ボクとお人形
なんとなく思いついたので投稿。
サクサクと読める&書けるように短めです。
「いやあ~驚いた! 驚いた!
突然暗くなったと思いったら……ばかでっかい人影の中に居たんだぜ?
驚くなってのは無理ってもんさ!
そのバケモンみたいに大きな奴は、疾風のように大通りを駆けていった。
そん時、常連のトミーっちが踏まれたらしいが……何故かピンピンしてやがる。
まあ、早とちりが特異な奴だったから、踏まれた気がしただけなんだろうけどさ……
そんな事より、姫だよ! 姫様!! そのバケモンに拐われたんだってよ!
……あ? バケモンっじゃない巨人?
あ? それも違う巨神だって?
ナニ言ってんだあんた? ……え? 被害者ゼロ? ……はぁ?」
-踊る人形酒場 店主“ロッソ-”-
どうしてこうなったのだろうか?
ヒザ下程度の高さの木々が生い茂る森の中、ボクは制服姿のまま、膝を抱えて項垂れていた。
足元に目線を動かすと、畳んだハンカチで作ったベットと、そこに腰掛けたまま、ボクを見上げているお人形さんが目に入った。
その小さいけど、確かな視線から思わず目をそらし、もう一度、ボクは考えた。
どうしてこうなったのだろうか? ……と。
――――
―――
――
学校帰りの帰宅中。ふと気がつくと、ボクは鬱蒼と生い茂る深い深い森の中に居た。
辺りを見渡すと、遠くに町らしきものが見えた。
鬱蒼と生い茂る深い深い森の中にいるのに、なぜ、遠くの町が見えるのか?
それは、その森の木々がボクの膝下くらいの高さしか無かったからだ。
最初は精巧にできたミニチュアだと思った。
でもそれはすぐに否定された。
作り物にしては、余りにも精巧過ぎる。そして、瑞々しく生き生きと動いているのだから本物だと認めるしか無い。
状況が全く飲み込めず、半ば夢うつつな感覚のまま。
なんとなく興味に惹かれるまま町へ近づいた時、それは確信へと変わった。
―――ボクは、違う世界に来てしまった、と。
塀を軽く超えて、西洋風の町並みの町……城下町へとボクは足を踏み入れた。
足元で騒がしく動きまわる人形たちを、潰したり蹴ったりしないように注意しながら、ひときわ大きな建物へと近づく。
それは豪奢なお城だった。
大きいと言っても、ボクの腰下程度大きさなので、豪華だけどオモチャにしか見えない。
キラキラと日を浴びて輝く白磁の城を見ていると、目にキラッとした光が入った。
そちらを見ると、城のバルコニーの様なところから何かが落ちていくのが見えた。
とっさにボクは手を出して、ソレを受け止める。
受け止めたソレは、驚くほどに柔らかく、小さな人形だった。
よくわからないまま、握りつぶしたりしないように気をつけて、落ちてきた場所。バルコニーに戻そう顔を挙げた時、目の前で火花がはじけた。
何が起きた!? ……と、慌てるボクに、城のアチラコチラからロケット花火のようなものが飛んで来る。
花火の火力は大したことはなく、皮膚に直撃したところでも、赤くなってヒリヒリする程度でしかない。
でも、その時のボクは、そこまで冷静になれず、慌てて逃げ出すことしか出来なかった。
そして、元からいた森の中に戻り、肉体的……と言うより精神的な疲労から座り込んだ時、ボクは気がついた。
―――人形を持ってきてしまったことに。
いや、そうじゃない。いいかげん現実を認めよう。
見知らぬ国からボクが、お姫様を攫ってきてしまったってことを……。
―――――
―――
――
あれから一週間が過ぎた。
今のところ、遠くに見える国から、こっちの森に向かって兵隊が来る様子はない。
攫ってきてしまった姫様はと言うと……まだ、ここにいる。
しばらくして冷静になったボクは、姫様を元のところに帰そうと考えた。
けど、それは結局できなかった。
目を覚ました姫が、それを拒否したからだ。
考えてみれば、姫様は誰かに追われるようにしてバルコニーから転落したみたいだったから、何か複雑な理由があるんだと思う。
詳しい事情を聞いてみたいが、言葉が全く通じないからどうしょうもない。
最初は声が小さくて聞き取れないだけかと思っていたけど、どうやら言葉自体が完全に異なるらしく、姫が地面に書いた字を見ても全然読めず……似た字にも覚えはなかった。
やはりここは異世界で間違いなさそうだ。
それでもコミュニケーションは必要だったから、なんとか身振り手振りで会話を試みた。
その結果分かったことは、姫様は元の場所に戻るつもりはないらしいって事と……意外に逞しいってことだった。
姫様は、目を覚ました時。ボクの姿を見て酷く驚いていた。
でもすぐに驚きから立ち直り。辺りを見渡して状況を察したのか、諦めたのか分からないけど、予想に反して、喚いたり泣いたりして騒ぐことは無かった。
それからは、お互いに身振り手振りのボディランゲージで交流を図って、状況に流されるまま一週間が過ぎた。
状況が状況だけに、遠くに見える。姫様が居た国に向かうことは出来無い。
ロケット花火……魔法っぽい攻撃は、はっきりいって怖くない。
剣や槍も、ボクにとっては爪楊枝みたいなもので垂直に刺されば痛そうだけど、大概は刺さる前に折れてしまうので、これも怖くはない。
鉄製に見える割に脆いのは、冶金技術が低いからだろうか? それともボクが硬いだけ?
理屈はよくわからないけど、多少の怪我さえ覚悟すれば、どうとでもなりそうだ。でも、これ以上殺したくはないから近づくのは嫌だ。
姫様を連れだした時。パニクったボクは足元を見てる余裕なんて無かった……ようはそういうこと。
同じ過ちは繰り返したくはない。
やっちゃった実感は今も無い。
―――だからこそ、繰り返しちゃダメなんだと思う。
その為にも、ボクは、ここのような人気のない森の中でサバイバル生活するしかない。
幸いなことに、ボクは手先が器用な方だし、ボーイスカウトで野外生活の経験もある。
問題は、お姫様なんだが、これもなんとかなった。
彼女が特別なのか、あの国の姫様はみんなこうなのかは分からないけど、サバイバルな状況をあっさりと受け入れて、適応できたようだ。
もっとも、手頃な木を引きぬいて、持っていたカッターナイフで削って組み上げたログハウスとか……。
ハンカチと組み木で作ったベットに、捨てるつもりで持っていた空き缶で作った風呂といった感じで住まいを用意できたので、衣食住の“住”に問題は無く。
“食”の問題も、川からは魚が、森からは野生動物や果物が、それぞれ豊富に取れたので、なんとかなったんだと思う。
魚にせよ動物にせよ、スケールサイズの差で簡単に採ることが出来て本当に助かった。
ただ、それらの作業中に、動物も含めて取り扱いは繊細にする必要があるってことを学んだ。
とにかく、何もかもが脆い。
……ボクが強いのか? この世界の物質が脆いのか?
それは分からないけど……木どころか、岩ですらもちょっと強く握っただけで、簡単に凹むし、割れる。
動物とかも、つかみそこねて、主観的に10センチ程度の高さから落としただけで、グチャリと潰れてしまった。
猫やネズ……ハムスターを相手するような感覚だと、あっさりと殺してしまうのだ。
お姫様を城からパニクって連れだした時、彼女の五体が無事だったのは奇跡に思える。でも、本当に良かったと思う。
ただ不思議なのは、地面が柔らかい割には足が沈んだりしないことだ。
勢いをつけて踏みつければ深い足あとができるけど、普通にしてる分には殆ど影響はないみたいなんだけど……何故だろう?
ボクは見た目よりも軽いのだろうか?
それとも某猫型青狸みたいに少し浮いてるとか?
……と、そんなことを考えていたら姫様に呼ばれた。
どうやら、そこにある岩をどかして欲しいみたいだ。
ひょいと手を伸ばし、岩を軽く掴んで持ち上げる。そして、そのまま姫様が指差す通りの場所に移動させた。
ここ一週間、いつのまにか、こんな感じに主導権を握られている。
あれ? と思わないでもないけど、攫ってきたのはボクだし、うっかり死なせたらトラウマどころじゃ済まないだろうからしかたない。
それに、姫様の笑顔を見れるなら、この程度はどうってことはない。
――――こんな状況で、ボク一人になるだなんて考えたくもない。
そんな姫様の姿は一週間前から変らない。
長い金髪の彼女は、白いドレスを着たまま、器用に動きまわり果物を集め、時折、魔法らしきものを使って火を起こしたり、灯りを作ったりしている。
一番の懸念だった衣食住の“衣”の問題も、今のところ問題なさそうだ。
なぜなら、彼女の着ているドレスは魔法でもかかっているのか……不思議と汚れることも破けることもないからだ。
むしろ問題は、ボクの方だ。
ボクの姿は、学校帰りに着ていた、学生服のままだ。
当然だが、この一週間風呂も入らず、着替えもしてないので、かなり薄汚れてきている。
食事も、ボクから見ればちまちまとしたモノを食べるしか無く。味付けや調理もままならず。なんとか空腹だけは凌げてるといった状態だ。
住に関しては、考えるまでもなく青天野宿で、雨が降った時は雨宿りすら出来なかった。幸いだったのは、気温は低くなかったので風邪や凍死の心配はないってことくらいだ。
――――これって、姫様よりも、ボクが先にダウンするよね? あれ? 心配する順番、間違えた?
無自覚&勘違い系主人公の亜種ですが、よくある第三者視点は有りません。
ただし、幕間などで補填する可能性はあります。
注:↑序文に語りを付けました。