ボクと軍隊
「余は王である。
貴き血を引く者の頂点である王である。
身分を忘れ、耳触りの良い言葉に踊らされ、愚民に迎合する愚妹とは違うのだ。
卑しき者でも優秀ならば重宝しよう。
貴き者でも無能なら遠ざけよう。
されど、侵されざる領分は守らねばならない。
優秀であろうと、卑しき者を指導者には出来ぬ。
無能であろうと、貴き者を奴隷には貶せぬ。
貴き者には、尊いだけの理由と代々の積み重ねがある。
前提が異なるなら、人は平等ではないのだと、なぜ理解できぬのだ?
人を束ねるには“名”が必要なのだ。
歴史を綴るには“血”が必要なのだ。
過去をなくして今はない。
個の“才”は重要なれど……必須ではないとなぜわからぬ?」
-白珠の国の王“エメロイ14世”-
ついにこの日が来た……って感じかな?
こっちに向かって進軍してくる軍隊を見た時、ボクはそう思った。
数えるのも馬鹿らしいくらいの数の兵隊さんたちが群れを成してこっちにくる光景はシュールだった。
スケールサイズの問題で、おもちゃの兵隊がキーキー騒ぎながらこっちに向かってきてるようにしか見えない。
たぶんと言いうか、確実に蹴散らすだけなら余裕だと思うし……たぶん、それなりに爽快かもしれないけど……そんな事出来るワケがない。
そこでボクは……ちょっと脅してみることにする。
心配そうにボクを見上げる姫様たちを安心させるために、ボク親指を立てて、ニカっと笑ってから、軍隊に向かって歩き出した。
軍隊に近づくと、以前のように弓とか火の玉とか電撃とかで攻撃してきたけど、ボクはそれらを無視して迂回するように軍隊の横をすり抜けて、相手のお城の方に向かう。
市壁を跨いで、一歩街に足を踏み入れた状態のまま振り返ると、進軍してた兵隊が慌てた様子で引き返してくるのが見えた。
うん、これで第一段階は成功!
ここで、この人達が引き返さずに姫様の居る方に向かったら……ボクが引き返して暴れるしか無かったから本当に良かった。
懐から小石を取り出して、軍隊にそれを見せた後で。城に向かって軽く投げる。
投げた小石……たぶん相手にとっては大岩は、城にぶつかると壁の一部を壊して中に転がった。
そしてボクは続けて、片手でなんとか持てるくらいの大きな石を、もう一度兵隊さんたちと、お城からこっちを見てるだろう人たちに見えるように動かした後で……砲丸投げのポーズを取る。
目標は当然お城だ。
このまま放り投げれば、お城は砂の城みたいにあっさりと崩れ落ちると思う。
そのままの体勢で軍隊の方をチラ見して、開いた方の手で城を指さしたあと、兵隊たちの方に向かって……どうする? ……って感じで威嚇してみた。
上手くボクの意図が伝わったのかお偉いさんっぽい人が出てきて、兵士たちの武器を収めさせたのでボクも石をおろした。
第二段階も成功! ここまでくれば後は大丈夫……だと思う。
そのあとジェスチャーで、何かしてきたら今度こそ……その大きな石を城にぶつけんぞ! ……って感じに脅かしてから、その石をそのまま置いてきた。
敢えて町の中に放置してきたので、蚊帳の外だった人たちも、何かすれば我が身に降りかかる事だと実感してくれたと思う。
この世界の仕組みはしらないけど、民衆が反対してたら軍とか動かせないよね? きっと……。
正直な話。もっとうまいやり方があったと思うけど……ボクじゃこれでせいいっぱいだった。
それでも人死を出さすに終わって、良かったと思う。
ただ、学生服のアチコチに焦げ目がついて、膝から下がほつれたようにボロボロになったのが……困った。
どうしよう? 替えの服無いんだよね……。
そんな感じで悩んでたら、姫様が心配そうな顔を向けてきたので、裾のほつれや焦げ目を見せて、苦笑いしてたら……姫様が何か魔法を使った。
裾に光が吸い込まれると、魔法みたいに……と言うか魔法だね。あっという間に新品同様になった。
どうやら姫様のドレスが無事だったのは、ドレスの機能じゃなくて、姫様の実力だったみたいだ……これにはボクも、かなり驚いた。
ただ残念ながら、スケールサイズの問題で、服の一部にしか効果が無く。完全修復するのに一ヶ月近くかかった。
それまでの間、やたら綺麗な新品部分と、薄汚れてボロくなった部分との差が目立ち、町人からも失笑されたのが……地味に痛かったよ……。
あとその一ヶ月の間に、あっちの国から使者が来て、姫様となんか話してた。
よくわからないけど、たぶん和解したんだと思う。
使者の方は涙目で、姫様はなんかドヤ顔してたけど……和解した…んだよね?
ま、いいか……。
主人公の無双回
一足飛びに拠点を抑えられて脅されたら、どんな名将でも従うしか無いって事ですねw