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論争

 あの後素材を売った資金を手に持ち近くにある手頃な屋台を探して食事を済ませると三人で観光がてら街を歩き回ったりマールとマーレが人の姿でいる時のための護身用の剣を購入したのだ。マールとマーレの二人は本来ならば武器が必要ではない。


 しかし見掛け倒しだけでも武器を持っていた方がいいと思ったため形だけでもと二人が持ちやすい短剣を選びそれを渡した。俺は刃渡りが腕の付け根から指の先ほどのロングソードを選んだ。もちろん武器を揃えるのには結構な値がしたが二人が人の姿をしている時に無防備では危険なのは明白である。


それに万が一の場合を考えて必要な経費として割り切った。


 必要な買い物も済ませ冒険者組合へと任務を受けるために再び足を運ぶと登録時に受付を一人で慌ただしく切り盛りしていたイオリアが疲れた顔で何者かと揉めているようだった。


「気持ちはわかりかねますがこれは冒険者組合の定めたルールですので上位冒険者のユウリ様でも許可する事はできません!」


「私が良いと言ったら良いのだ、実力は十分な筈だぞ!はやく私にも特殊任務を受けさせてくれ」


「ダメです!特殊任務は上位冒険者の中でも腕が立つ者のみにしか任務を受けれません!」


「なんだと!?お前は俺が弱いと言ってるのか」


 近くで話を聞く限り差し詰めユウリと言う者が自分の身の丈に合ってない任務を受けようとしているのだろう。もちろんそんなのを許してしまっては死人が沢山出る事だろう。よって冒険者組合でも階級制度を設けている。


 自分が属している下位冒険者から順に中位、上位と更にその上に最上位が存在する。階級によって受けれる任務の種類が変わり最上位となると特殊任務という危険度が高くそれに応じて報酬も高い任務が受けれるのだ。


上の階級に進むにつれて人数が少なく上位冒険者以上で多大な成果を収めると二つ名が与えられる事もあるのだ。


あまりにも長引きそうだったのでマールとマーレに外で少し待ってもらうように言うと未だに揉めている受付と男の元へ割り込むかのように話しかけた。


「すまない、任務を受けたいのだが?」


「すみません、ただいま取り込んでおりまして・・・」


「そこの冒険者!見ない顔だな、さては新人だろ?今はこの俺が話しているんだ邪魔をするな!向こうに行ってろ!」


向こうに行けと言われても・・・二人を待たせているんだよな。

後ろを確認すると退屈そうに立っているマールと此方を心配して遠くから見ているマーレの姿が眼に入る。


「初対面に失礼なやつだな、お前が誰かは知らないがルールを守ったほうがいいぞ」


 ただでさえ熱くなっているユウリと言う男に俺も嫌味ったらしく口を挟むと彼は此方を見て顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。


「貴様!一度は貴様の無礼を見逃したがこの俺、ユウリ様にその口の利き方はなんだ!?」


「無礼なのをお前だろ、冒険者なのに組合の規約でさえ守れないのか!?」


彼の発言に俺も面倒とは思いつつ反論しそれを聞くと一層と顔を赤くし眉の皺を寄せる。


「おのれえ!先ほどから聞いていれば新人の分際でこの俺を馬鹿にしおって!」


 その言葉を最後に彼は腰に携えていた剣へと手を掛けた。それに気づいたイオリアは彼の行動に対して驚愕のあまりに小さく声をあげる。


 恐らく彼女の眼には新人の下位冒険者に行き場のない怒りの矛先を向け、剣を振り下ろさんとするユウリの姿が映っているのだろう。性格は酷い男だが実力は備わっている上位冒険者である。


間違いなく下位冒険者である隣の男が無残に斬り殺されてしまう。


 それを止めに入ろうと先ほどまで静観して見ていた周りの者の慌てる姿が見えたがこの間合いではもう遅い。目の前で起こる惨劇に自分も瞬時に対応する術もなく現実から目を逸らすために彼女は目を閉じる。



 しかし彼女が思った事が起きるわけがないレイドも黙って斬られるわけがないのだ。

素早い身のこなしで剣を抜いたユウリが振り下ろさんとする彼の手に肘で往なすと姿勢を崩した際に落とした剣を届かぬように向こう側へと蹴った。


そして瞬時に彼の眉間に向かってもう片方の手で死なないように加減した拳を叩き込んだ。


 無防備な眉間に叩き込まれたことによってユウリはその場で魂が抜けたかのように無様に倒れレイドはそれを支えることもなく汚したわけでもないがその場で手を払う。


 最悪の未来を予想した彼女はゆっくりと目を開けるとそこには無残に切り裂かれた男の姿は無く無傷で上位冒険者を素手で倒したであろう新人冒険者の姿があった。


「う、うそ?」


「何が?」


そう言って俺は彼女の言葉に首を傾げる。


「貴方は本当に下位冒険者ですか?」


「あー、そういうことか。たしかこの男が上位冒険者だったらしいな」


彼は寝っ転がっている気絶した男を指さして彼女に確かめる。


「ええ、一応上位冒険者で腕は立つ方でしたがそれを貴方が倒したのですか??」


 私は彼が倒した瞬間を見ていないがしかし他の周りの反応を見る限り彼が倒したのは間違いないだろう。

だが彼は本日登録したばかりの新人の冒険者つまり下位冒険者である。


元から稽古をしていたとしても素手で上位冒険者を倒す人など本当に限られた者しかいないだろう。


彼はその一握りの人間なのかもしれない。


「見てなかったのか?倒したのはいいけど俺に罰則とはないよな?」


「えーと、はい罰則は彼が襲い掛かったので貴方は身を守るために然るべき対応をしたので無いと思います」


私がそういうと彼はその場で安心した顔をする。


「で最初の話なのだが任務を受けたい。俺たちが受けれる任務をいくつか見繕ってくれないか?連れは外で待たせているあの二人だ。登録してから間もないんだし覚えているだろう?」


彼は何もなかったかのように平然とした顔でそう笑う。


「はい、覚えてますよ!では冒険者カードを提示してください」


 懐から冒険者カードを出して彼女それを受け取る。手元の書類に書き込むとすぐに任務の紹介をする。


「えーと下位冒険者ですので・・・、簡単な採集任務しかありませんが構いませんか?」


「そうなるよなあ・・・採集任務か。それでも構わないから頼む、あとこの男はどうするんだ?なんなら俺が縛っておくが」


「あ、そのままで構いません。こちらで対応しますので」


 私は書類に任務の受注事項を書き込んで任務受注表の隅に彼の名前を横に書き込む。

イレイド・・・性はないので貴族ではないだろうがこれほどの腕の者だ私の耳にも名前が届いてないのもおかしい。しかし実力は折り紙つきで上位冒険者にも劣らないくらいだ。


考えつつ素早く手続きをし彼に簡単に注意点を説明をする。


「では任務を受注しました。もし失敗するとお金がかかりますので気をつけてください」


イレイド・・ね。


再度彼の名前を確認した後、彼の冒険者カードを返却する。


「ありがとう。ふう、色々あったけど任務が受けれたよ!じゃあこの男は頼んだぞ」


 受け取ると彼は手を振って早々と待ち人の元へ向かい冒険者組合から立ち去った。

彼が立ち去ったことで先程までの緊張が解け、一人の男が縄を持って倒れた上位冒険者が起きて暴れないようにきつく縛る。


この男の行動は未然に防げたが規律を乱した事によって少なくても上位冒険者の位から中位冒険者に下げられる事となるだろう。そして安易に上位に戻れないように数年の規制があるのは間違いない。


他の職員が動いたため私は手伝う事もなく見ているだけだった。その場で呆然としたままイレイドという名の男について考えていた。




もちろん当の本人であるレイドは知るよしもないだろう。






6/4の昼頃に最新話を投稿予定です


ジャンルだけでも20位内・・・評価点ブクマを入れて1200ポイントも超えました。

皆様のおかげです本当にありがとうございます。


評価、感想お待ちしております。


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