組合
「これは聞いてはいたがこんなに大きかったとは・・・」
冒険者組合について事前に知っていたとはいえここまで大きかったとは思わなかった。大きさもそうだが街の建物の色に合わせるかのように白塗りの壁に正面はガラスで中の様子がよく見えており要塞のようになっている。そして思っていたより王城でのリアとの一連があった場所の近くにあるため俺の顔が手配になっている可能性も考えて俺は通りの物陰から中の様子を確認していた。
「特にビラとかもないし変装する必要もないよな?」
「変装したほうがよくない?」
変装をするかしないかで迷っていると背後に立っていたマールとマーレが何やら考えがあるということでその考えとやらを聞く事にした。
「我が君!聞いて驚け見て驚け!」
そういうとマールとマーレはお互いに顔を見合わせてから両手で相手の顔を洗うかのように目や鼻や顎を触っている。そして顔を手で抑えたまま数秒した後に掛け声と共に顔を隠していた手を離す。俺はそこにある現象に思わず目を見開いた。
「え、なにこれ?」
なんと二人の顔が入れ替わっている。
じっくりと二人の顔を見るとマールの顔がマーレの顔になっておりマーレの顔がマールとなっていた。しかも目の色も変わっている。
元々マールとマーレは姉妹のため似ていることには似ているのだがマーレが幼げな顔をしているため区別がつくのだ。俺が驚いた事を確認するとマール達は自分の顔を両手で隠して再び離すとそこには元の顔に戻ったマールとマーレが楽しそうな顔をしていた。
「我が君、感想は?」
「ご主人様、どうですが?」
「普通に驚いた。これって顔を入れ替えてるの?」
「いや違うよ」
「違いますね」
そう言ってマールは首を横に振りマーレはその場でただ手を横に振っている。
「これはね顔を入れ替えているんじゃなくて顔を作っただけだよ」
「顔を作った?」
顔を入れ替えたのではなく顔を作った?そんなの初めて聞いた・・・。
「使う機会なかったしね!これは顔の表面に魔力の塊をくっつけて後は適当に弄っただけだよ」
「つまり顔に魔力を塗っているという事か・・・」
「ご主人様。その通りです、なのでご主人様の変装用の顔を私たちが作ってみようと思ったのです」
なるほど、あれほど違和感がなく作れるもんだから。他の人から見てもバレるという事もないだろう・・・。
ここは二人に任せようと顔を指差す。
「マール、マーレ。じゃあ頼めるか?」
「いいよー」「任せてください」
俺は二人に為すがされるままその場で座り彼女たちに頭を差し出すと二人はその場で考え込んだ顔をしてゆっくりと俺の顔を触り始めた。
触り始めてからというもの顔には暑い感触が包んでおり魔力の流れを皮膚で直接体験することとなった。年齢不詳とはいえ女の子ふたりに顔を揉みくちゃにされているので嫌な気持ちはしなかったしむしろいい、されどいいのだ。
「マーレここどうする?」
「ここはこうしましょう!」
二人でになにやら決めかねているのかその場で俺を佇んで彼女らの作業を目を瞑って見守った。
しばらくして二人の手が俺の顔から離れたために目を開けると満足そうにこちらを見るマールとマーレの姿があった。
「まあ私が見知った奴の顔にしたのを」
「私の好みに少し変えました!」
「そ、そうなんだ」
いつもより気が高ぶっている二人は俺の背中を押して向かいの冒険者組合のガラスに自分の顔が映るくらいまで移動をさせた。ギリギリ反射して自分の姿が見えるように顔を覗くとそこには同じ歳くらいの青年の顔が写っていた。
「本当だ、俺の顔じゃない!?この顔は誰かの顔を見て真似たのか?」
そう問いかけるとマールが頬を掻きながら答えた。
「言いにくいけど我が君の屋敷のある青年の写真を見たからそれを元にして作った」
「これ多分俺の祖父の顔に似てるから祖父の若い頃かも」
「やっぱりそうだったんだ、なんか作りやすいなって思ったけど具体的な記憶は無いにしろ使ってくれていた感触とは残ってるからね・・・」
「そういえばマールはずっと寝てる間は祖父に使ってもらってたもんな」
そう言っていると隣に立っていたマーレが俺の顔を先程から注視している。
「マーレ?さっきから俺の顔見てるけど何かついてるか」
「えーとですねご主人様・・・何かあの人に似てるなーと思いまして」
顔を少し赤く染めた彼女は表情では楽しそうにしていたが目を見ると悲しそうな瞳をしていた。
「あの人?」
あの人って誰だと疑問を浮かべるとマールが俺の横腹を肘で突いたため、マーレから視線を離して彼女を見ると口元に指をあてておりこれ以上は何も答えるなと俺に無言の圧力をかけた。
黙ってそれを了承してあの人とは誰のことと考えているとマールの行動をヒントに一瞬で答えに辿り着くことができた。
口と表情には出さないようにしているが、恐らくマーレが大分執着していたとされる結婚詐欺の何代前の先祖のことだろう。
おい!とその方に突っ込まれそうだが結婚する口約束をしたのは良いものの彼女を置いて結婚せず亡くなったのだせめて結婚してからにしろよとツッコミをいれたい。ともかくマーレは彼のせいでいろいろと難ありな性格をしている。
「いいえなんでも無いですよ。よく考えたらご主人様もお姉さまが言っていた方もあの人の血も継いでいるので似ているのは当たり前ですよね」
あえて誰と似ているとは聞かないでおこう。
マーレの意見はとんだ暴論だと言いたいところだが彼女は満足そうに笑うとすかさず俺の腕に抱きつく。
そしてそばで立っていたマールはやれやれとした顔で冒険組合を指差している。暗に早く登録を済ませろといっているのだろう。
恥ずかしいのもあるが幸せそうなマーレの顔を見ると無理に剥がすことも出来ずガラスで作られた入り口付近で横目で再度顔を確認し結局抱きつかれたまま冒険者組合に入る。
男1人で女は2人、しかも片方は抱きついたままのため広いフロントとはいえ行き交う人の目が痛かった。
受付に行くと忙しそうに動き回る女性の姿が目に入る。このまま待っているのも良いがまだ朝飯もおらず所持金も心もとない旅の途中に拾ってきた素材や道具はすべてマールが持っている。それを登録後に売却しようという考えだ。
俺がフロントの女性に声を掛ける。それにして何処かで見た服装だなあ考えているとそれに気づいた女性がこちらを振り向いた。
「イオリアと申します。お待たせしてすみません!少し立て込んでおりましたので今日は何の御用でしょうか?」
イオリアと言ったこの少女を華麗にお辞儀をするその際に彼女の服装に視線が行き目を疑った。
白き甲冑にルグイドの紋章の国章を模した女神のマーク・・・こいつリアの護衛騎士の一人か?
顔には出さないようにしてはいるつもりだが内心はこの場を脱するべき焦りまくっている。恐らくリアに近しいものがこの護衛騎士の者たちだろう。
リアと俺の一件も耳に入っているのかもしれないと彼女に顔は知られているのかいないのか彼方の様子を伺っていると
「お顔がよろしくないようですがどうかしましたか?」
「い、いや少し立ちくらみがしただけだ」
俺の様子を気にもとめたのか此方を熱心に見つめる女騎士。
それに対して彼女は…
この人の服装は恐らく他の地方の者ね、さては冒険登録に来たのかしら。
でも彼の後ろの人たちは・・・というと彼より年下の子達ばかりね。
一体どんな関係なのかしら?ほんとやだやだ、最近の同世代はしたないわね
「もしかして後ろのお連れ様と冒険者登録をしに来たのですか?」
「あ、はい。後ろの二人も同じく登録です」
やっぱり冒険登録ね、早く終わらせてイリア様の元へ行かなくちゃ
「はい、確かに三人いますね。この書類に必要事項を書いたらお呼びください」
そういうと彼女は三人分の書類と書く物を渡すとそそくさとまた先ほどの作業に戻っていった。
彼女が作業に戻ったのを確認すると気を緩めて口から大きく息を吐いた。
「よし変装はバレてないようだな・・・よし名前は何にするか。本名じゃまずいし全く別の名前だとお互いに呼びにくいから簡単に"イレイド"だけにしておこう」
家名は貴族にしか持っていないため下手に適当な家名を書くといざそこから調べられた際に存在しない貴族として怪しまれちょっと調べれば偽名と判明してしまうことを避けるためである。
「じゃあ私は我が君と同じ感じでイマールで」「私もご主人様と同じくイマーレにしますね」
適当すぎて安直な名前が決まればあとは簡単である。数分もただずに書き上げるて彼女を呼び書類を渡した。そこからというものの彼女の手腕がいいのか書類を確認し冒険者組合の規約書を説明すると瞬く間に真新しい冒険者カードを渡される。その後俺たちは別の窓口で素材を買い取ってもらい冒険者組合をあとにした。
冒険者規約は多数あるが特に重要なのは冒険者カードの裏に示されている。
・冒険者同士の認可の無い戦闘は禁ずる。
・階級別に適切な任務を受ける事。
・冒険者組合の指示には必ず従う事。
・聖女を崇拝し敬う事。
・聖女に対し害をなしてはならない。
そしてこの規約をよく確認しなかったためにあの後大事なことになるとは誰も想像をしなかっただろう。
誤字、脱字の指摘お待ちしております。
総合評価1000超えました!皆様のおかげですありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
そして今後のこの作品の予定ですがあらすじに書いたとおりタイトル通りの内容となっていきますのでタイトル詐欺だろと思う方もいらっしゃるとは思いますがお待ちいただけると助かります><
6/2追記 最新話は日付変わる前には投稿します。それと お指摘でもありました通り過去の投稿の誤字や脱字、更に修正するべき点を少しずつ直していきます。