一人である。しかし特に用事がない際は冒険者組合で手伝いという名目で受付で業務を任されている。
彼女は王城へと入って最初に向かったのはイリア様の元である。
そしてイリア様の部屋の前に行くと指で扉を小さく叩いて自分の名前を言う。
「イリア様、イオリアです少し報告がありまして・・・」
「イオリア、そのまま中に入って頂戴」
「はい」
部屋の主であるイリア様の許可を得て返事をした後、静かに扉を開けて中に入る。
中に入ると部屋着の白いドレスに着替えたイリア様がソファーに座って紅茶を飲んでいた。
その姿も絵になっている。
「イオリアも紅茶はいるかしら?」
「はい、ですが自分で入れますのでイリア様はお手をおいてください」
イリア様の手を制して自分で紅茶を注ぎこんだあと熱い紅茶を味わって飲む。
そして幾分が経ったあと場の空気が落ち着くと共に私は今日あった事をイリア様に話す。
「今日は冒険者組合でイリア様から任されていた件を含めて幾つか調査をしてきたのですが手がかりになる情報は寄せられていませんでした・・申し訳ございません」
任されたというもの手がかりといった手がかりを見つけられずに無力さに下を向くとその姿を見たイリアは優しく声をかけた。
「顔を上げて、謝らないでまだ昨日の事よ。そこまで急いでいないから大丈夫」
「そう言われましても・・・あ、たしか今日の昼過ぎですがある出来事がありまして」
「なにかしら?」
私は今日の冒険者組合であった一連の騒動に現れた上位冒険者を素手で倒した者の話を切り出した。
「関係ない話とは思いますが冒険者組合で未然に防げたとはいえ事件が起こったのです」
「また誰かが暴れたの?」
冒険者組合という場所だ。もちろん暴力沙汰の事は何時もではないが、時にこのような事件が発生する場合があるのだ。
「ある上位冒険者が登録したばかりの下位冒険者に斬りかかったのです」
「それで彼が亡くなったの・・・?」
登録したばかりの新人の下位冒険者が上位冒険者である者に斬りかかれたらひとたまりもないだろう。
しかし誰もが思う最悪の場合は幸いなことに起こることはなかった。
「いえ、その下位冒険者が上位冒険者を倒しました」
「え、まさか?それは本当のことなの?」
イリア様に任された件とは関係の無い話なのだが興味津々に聞く彼女に思わず舌が回る。
下位の冒険者が上位の冒険者を倒すというのはそれほど凄い話なのである。
上位にとって下位の上である中位の冒険者でさえ赤子の手をひねるのと同じなのだ。
その間の壁はとてつもなく大きい。
「私の目の前でしたから間違いないです。さらに彼は素手で倒したようでした」
「それほどの者なら名のある戦士か何かかしら?それと彼の名前は?」
「ええ、たしかイレイドという者です。彼のパーティには最低人数の3人のみで彼以外には女性を2人連れています」
「イレイド・・・聞いたことはないわね」
広い部屋で静かにその場で考え込む二人だがどれほど考えていてもその名前に聞き覚えはない。
「彼の容姿は覚えてる?」
思考を打ち切らせ彼の姿や服装を思い出すと口を開く
「たしか黒髪で緑のマントです」
「黒髪?それは重要な手がかりじゃない!私ね!さっきから思っていたのよ、名前がイレイドよ?ふざけていると思うけどあの人らしいのよ。きっと間違いないわ!」
先ほどの事と打って変わってイリア様はその場で立ち上がり私でもよく分かるくらいに喜んでいる。
しかし私は何故イリア様が喜んでいるのかがわからなかった。イリア様が言っている男は貴方が・・・と疑問に思っていると私とイリア様しかいない部屋に扉を叩く音が響き渡った。
「私です、イリア様。少しお話が」
「いいわ、入って頂戴」
イリア様はその場で立ったまま返事を返したあとに座ると扉の方を見る。そして扉を開けて入ってきたのは同じ護衛騎士の一人のアリスである。彼女も昔からイリア様のそばにいる者の一人なのだ。
アリスは私の隣に座ると同時に報告の内容を読み上げた。
「アリス様が探していた男ですが私の信頼できる部下の一部に彼を生きたまま捕まえてこいと命令を出してきました。何か情報が入れば私の耳に届くかと」
アリスが報告をした途端に報国に何か違和感がしたのかイリア様が怪訝な顔をすると顔を上げてアリスに話を切り出した。
「ちょっと待ってアリス、もう一度今の話を言って頂戴・・」
「彼を生きたまま捕らえてくるように命令をしました・・・しかし私、何か変な事をいいましたか?」
アリスは笑いながら頭を掻きながらそう答えた。
「その生きたままってまさか彼に危害を加えるということではないでしょうね?」
しかしそれに対してイリアの顔は深刻なものをしていた。
何かご無礼をしたのかと二人で顔を見合わせていると先程のイリア様の言葉の意味を悟ったのか思わず私が声が出てしまった。
「お話の途中にすみませんイリア様・・もしかしてですがイリア様が先日仰っていた。私の元へ連れてくるといったのは・・・」
「ええ、レイドに危害を加えて無理やりここに連れてくるようにとは言っていないわ」
その言葉に思わずアリスも口を挟んだ。
「イリア様!しかし彼は魔族の可能性があります。それは危険です」
「たしかにそうだけど、そんなことをしたら彼がもう届かないような場所にいってしまうような気がするのよ!」
「私たちが部下に出した命令をすぐに取り消すように通達します。ですが・・・・」
「彼は私の大事な人なのよ」
そう言うと静かに下を向いたまま考え込んだかのように目を閉じる。
すでに誤った情報が行き渡った騎士から調査に乗り出しているのだ。再度情報を通達するとしても時間がかかることだろう。
ここで私たちは聖女様が命令ではなくお願いとして頼んだ本当の意味がわかったがそれは遅いだろう。
幾つかの騎士は取り押さえるために行動に移しているのもある。
イリア様の考えが危険すぎるのだ。聖女でもあろうお方の前に魔族の男を連れてくるなどいうことは前代未聞の大騒動になるに違いないのに加えて無傷で連れてくるのだ。実現する方が難しいだろう。
たとえイリア様が良いといっても私たちが護衛騎士の者たちが許せるはずがないのだ。さらに相手は魔族と言われるモンスターの上を行く上位の生命体である。
私たちが無言でその場でイリア様の願いを叶えるために行動するべきなのか、身を案じて思いとどませるために止めるべきなのかと考えている。
しかし結論が出せずにしているとその場でイリア様が立ち上がった。
「イオリア、アリス。こうなったら私が直接行くわ!」
立ち上がると服を着替えはじめるイリア様に自分が制止するように声をかけようとしたがイリア様がそれを無言で睨む。
こうなるとイリア様は自分のために行動をするだろう。こうなったイリア様を押さえる事ができないのはアリスも私もよくわかっているため途方にくれるがこのまま一人でいかせるわけにもいかない。
「イリア様、私が共に行きます。調査に乗り出している部下に直接言いに行く方が話がつけやすいでしょう!」
「私も!アリスも行きます。こうなったの責任も私にもあります」
イリア様の側で二人は膝をつき彼女の返事が来るまで待つ。あとはイリア様の判断を待つだけだが、たとえ彼女が断わっても見つからないように護衛をするつもりだ。
「ありがとうイオリア・・アリス・・・お願いだから手伝って頂戴!わたしのために・・・」
「「はい、イリア様の御心のままに!」」
そうして聖女イリアと護衛の女騎士アリス、イオリアの3人の旅は始まる。
誤字脱字がありましたら教えていただけると助かります。
今後の内容で少しネタバレになりますがお話しますとこの話で分かるように
イリアがレイドを探すためについに動き出します。しかしイリアの目的に反してレイドは己のある目的のために行動をしているためイリアの元にいるわけにはいかない。レイドは彼女から逃げるかのように進み続けるしかないのです。