6月3日 事故現場
《登場人物》
安田 将吾 大学生 20歳
鬼頭 美津音
河内 源 刑事 59歳
木村 賢介 刑事 24歳
安田 恵理
―― 6月3日 事故現場 ――
河内はひき逃げの事故現場の歩道であぐらをかいていた。
「ここでひき逃げが起きたわけだが、こんな見通しがいいところで目撃者が少ないなんてな……」
現場慣れしているせいか、河内自身、あぐらをかいて現場を見つめるということは癖でやっていた。
「あの……」
河内の背後から声が聞こえ後ろの方に首を向けるとそこに一人の女性が立っていた。
「あなたは……」
「安田 恵理です」
河内は立ち上がり、恵理に挨拶する。
「河内です。もしかして被害者の……」
「母です」
河内は予想が当たり、少し顔を曇らせた。
「あの、捜査の状況はどうでしょうか?」
恵理が放った言葉に、河内は正直に答えた。少し声を低くしながら。
「正直、絶望的です。息子さんが、目覚めない限り……」
「そうですか……何故、息子がこんな目に……」
河内の心にはなんとも言えない苦い感覚がドロドロと流れ込んでいるのを感じた。
恵理に対してこんな事を言うのはまずいのではないかと考えながらも一つ訊いた。
「今も息子さんは?」
恵理は首を横に振った。
河内は、恵理が首を振ったことで察しがつき、それ以上、容態について訊く事はなかった。
ちょっとの間、沈黙が続く。
沈黙が打ち破られたのは、恵理からの一言だった。
「あの、実を言うと、刑事さんに来てもらいたい所がありまして、来て頂けないでしょうか?」
いきなりだった。河内は、少し疑心を持ちながら、答えた。
「はぁ。どこでしょうか?」
「病院です」
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2日目 5
将吾と美津音は将吾の家に着いた。
「お、おじゃまします」
「気にしないでくれ。あ、なんか飲む?」
「うん」
「何かあったかな……」
将吾は冷蔵庫の扉を開いて中身を確認する。その間に美津音はソファに座って、クッションの柔らかさを手で感じている。
「あれっ?」
「どうしたの?」
将吾は冷蔵庫の中身が妙に違うのを気づいた。
「いや、昨日は確かにお茶しかなかったのに、オレンジジュースになってるんだ……」
美津音は将吾の言葉を信用しなかった。
「まさか~そんなことないよ~多分、見間違えでしょ」
「そうなのかな~」
首をかしげながら将吾は、コップ二つ取り出して、それぞれにオレンジジュースを注いで、美津音に手渡した。
「ほい」
「あ、ありがとう!」
美津音はオレンジジュースを勢いよく口に流し込んだ。将吾はそれを見ながら不思議な感覚を味わいながら飲んだ。
将吾はコップをソファーテーブルに置いて、借りてきたDVDの袋を取り出した。
「さてと、なんか見るかい?」
美津音は首を縦に振り、頷いた。
「うん」
「じゃあこれにしようかな」
将吾は、袋に手を入れて無作為に選んだ。
選んだDVDは人気のアニメ。
DVDのケースを開き、ディスクをプレイヤーに入れ、リモコンの再生ボタンを押した。
TVの画面には、アニメの映像が流れていく二人は黙ってそのアニメを見ることにした。
DVDケースの題名欄。
《夢探偵》
とだけ記されていた。
月一投稿作品 孤独都市 「6月3日 事故現場」です
話は続きます。
今回は、事故の被害者の親族が登場しましたね。