2日目 3
《登場人物》
安田 将吾 大学生 20歳
鬼頭 美津音
――――2日目 3――――――
将吾に襲いかかってきた女性は、レンタル店の休憩コーナーのベンチで寝かせている。
ここまで女性を運ぶのに、お姫様抱っこをして運んだ事は、内緒にしておく。
将吾は、女性が寝ている間にレンタル店の隣のドラッグストアで、痛み止めとペットボトルの水、そしてある程度の食料を買った。とはいえそこも誰もいなかったので、全てレジ打ちと会計は全てやってお金だけ置いてきた。
ドラッグストアからレンタル店に戻るまで、ちょっと孤独から解放されたのか、少し浮き足立って戻ってきて、機嫌良く休憩コーナーに入った。
将吾は、そのまま女性が目覚めるまで、ベンチの目の前で座って待った。
「うっ……う~ん……」
女性の静かな唸り声に、将吾は反応した。
「おお? 目覚めたのか?」
女性は目を覚まし、視線を動かして、そのまま女性を凝視している将吾に焦点を合わせた。
「うわっ!!」
女性は、将吾に驚き、再び襲いかかる。
「ちょっ、やめっ、おまっ、やめろ!! やめてくれ!! 待ってくれ!」
一心不乱に、女性から繰り出す攻撃から自分の身を守る。
「何!? いきなりなんなの!? あんたは!?」
女性は将吾の首をつかみ、息ができないように締める。将吾は負けじと女性の両手を無理矢理はずして、後ろに向けて力強く押した。
「うわっ!」
女性は後ろに押されて倒れた。
「ふぅ、ふぅ、頼むから人の話を聞いてくれ! あんたいったい誰なんだ!」
女性は後ろに倒れた拍子で背中を強く打ったらしく苦しんでいる。
将吾は疲れて地べたに座り、苦しんでいる女性に自己紹介をする。
「俺は、将吾だ。安田将吾。あんたは?」
「うううう……痛い」
「仕方ないだろう。あんたがいきなり襲ってきやがったんだから! いや、あ、その、すまなかったな。あんた、名前は?」
女性は、黙った。数分、店内の空気は静かな沈黙だった。女性はいきなりしゃべり始める。
「私、美津音。鬼頭美津音。さっきはごめんね。痛かったでしょ?」
将吾は女性がしゃべりだし、安堵した。それもそのはず約1日半、誰にも会う事なく会話もできなかった。その上、誰とも電話が繋がらない。まさに孤独な時間だったが、ようやく解放されたのである。
将吾は、美津音に戸惑いながらも「き、君も誰かを探しているのか?」と訊いた。
美津音は、その問いに即答だった。
「家族と友達。私、自分が運転している車で気を失っていたみたいなの」
将吾は、美津音の話を、聞いた。美津音は続ける。
「私、気を失っている以前の事もわからなかったの」
「そうだったのか」
美津音は、将吾の反応に対してある事を質問した。
「ねぇ、君は、黒い光を見たことがある?」
将吾は美津音が放った言葉にどこか印象を強く感じたが、黒い光自体がどんなものかを理解することができなかった。
「どういう事だ。黒い光ってなんだ?」
この後、将吾の目で知ることになる。美津音の言葉の意味を……
「きたっ! あ……あれっ!!」
美津音は、自動ドアの方に指を指した。将吾は自動ドアのガラス越しから外を見つめた。
「なんだ? ありゃ?」
店の外が黒く染まっている。将吾はゆっくりと後ろに下がった。
美津音は、体全身の震えが、止まらなかった。将吾はゆっくりと下がっていく。だが、背中はぴったり壁とくっつき、これ以上、後ろに下がる事はできなかった。
黒い光がドアの隙間からもれていく。しかしそれはだんだん広がっていき、最後、光はドアを破り、店内を包みこみ、二人を店内のフロアごと飲み込んだ。
二人は言葉を発する事もできないまま黒い光に飲み込まれていった。
第5話です。
話は続きます。
いつも読んでくださる方へありがとうございます。これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。