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6月3日 黒光市 中央病院 

《登場人物》


 安田 将吾  大学生 20歳

 鬼頭 美津音

 河内  源  刑事  59歳

 木村 賢介  刑事  24歳

 安田 恵理

 ― 黒光市 中央病院 ―



 河内は、独自の土地勘と交通の情報を基に恵理を乗せて、中央病院へ着いた。河内と恵理は、車を駐車場に停めてからずっと、走って、将吾が眠る病室へと走る。


 時間がない。



 ―  ?  ―



 将吾は、ナイフを振り上げたまま、立っている。

 目の前の女がずっと、声を荒げて、告げる。


『そのナイフを自分の心臓に突き刺せ!』と。


 今、脳裏で色々、考えると、駆け抜けるがごとく自分自身が関わった過去の出来事や大切な思い出が思い浮かんでくる。

 将吾はこれが走馬灯である事を堪能した。

「時間がないの! さぁ、早く! 突き刺しなさい!!」

 美津音の声が2人しかいない空間に響き渡る。

舞台のスポットライトの様な、光を浴びて、将吾が持ち上げている銀色の刃が光沢を帯びていた。

 将吾は、最後の力で自分が生き残る方法を考えてみる。

 彼女の言うとおりに刃を自分の心臓に突き刺すか? それともナイフを捨てるか? 


 

 それとも……?



 目の前では美津音が鬼の形相で将吾の顔を睨みつけている。いや、もはや鬼だ。

 だが、将吾はふと、事故当時の映像が頭の中を駆け巡った。あの時の車と衝突する瞬間の運転手の顔が思い浮かぶ。

「まさか!?」

 ずっと立ったまま数分して、将吾は全てを思い出した。ナイフを下ろして、彼女を見つめる。

 美津音は彼の行動に、謎しか感じなかった。

「何、どうして止めるの? 早くこの世界から脱出するにはその方法しか……」

 将吾はナイフ持ったまま彼女に告げた。

「もうよそう」

「えっ?」

「思い出したんだ」

 彼女は将吾の声に、焦りと衝撃を感じる。

「何っ!?」

 数秒間2人の間に沈黙が走りながらも、将吾の口からそれを破った。

「お前が運転していたのか。美津音」

「何を馬鹿な!? 私が運転、何で?」

「とぼけるな! 証拠はあるんだ。この目が見てるんだからな!!」

「待って! それじゃ証拠にならないじゃない」

 将吾は、ゆっくりと美津音に近づく。

 それまで威圧と恐怖を与えていたものが今度は与えられる側となった。

「轢かれた俺が言うんだ。わかるんだよ」

 銀色の刃が光っている。美津音の顔が映っている。だが数秒には、銀の刃が赤く沈む。

 将吾は、美津音にゆっくり近づき、お腹に突き刺した。

 彼女の口からゆっくりと血が流れていく。痛みを感じるのか感じないのか、そんな事は彼にとってどうでも良かった。

「俺は……元の世界へ帰る」

 ナイフをゆっくりと抜き、後ろへと引く。

 美津音は跪き、自身のお腹から衣服を通り越して、流れていく紅く綺麗な液体を見詰めている。

液体の表面にうっすらと自分の顔が映っている。

「これでいいのね?」

 美津音の体はゆっくり横に倒れていった。

「これで終わりだ。現実の世界へ帰れる」

 将吾はナイフを捨てて、大の字になって倒れる。

 だが、ずっとスポットライトが消えない。

「なぜだ? 美津音が死んだはずなのにどうして? まさか!?」

 彼は気づいた。夢の世界で他人を殺しても自分が現実へ戻れない事を。

「馬鹿な!? なんでだ!?」

 ただ一人の男が叫ぶ声。ただ声だけが響く空間。

 将吾は、彼女の血で濡れたナイフを、自分の服でぬぐい、ナイフの刃を自分のお腹に向けた状態で真上に向ける。

「下から刺せば良かったんだな」

 最後の手段だと感じているが、戻る為ならどうなっても良かった。

「さよなら」

 思い切り、自分の心臓めがけてナイフを突き刺す。

 その瞬間、激痛と共に将吾は声を上げた。

「うわっ!」 


 孤独となった瞬間、死を悟る。今まさに、死ぬ思いをしながら、将吾は身をもって感じている。孤独と死は大きく関わっていたんだと知った。


 眩しい光がどんどんと近づき、鋭い閃光が、大きく照らされた。大きな激痛と共に自分が刺したナイフを強く握る手から解放させて、大の字になる。

 将吾は思わず目を瞑った。



 静かに自分の体が浴びるスポットライトが暑く感じたような気がしていた。



 月一投稿企画孤独都市です。


最終話まで近づいてきております。 次回をお楽しみに!!

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