2日目 1
《登場人物》
安田 将吾 大学生 20歳
――― 2日目 1 ―――
将吾は目を覚ました。窓は日の光で、明るく床を照らしている。ソファーに座り直して、時間を確認する。
《AM 8:33》
「そんなに寝ていたのか……」
将吾はあたりを見渡す。しかし、両親や弟の姿は無い。携帯の画面を確認するが、メールはもちろん電話の着信は一件もなかった。自分自身が登録してある友人や大学教授、バイト先の先輩、家族に電話をかけたがずっとかからない。 携帯電話から留守電や圏外扱いのメッセージが続いていた。今まで聞いた事のある女性アナウンスのメッセージが将吾の感じる孤独感を少しだけ緩和させた。
しかし、何度も電話するにつれてその緩和はどんどん減っていく。
静かな空間で将吾は焦る気持ちを隠す事はできない。
―――孤独が続くのか―――
将吾は、肩を落とした。リビングに静かな空気が流れる。一人、スーっと深呼吸をして、今日のやる事を決めた。
「今日は大通りの方へ行ってみよう。おそらく誰かいるはず」
自室に向かい、鞄を取る。鞄の中に、出かけるための準備をする。財布、タオル、携帯、音楽プレーヤー、を鞄に詰め込み、自室を出て階段を駆け下りる。
階段を下り、リビングのソファーに鞄を置いた。
将吾はお風呂場に行き、洗面台の鏡を見る。
「そういや、昨日は何や何やらさっぱりだったからな。シャワーぐらい浴びてから行くか」
将吾は、キッチンに戻り、温水用ガスの運転ボタンを押して温水を出せるようにした。バスルームに行き、服を脱いだ。衣服や下着を籠に入れて、シャワーを浴びに入る。
《10分後》
将吾はタンスから新しい服を取り出して着替えて、再びリビングに置いていた鞄を取り、自宅を出る。外は日の光で満ちているが、相変わらず瓦礫や靴、車が道に置かれている状態だった。
将吾は昨日と同じ様に自宅の車庫に入ったが、マウンテンバイクはなかった。
「やっぱりない。どこにやったんだ? なくしちまったか? しょうがない。歩いて向かうか」と諦め、大通りに向かう手段として自分の足、つまり脚力を活かす徒歩という手段で大通りに向かう。
「自宅から大通りまで徒歩だとかかるぞ~~こりゃ~~」
外の景色は変わらない。しかし、日差しが強い。
「暑くなってきたな。上を脱ごう」
将吾は上着を脱いで、腕に掛けて、歩いた。途中、自販機でジュースを買う。自販機が動いている事についてさほど驚きもなかった。
飲みながらひたすら道を歩いていく。気づけば、国道に出て歩行者専用の道路を歩いている。
将吾は歩いていくうちにある事に気づいた。それは自宅前や国道に出るまでの道で見た靴にあった。
「ん? この靴、同じ靴ばっかりだ。あれもこれもそれも……」
将吾は、道路に落ちてある靴はすべて同じ物である事を知った。流石に道路に落ちてある靴を手に取って確認してみるのは気持ち悪くてたまらないからしなかったが、目で見て、靴の形が同じ物であるものが理解できた。
今度は、辺りを見渡した。車道には乗り捨てられた車があるが、その車もほかの車道で乗り捨てられていた車と同じ形状で同じメーカーロゴの車であった。
【こんな事があるのか? なんかのCMなのか?】
「一体どうなってるんだ!?」
将吾は一人道路の真ん中で叫んだ。その言葉がコンクリートの塊が並ぶ所で響き渡る。静かに遠くから山びこの様になっているのが将吾の耳に伝わる。
しかし、この叫びに誰も反応する人間はいない。周りに誰もいない事に不安と恐怖が将吾の頭をよぎる。
【と、とにかく、大通りとか商店街に向かおう。人はいるはず】
将吾は走り出し、商店街のある大通りへ向かって走った。一心不乱に走った。何が何だか分からない状態が続いていた。気を紛らせたいのか……とにかく走った。
数分して、足に疲労がきて、足を止めた。
「辛い。足が痛ぇ。走り続けたけど、運動してなかったからな。今考えるとここで運動しておけばよかったな」
再び、歩き始める。
歩いていくうちに、自分が無心になって行くのが分かった。
大通りに向かって歩道を直進するが、一向に人影はおろか車道を通る車を見ていない。
自分の視線に入るのは乗り捨てられた車と靴と瓦礫だけ。
将吾自身、これの風景自体に慣れてしまった。ただ、信号機はずっと青のままである。
将吾は、青信号の歩道を歩いた。すると突然、将吾の頭から激痛が走る。
「ぐっ、あああああああああ」
あまりの痛みに、耐え切れなくその場で横に倒れて頭を押さえる。倒れこんだ将吾の目には信号機の青と瓦礫の灰、落ちている靴の茶が見えていくがだんだんと黒くぼやけていく。
将吾は苦痛から耐えきれず、瞼を閉じた。
【人の悲鳴が聞こえる……。】
将吾の目に映っている映像は、歩道。その歩道の奥から誰かがこっちに向かって走ってきているのが感じとれた。
走ってきたのが男性だと分かったのは、近づいてきた時だった。男は、将吾を見てから周りの人たちに声をかけた。
『おい! 大丈夫か!? 誰か、救急車を呼んでくれ! おい、あんた! 手伝ってくれ。血が出ているな。止血をしないと、もう大丈夫だからな!! もう安心だぞ!』
男の周りに色々と人が近づいて来る。男の指示通りに動いたりする者や、そのまま男と一緒に将吾の様子を見る者がいた。
将吾は安堵した。
【良かった。人いるじゃん】
だが、それは一瞬で再び、頭痛が将吾を襲いかかり、目を瞑った。
「ハッ」
将吾は目が覚めた様に、瞼を開けた。
瞼を開けた先には歩道。しかし、さっきの様に男や他の人達の姿は見当たらなかった。
将吾は落ち込んだ。
「夢だったのか。それよりもひどい頭痛だったな」
歩道の所で気を失っていた所までは本当らしい。
将吾は立ち上がり、自分が今まさに置かれている状況に苛立ちを募らせた。
「くそ! 一体どうなっているんだ!! ここは何だ? 俺は一体……」
再び歩き始めた。大通りに向かって。
お待たせしました。
第3話でございます。
話は続きます。
この物語はフィクションです。
いつも読んでいただきありがとうございます。
これからも更新できるようにやっていきますのでよろしくお願いします。