第十五 戒厳令
いつも読んでくださりありがとうございます。
いろいろな階級について整理しましたので文章を改訂しました。魔法士→魔法師、八十レベル魔法士→第二等魔法師《2015/10/9》
第十五 戒厳令
アール達は、警備軍の司令棟に訪れ、指揮官のスカイハートに面会を求めた。
スカイハートは直ぐにやってきた。
オリリスク・マスタングとは同窓生として昔話をしていた。
ひとしきり話した後スカイハートは尋ねた。
「で? こちら様達は?」
スカイハートは、キャサリンが一番気になっている様だ。
一瞬、沈黙が降りる。
「スカイハート。こちらにおられるのはアールティンカー皇太子殿下だ」
スカイハートが体を硬直させる。
「殿下の御前ですよ」
そうたしなめるとキャサリンは直ぐにアールの前にひざまづいた。
護衛士もそれに習う。
スカイハートは飛び上がらんばかりにしてひざまづいた。
彼が何か話そうする前にアールが遮った。
「突然参っていすまない。この後、総督府にも参るので急いでいる。挨拶は無用だ。重大情報の収集の為にやってきたのだ。スカイハート卿の知っている事を教えて欲しい」
「はっ。仰せのままに」
先づ皆を座らせる。
「総督とザックとの癒着に関係する証拠はつかんでいるか?」
アールの唐突な質問にスカイハートは少し驚いていたが直ぐにうなずいた。
「ザックとはアルマタの顔役のザックと言う事でよろしいですね」
スカイハートが尋ねる。アールは黙ってうなずいた。
「残念ながら、総督府は直接関与しておりません。サビナス公爵領にハドナウ商会という豪商がございますがその商館がここアルマタにも有ります。
ハドナウ商会の商館には時々ザックの手下と目される者と取引されている事が分かっている程度です」
アールは黙って聞いていたがそこで意味ありげな視線をスカイハートに投げた。
「スカイハート卿。サバトーニが最近勢力を増してきたと聞いたが何か知っているか?」
スカイハートは、アールに涼しい視線を向けた。
「存じております」
「もしサバトーニに誰かが援助しているならそれは何処かの公爵がザックに手を貸して癒着の構図を作っているのとどこが違うのか?
目には目を毒には毒をとその誰かが考えたとしましょうか。しかし、目的のために何でもすると言うそのやり方には賛成できませんね。
目の前に全てを解決できる者が現れた時になって隠し事をしなければならなくなっている事に自分の取った選択が誤っていたと思いませんか?」
アールは淡々と語った。
アールの挑発的な話に、スカイハートの顔が険しくなる。
「このアルマタの町は、何百年もザナビス公爵の家系の者が総督をしてきました。直轄領であり、総督府以外にも王国の様々な機関もあるのでザナビス家の横暴はそれ程酷いものではなかった。
しかし、二十年前にザナビスの新しい公爵様が家督を継がれてから全てが変わりました。
もともと、アルマタの顔役とザナビス公爵家とは癒着があるのは公然の秘密だった。
麻薬の密輸はまぁどこの港でもある事でいいとしましょう。
しかし、海獣に襲わせての人攫いは許せなかった。
私が就任してからは海獣共に襲撃させて可哀想な子女を誘拐させる事は少なくなった。しかし前のルーベルが警備軍指揮官だった時代には何人の人間が行方不明になったと思いますか?
百万人を超えるのですよ!
私は許せなかった。貴方は、全てを改善できると仰せですが本当にそのようなお力がお有りですか?」
「お黙りなさい。地方貴族風情が殿下にそれ以上暴言を……」
キャサリンが激怒して叱責するのをアールは手で制した。
「スカイハートさん。これ以上、言う事はありません。サバトーニはその罪に応じて正当に罰せられるでしょう。彼を利用した貴方はご自身の正義を貫き彼を擁護してみせなさい。貴方の事は貴方の行為の結果として誰かがかばうでしょう」
アールは、そう言うと護衛士のオリリスクに目配せした。
オリリスクにスカイハートの武装解除をさせた。スカイハートは、おとなしく指示に従っている。
別の護衛士に副官を呼びに行かせる。
暫くすると、副官が入ってきた。事情を説明すると、副官はアールの前で硬直して敬礼をした。
「君達の大切な隊長さんを少し預かって行くよ」
スカイハートの悄然とした様子とアールの顔を何度か見比べた後、副官が再度敬礼していた。
「警備軍の今後の事は、後に王国から沙汰がある。それまでの指揮官業務は副官殿が代わって行うように」
アールは、スカイハートを伴って皆を連れ部屋を後にした。
総督府に行く道すがら、アールは第一使徒魔大帝プリサタを召喚した。
「プリサタ。戒厳令をひく。三十五分後に市内に満遍なく配下の軍を敷くように。プリサタと第一軍は私と共に」
アールは、特殊魔法、『警報』を発動した。
これは非常事態回避の為にアールが発案した魔法で全国民に既に効果と発動後の行動規範を通達している。
魔法の効果で空にサイレンが響きわたる。
第一サイレンだ。
アールは、空に指示を書いた。アールの指示は赤く輝いて大空にくっきり表示される。
『第三級戒厳令が発動された。総督府は直ちに武装解除し、皇太子の指示を待て。国民は速やかに建物内部に入る事。三十分後に軍事行動がとられる』
恐ろしいサイレンと大空に描かれた指示によりアルマタの市街地は大騒ぎになった。
予備時間が三十分後とは無茶苦茶だが緊急事態の時にどのように行動するかは行動規範で通達されており、その行動規範に基づいた時間設定なのである。
全ての国家機関、商館、工業施設が解放され、そのような施設が無い所では王国に指示された家屋に赤旗が建てられ人々を受け入れしているはずだ。
これはアールが定めた緊急事態のルールだったが、少々の混乱は避けられないだろう。
アールはプリサタやキャサリン達、スカイハートを引き連れて総督府に向かった。
町は蜂をつついたような騒ぎになっている。
アール達に政府の建物に入るように呼びかける者もあったが無視して進む。
カウントダウンが始まった。
カウントダウンのサイレンは、非常に効果的だとわかった。
反発するようにゆっくり歩いていた者達や必死で走っていた者達も諦めて次々に建物に入って行く。
カウントダウンが終わり大きなサイレンが鳴り響く。
「よし。プリサタ。召喚しろ」
「承知しました」
プリサタの召喚した十万人の軍が瞬時に現れ、アール達の背後に整列した。
一斉に大きな通りが軍馬に溢れる。
先頭に召喚された、第一軍の指揮官である魔王アサエナが剣を抜いて背後の自軍に号令をかける。
「はーっれぃーー!」
大音声に合わせて、全兵士が抜刀。
一糸乱れず、十万人の将兵が叫び声をあげる。
「アール殿下万歳! アール殿下万歳! アール殿下万歳!」
この声は、商都アルマタの町全土を揺るがした。
その声に呼応するかのように商都の各地から。
「プリサタ魔大帝万歳! プリサタ魔大帝万歳! プリサタ魔大帝万歳!」
と声が響いて聞こえた。
全てのプリサタ配下の八十万余の軍兵が呼応し。
「マキシミリアン王国万歳、! マキシミリアン王国万歳! マキシミリアン王国万歳!」
その叫びの直後に。
ドン! ドン! ドン!
アルマタの街全体が地鳴りのように揺れた。
兵士達が足を地面に一斉に下ろした音だ。
これは、軍の示威行為である。
アルマタの町中から、マキシミリアン王国万歳の声がするのは国民にとっては安心の出来る声のはずだ。
この時、スカイハートが叫んだ。
「殿下。先程は、厚顔無恥なる発言、万死に値します。これ程偉大なる殿下にあのような暴言雑言。無知とは言え己の価値判断がいかに無価値で矮小な事が良く良く分かりました。
どうかご容赦ください。そして私の知ることは何でも申し上げます。ご下命ください」
スカイハートは、叫びながらアールの足元に身を投げ出した。
アールはうなずいた。そして右手を前に振った。
十万人の軍が前進を始めた。
総督府まで数分。
彼らの行軍が始まる。
✳︎
総督府は、既にプリサタの別の軍が包囲していた。
アールが総督府の門の前で大音声で叫ぶ。
「我は、マキシミリアン王国、皇太子アールティンカーである。武装解除の命令を実行し、総督は直ちに出頭すべし」
しかし、総督は出頭しなかった。
「行くぞ」
アールは、そう言うと総督府に入っていった。
玄関に、入ると『電光』の攻撃魔法があらゆる所からアールめがけて投げつけられた。
アールのそばからプリサタが恐ろしい速さでアールと『電光』の間に入った。
プリサタは、全ての『電光』を消し去ると次の瞬間、自身が恐ろしい速度でアールに『電光』の魔法を投じた者を葬り去っていた。
圧倒的な力だったな。総督府内に布陣していた武装兵は、一言の悲鳴すらあげる事もできずに肉片に変じていた。
アールは、それらに頓着する事もなくそのまま総督の執務室に入って行った。
執務室には、完全武装した仕官達が総督を守るように抜刀して待っていた。
アールがプリサタに合図を送る。
先程と全く同じ力の爆発が起こる。抜刀していた仕官達が肉片に変わり左側の壁に激突して一瞬で壁ごと吹き飛ばす。
次の瞬間には総督だけが取り残される。総督の前には肉片の一部がゴトゴト転がった。
総督は、あまりの事に口をパクパクさせた。
「総督殿。これ以上の抵抗は反逆罪として、総督殿だけでなく、罪がお国の一族郎党の全てに及ぶ事になりかねませんよ」
アールがいましめるように言った。
「総督殿。私が懸念しているのは、海獣と言うのは頭の良い魔物ですが、人とは相性が悪く古来よりいかなるコミュニケーションも取られた事が無いのです。いったいどのような方法で海獣を操っているのか教えてもらえませんか?
あなたは、ご自分の罪を単なる私腹を肥やした罪などと甘く考えない方が良い。
知っていることを洗いざらい吐きなさい」
✳︎
それよりも少し前。商都アルマタの総督ザナビス公子上級騎士上級第二等魔法師ラバン・サビナスは、戒厳令の警報が鳴り響いた後、仕官達を執務室に集めて協議していた。
マキシミリアン王国で皇太子と言えばアールティンカー皇太子しかいない。
空に浮かび上がる戒厳令時の通達は、文面からアールティンカー皇太子自身の通達と考えられた。
文面から皇太子が自らこの総督府にやってくることもありえる。まさか本人が来るとは思えず名代だろう。スカイハート辺りが名代となって来ることも考えられる。
総督府は武装解除を強いられ町は戒厳令となった。これは総督府が反乱軍とみなされている事を意味しているように思われた。
「どうして、スカイハート側に皇太子が味方する? 奴はサバトーニと手を組む悪では無いか?
誰か、皇太子がまた暴走していると王都に知らせろ」
「総督様。皇太子殿下が強権を発動されたのはスカイハートが賄賂でも渡したのでしょう。皇太子はとかく信じられないような噂の方。何をなさるか分かりません。
また王都にはどのように飛ばしても往復十日は掛かるでしょう。三十分では間に合いません。
お父様にご助力をお求めになり、事態の好転を企図されてはいかがでしょうか?
ここは時間を稼がれる事こそ肝要かと存じます。もし、皇太子殿下が強行に出てくるなら総督府に籠城しましょう。
総督軍を直ちに総集しましょう。
お父様は、宮廷にたくさんの人脈をお持ちですから皇太子殿下の暴挙を諌める手筈を整えてくれるでしょう」
仕官でザナビス公爵家領地の地方貴族の一人がお追従の様に総督に進言した。
「籠城! 徹底抗戦!」
誰かが叫ぶ。
「籠城! 直ちに総督軍に通達し完全武装、侵入者は即刻排除!」
それに呼応するかの様に誰かが叫ぶ。
「よし。では私の護衛として上級魔法師以上は、この部屋にとどまること。各自は籠城の用意をせよ」
ラバン総督が高らかに宣言した。この時彼らの命運は尽きた。
副総督のアレバノ従男爵は明らかに浮かぬ顔で総督の執務室を後にする。
一言も発言しなかった。総督は総督が謀反を起こしているとされる時は総督の代理になる重要なポストだ。
総督は彼に意見を求めるべきだったのだ。
副総督は、総督から意見を求められれば武装解除を勧めるつもりだった。
ラバン総督もスカイハートも無爵位のため副総督は、この街では最高位の貴族だった。それが副総督と言う地位にあるのは彼の家が貧乏だからだ。
宮廷で良い役職をもらうには長年の賄賂が欠かせない。
その結果が公爵の子供である公子と言っても次男に過ぎない無爵位の男の部下となっている。
もっともサビナス公爵家は、マキシミリアン王国でももっとも古い神祖一族と共に建国の礎を築いた時からの名家で王国でも最大級の領地を持つ大貴族だ。
サビナス公爵は古くから王都から離れている事をいい事に直轄領であるアルマタの実質支配者として西海岸に陸揚げされる多くの物産の関税の横領をおこなってきた。ピンハネで稼いだお金をコツコツ貯めて莫大な富を築いてきた貴族である。
この事は建国の功労貴族の特権として半ば暗黙に認められてきた。
サビナス公爵が西部王と言われているのはそんな事情からだ。
巨大な領地を持つマキシミリアン王国も一枚岩とはいかない。
さらに言うなら、ラバン総督は、子爵令嬢と結婚している。彼は、ゆくゆくは配偶者の実家の領主となる予定の男だったので、唯の無爵位貴族ではない。
副総督アレバノ従男爵は戒厳令で一瞬スカイハート側に付くか迷う気持ちもあったがスカイハートも強い魔法師だが自分より身分の低い貴族に過ぎず、賄賂で皇太子に取り入ったとしても、スカイハートの権勢一時的な事に思われた。
しかし、豪放磊落なスカイハートの顔を思い出して、副総督アレバノ従男爵は、そんな政治能力が有るのだろうかと疑問に思ったりもした。しかし、最近では、街の裏役ともツルんでいるとも聞くから、賄賂ぐらいは用意できるのかも知れない。
彼は、副総督と言う名誉職の様な身分なので部下は副官だけだった。
副総督の執務室に戻ると副官が待っていた。
「総督様は徹底抗戦だとよ。副官殿は好きにしていいんだぜ。俺は武装解除するぞ。嫌なら出て行け」
副官は笑って剣帯を外す。
「副総督様。これで清風がふくのでしょうか?」
「さぁなあ。分からんがまともなやつらをまとめて正門に行こう。問答無用で武力鎮圧なんて事になったら笑っても笑いきれん。
とりあえず、皇太子は、残虐な方だとは聞いた事が無いから、問答無用で処刑何て事も無かろう。我々は、謀反も汚い金を横領する才覚なんてのも無いからな。バカどもと心中する事もあるまい」
副官は直ぐに総督府で懇意にしていた仕官たちを集めて副総督の意向を伝えに行った。
副総督としては一人でも無駄死が少ない事が一番だ。貴族の政争に巻き込まれて死ぬなんて下級貴族には災害に過ぎない。
「よっこらしょっと」
副総督は、剣帯を外し伸びをした。外では、サイレンがやかましい。
副総督は執務室を出ると慌ただしく走り回る兵士達に憐れみの籠った視線を投げかけた。
「諸君。死ぬなよ」
ポツリと呟く。
総督府の玄関は物々しい武装兵でいっぱいだ。
彼は、途中で出会った副官と武装解除した仕官やその部下達を伴っていた。総勢で七十名程だろうか。
玄関には武装した仕官が数名と魔法師や騎士がズラリと並んで物々しい。
副総督は、彼らに通す様に命令する。
邪魔されないかヒヤヒヤしていたが通してくれた。
副官以下に先に行く様に言う。
副官達が正門の方に歩いて行くのを見送ると視線を玄関に向ける。
「諸君! 私は総督様とは意見が違う。皇太子殿下のご下命に従い武装解除した。
諸君も無謀な戦いは不要だ。直ちに武装解除して私に付いてくる様に」
彼はそう叫ぶと両手を上げて目をつむった。
ここで攻撃されても仕方ないと思っている。
彼を慕っていた何人かの下士官と部下達が武装解除し、副総督に従った。
「卑怯者」
野次が飛ぶ。
一触即発の雰囲気であるが攻撃魔法を発動するものはいなかった。運命の分かれ道だった。
その者達が彼のところにやってきて、先に行かせ、正門に向かって行くのを見送る。
視線を玄関の武装兵にもどし。皆を見渡した。思わず。
「諸君。武運を祈る!」
副総督はそう叫んでいた。
しかし、副総督の意をくまない総督直轄の仕官の一人が、『電撃』魔法を放った。
副総督は、魔法バリアーを使って回避した。
その後には『電撃』は放たれなかった。
副総督は今一度なごりおしそうにして敬礼をすると踵を返した。彼の背中は、憂いに満ちていた。
副総督が玄関を出て正門の警備達と武装解除させた者達が集まっているところに歩きながら、門外の様子を伺ったその時。戒厳令から三十分が経った。
いきなり総督府は見知らぬ軍勢に取り囲まれていた。なんて、恐ろしい魔法だと、副総督は、震え上がる。いきなり軍隊が『転移』してきたのだ。そんな魔法は、おとぎ話にしか出てこない。
見るとその先頭には恐ろしげな将軍が馬上で指揮をしているではないか。
その馬上の将軍が抜刀し、手をあげたときだ。
総督府の正面の大通りの方から。
「皇太子殿下万歳! 皇太子殿下万歳! 皇太子殿下万歳!」
と地鳴りの様な声が総督府を揺るがした。
その、大合唱が終わると、彼の目の前の抜刀した馬上の魔神が剣を振り下ろした。
「プリサタ魔大帝万歳! プリサタ魔大帝万歳! プリサタ魔大帝万歳!」
総督府を取り囲む何万もの兵士達が一斉に叫んだ。副総督は、震え上がる。何て迫力だ。
その一糸乱れぬ合唱が総督府を異様な緊張感で威圧した。
「マキシミリアン王国万歳! マキシミリアン王国万歳! マキシミリアン王国万歳!」
ドン! ドン! ドン!
大地を揺るがす足踏み。
副総督は慌てて正門に走り寄った。
正門は固く閉ざされ武装兵が固めていた。
正門の警備隊長が副総督の姿を見つけて走り寄ってきた。
「総督府の塀は、飾りみたいなもんだ。そんなところで抗戦しても直ぐに破られるぞ」
副総督が隊長に叫ぶ。
「私は、皇太子殿下の指示に従って武装解除した。総督様は徹底抗戦される。お前の選択肢は三つだ。
○私達を殺し門を守る。
○私達を見逃し、直ぐに総督府に立て籠もり徹底抗戦する。
○私の指揮下に入って武装解除する。
隊長、どうする?」
隊長は一瞬も迷わなかった。
「副総督閣下。貴方の指揮下に入ります」
副総督は、直ちに正門の兵達を武装解除させ門を開かせた。この警備隊長は、副総督の愚痴友だったから、予想通りだ。
ちょうどその時、正門を取り囲む馬上の将軍と軍隊が左右に分かれた。
見ていると、大通りの少し先の方から新たな軍隊が行進してくるのが見えた。
先頭には、場違いな感じの少年と美しい女性。二メートルを超える立派な武装をした魔神らしい恐ろしい姿があり、その後ろに後手に縛られた海岸警備軍の司令官スカイハートの姿があった。
それを見た瞬間、副総督は、自身の判断が正しかった事を悟った。スカイハートが束縛されているという事は、この町に本当の査察が入った事の証明だった。スカイハートが裏社会と取引しており、総督の息のかかった顔役と抗争していると言うのが専らの噂だったからだ。
「この町も良くなるだろう。皆、無駄死にするなよ」
彼は総督府を振り返り、そう呟くと皇太子達が門をくぐるのを平伏して迎えた。
門をくぐった、皇太子一行は、武装解除し平伏する副総督に一瞥を投げた。
副総督は、アールに、手真似で総督府を示し首を左右に振って武装解除できていない事を伝えようとした。
皇太子はそれだけで全てを悟ったのか、うなづいて見せた。
そのまま、軍は正門を進んで総督府の制圧に向かった。




