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出発

 小さい頃から乱暴でガサツで口が悪かったあいつがどうも聖女と呼ばれ崇拝されているらしい。


 この噂を耳にした時、名前が似ている誰かの話だろうと思ったが、どうやらそうではないらしい。


 酒屋でこの話題を聞きつけ、耳を傾けていると髪が蒼く目は薄いコバルトブルーで肌は白い・・・と カエルの足を愉快に捥いでたアイツの顔が脳裏に浮かんだ。



 自分がこの地に生を受けてから8年が過ぎた頃、親父が病気で亡くなった。それと同時に、祖父に引き取られ、この大陸を離れることになった。


 引き取られた先の見知らぬ大陸でニューライフが始まる!と思いきや、「男は剣を持つべし」と祖父に徹底的に叩き込まれ、10年後にようやく認められ、嫌々追い出されるように旅へと出た。


 祖父は、大陸でも名高い剣士だったらしい。だが詳しく聞いても教えてくれる事は無かったし聞こうとする柄で頭を叩かれたりもしたものだ。



話が逸れてしまったがとりあえず話を戻そう。


 以前、自分が8年住んでいた屋敷の近くに住んでいた乱暴な少女がいた。

アイツの名前はイリア=アーデルダンテ 周りはイリア呼ぶがリアと俺は呼んでいた。話が正しければ彼女が聖ルグイド王国の現聖女のようだ。


ちなみに聖女とは国が国教としているルグイド教の経典に示されている 聖なる力を扱う少女のことである。


 この聖女の力は選ばれた聖女が亡くなったりや身体が満足に動かせ亡くなったりした時にその力は巡り巡って相応しい者に継承される。これには血縁等も一切関係なくこの世界の誰かに継承がされるため神のきまぐれとも言われている。

それが偶々、アイツに当たったわけなのか。この世界の神様は心が清らかな者に限るとか上手く出来なかったのかと俺は内心愚痴っている。


「まあ、でも何かの間違いであってくれたらいいんだが」


 久しぶりの故郷に身を振るい立たせると真っ赤に染まったマントを叩くように立ち上がる。

このまだ朝とも言えない微妙な時間帯に欠伸をしながら先ほどまでの思考を忘却の彼方まで葬ると身体をほぐすような動きを取ると全身から軋むような感触が広がる。これがまた心地良いのだ。


 長い船旅でやっと目的地に着くことが叶い慌ただしく積荷を運びだすと都合の良い馬車を見つけて銀貨を渡し交渉をする。そして話し合いの結果、聖ルグイド王国都市部・・・つまり王都まで乗せてもらうことになった。


大した荷物も無いが馬車へと乗り込むと居心地はそこまで良くは無いが奥に積まれている藁の匂いが故郷の農場を思い出す。小さい頃も潜り込んでは気づいたら寝てたことがあり親父に怒られたものである。


「そういえばあいつとも藁でかくれんぼとかしたっけな」


外で馬を引いている老人には聞こえないだろう声で呟くと、もう一度息を深く吸い込む。ふと脳裏に懐かしい記憶が蘇ったのだ。そうあれは昔の事だが自分が少女から追いかけられ逃げている。その彼女の顔がとても遊んでいるような顔ではなく猛獣が獲物を見つけたかのような表情で追いかけているのだ。今でも身震いをしてしまうほど記憶のそこに刻まれている。


そして更に言うと俺は彼女にあの後捕まったのだがそこからの記憶はよく覚えていない・・・いや、思い出したくないだけかもしれない。


思わず思い出し笑いしてその場で目を閉じていると馬車の車輪が土と擦る音だけが身体に染み渡るように響きはじめた。この不安定に上下や左右に揺れるこの感じもいい味を出している。突然襲いかかる睡魔に夕方には着くだろうと目を閉じたままで手を伸ばし積荷にあった自分の剣を大事にそっと隅に置いた。



そういえば言うのが遅くなってしまったがモンスターと言われる人間を襲ったりする危険な動物や魔族がこの世界には存在している。


 祖父が俺に鍛錬や剣術を叩き込んだのも、自分の身を守るためだったのだろう。引き取られた矢先に以前のまったりとしたマイペースな生活とは懸け離れた修行の日々が続き、日々鍛錬を重ねてそれ相応の力を使えるようになった。そして鍛錬を続けて時が流れ祖父から何本か取れるようになり、更にその数日後には旅に出てこいと追い出されるかのように締め出される。それに嫌々ながらも自ら旅に出ると様々な出会いし今この場に至るのだ。


そして暫くすると馬車の揺れが気にかからないくらいの眠気が迫り、それに身を委ねるようにして目を閉じ意識を落とした。




それから3時間程だろうか・・・・揺すられていると気づいて目を見開くと馬車を引いていた老人が困った顔で立っていた。


「おい坊主、いい加減起きてくれよぉ・・・お前さんの目的地に着いたぞ」


身体を揺すられるような感触がし未だに重い瞼を強引に開ける。


「なんだ、もう着いたのか・・・昔は半日は掛かってたはずなのに」


以前、自分が港までに行くのには馬車で半日近く時間が掛かっていた。


それなのに3時間で着くとは思いがけない誤算で考え込んでいると見かねた老人がやれやれと顔を顰めて頭を掻くと面倒そうに話しを始める。


「ここらへんは聖女様のお付きがモンスターを一掃してくれたからよぉ、安全になったわけだから昔と違って回り道しなくていいんだよ」


「そういうことか、随分その聖女様はなんだかんだ皆んなの役に立っているんだな」


「そりゃそうさ俺ら農民にも優しくしてくれる女神様みたいなもんよ、怪我は治してくれるし手は握ってくれるしな」


こうあいつの噂を聞くと益々人違いかと思えてくるが、万が一の事だ。本当に彼女かもしれない可能性を視野に入れて一目くらい見行ってやろうか。


「そうか・・おっさんありがとうな。ここまで助かったわ!」


「報酬は十分にもらってるしな!坊主は見るからに冒険者か?」


自分の腰を指差す老人のその視線の先には一本の剣があった。ちなみにこの剣だが祖父が 

「ワシはもう使う事は出来ん、どうもコイツもお前に懐いているような気もするしのう」

と言って旅に出る前に突然押し付けるかのように渡してきたのだ。まあこの剣はなんと祖父が俺と同じくらい若い頃に共に旅をした業物らしい。そのためお前が死んでも無くすなと何度も釘を刺されている。なら俺に渡さないで保管しておけと言いたいものだが渡されたなら断る道理もなく素直に受け取った。

あの時は嫌々なところもあったが渡してくれた事については今も感謝をしている。


剣を優しく摩りながら馬車から荷物を降ろすとそれを大切そうに背負い直し老人に向き合う。


「まあ、そんなところだな」


「ははん!そうか〜!若いってのはいいのう。さてはお主も冒険者になって此処で一発当てに来たんだろう?」


「いいや、お別れも言え無かった古い友人の今を一目見に来ただけだよ」


そう言って老人に手を振り馬車を背にして別れを済ませるといよいよ目的地が近くなり気分が高揚する。



更にそこから十分程度歩くと大きな門が目に入った。随分と立派になったものだなと感心をし辺りを見回しながら進む。ちなみに昔はこの半分くらいの門だったのだが見ないうちにどこもかしこも大きくなったものだ。


「身分証の提示を」

門の守衛らしき者に近づくと此方に気づいたのか無愛想な顔を引き締めて凛とした声で言い放った。

若干疲れた顔をしているようにも見えるが言われた通りに事前に用意に用意を重ねた身分証を提示する。


冒険の出発前に必死になって探していたものが、このルグイドの身分証だった。長い事、使わ無かったため何処に置いてた事すら覚えてなく荷物を漁りに漁った結果、ボロボロになった紙切れを濡らして伸ばして乾かしたものだ。


「これでいいか」


門番はそれを見ると眉間にシワを寄せた


「これは本当にこの国の身分証か?」


「見ればわかるだろう、名前も書いているしな」


門番は自分の足元から頭のてっぺんまで見ると息を吐いて門を開いた


「中に入ったらギルドで身分証を新しくしたまえ、これは古すぎて辛うじて読めるが見辛いぞ」

 

「親切にどうも〜」


そう言うと手を振り悠々と目的の聖女様を探しに門を潜った

残された門番は変わったやつだなと門を閉じて、彼の名前を思い出す


「レイド=アウリウス・・・珍しい黒髪にアウリウスといえば今は亡き聖剣の担い手の名家の名前か」


変わりもんの小僧だと思っていたがまだあの家に”剣を使う”者がいたとはと感慨に耽って、閉まった門の向こう側に歩いて行ったであろう方角を見た。




 アウリアス家とは現在の聖ルグイド王国になる前の旧ルグイド王国時代に名を馳せていた聖剣の担い手の家系である。この聖剣の担い手とはその名の通り、聖なる力が宿った剣である。

アウリアス家は聖剣を行使し魔を退け天災を沈めたと古い言い伝えがあるのだが

この家系が途絶えたとも言っても過言でもない問題が発生した。


かつてもっとも重視されていた聖剣が、ほとんどの力を失ったのだ。


理由は分かってないが王国でアウリアス家を良きと思わない者の思惑と聖剣に起こった異常事態の原因で由緒正しき聖剣の担い手の家系はルグイド王国の辺境の主として飛ばされ田舎領主になったのだ。




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