魔王がやってきた
ある日、平穏な王国に突如魔王が現れた。
その魔王は自分の体の見た目を自由自在に変化させることができる魔王として有名で、その悪名は王国全土に轟くほどだった。
そんな魔王が突然、王国に降り立ったのだ。もう国は騒然、人々はみんな慌て、至るところから騎士やギルドの人たちが集められた。ところが、魔王は早くもその姿を変えてしまっていて、みんな誰が魔王か区別がつかなくなっていた。
そんな時、ある兵士が魔王の姿が城の中へ入っていくのを見た、と言った。
そして、僕が呼び出された。
僕の名前は勇者。それ以上でもそれ以下でもない。
実は僕と王様はとっても仲がいい。毎日のように合って、ご飯を一緒に食べたりする。だから毎日王城にも出入りしている。
そうしているうちに、僕は王城に住むほとんどの人を覚えてしまったのだ。顔や性格、名前も全部だ、全部。
だから王城の皆は、王城の中に入った誰に化けているかもわからない魔王を見つけることができるのは、勇者である僕だけだと踏んだんだ。
勿論、その考えは間違っていない。覚えはするけどどうでもいいことから順にどんどん忘れてしまう癖があるけど、問題はない。嫌いなコックの黒歴史や、お気に入りのメイドの特徴だって覚えているんだ、大丈夫だろう。
僕はきっと、王城に入り込んだ魔王を見つけて懲らしめてみせるんだ。姿を自由に変化させて王城に忍び込むなんて許せない。狡い、ふざけてる、きっと魔王はポンコツであんぽんたんな野郎に間違いない。
僕は怒りマックスで王城へと入る。中はもうてんやわんやで何がなんだかわからなかった。でももう大丈夫、僕が来たからにはもう安心だ。
城の中を歩いていく。見覚えのある顔の人たちが僕の姿を見て喜んでいる、ああ喜び給え、僕が来たからにはもう安心だ。何度でも言うぞ。
でも違和感のある人はいない。みんな僕が知る王城に住む人たちだ。
そこで僕はあることを思いつく。
「僕が魔王だったら、間違いなく王様に変身する」
だって一番殺されにくいだろうから。
思ったら即行動、僕は急いで最上階の王室へと走る。走り出す僕の姿を見てみんな喜んでいる。そうだ、僕が来たからにはもう安心なんだぞ。
そうしてやってきた王室、そこには王様の姿があった。入口に背を向けて、阿鼻叫喚の城下町を見下ろしている王様がそこにはいた。
でも僕はそこで確信した。こいつは王様じゃない、と。
えも言われない違和感があるのだ。なんというか、ええい、何とも言えない違和感、違和感があるのっ。
だから僕は剣を構える。怖がる国民のためにも一刻も早く悪を成敗しなくちゃいけないんだ。
でもただ剣で倒すのは優しすぎるかもしれない。相手はポンコツおたんこなすのあんぽんたんだ。お仕置きも必要だ。
……よし、お尻を蹴ってやろう。お尻を叩かれるのがとてもとても痛いということは僕がお母さんに叩かれていることで身をもって知っている。
準備は整った。僕の一撃、いや二撃が王国を救うんだ、いくぞ!!
「魔王、かくごー!!」