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6月3日 将吾の病室

《登場人物》


 安田 将吾  大学生 20歳

 鬼頭 美津音

 河内  源  刑事  59歳

 木村 賢介  刑事  24歳

 安田 恵理


  


―― 6月3日 中央病院集中治療室 ――




 将吾のベッド近くの心電図が異常をきたしている事を知らせている。

 すぐさま看護師がやってきて、将吾が寝ているベッドに急いで向かっていき、心電図の異常を来ていることを確認し、名前を呼んで確認した。

「安田さん!? 安田さん、大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」

 看護師は近くの緊急連絡用電話に掛ける。

「大変です。集中治療室の小山です。安田将吾さんの意識がなくなりました。急いできてください!!」

 電話をしまい、将吾に向けて大きく叫んだ。

「安田さん! 大丈夫ですよ! 今、先生が駆けつけますからね。大丈夫ですよ!! 安心してくださいね!」

 将吾の異常を見極め、看護師はかかりつけの先生が来るまで、できることの処置を尽くしていく。

 数十秒経ち、医者が走ってやっていき、将吾の容態急変を確認し、急いで始めた。

「くそっ! なんでいきなりどういうことだ。マッサージの準備だ。大丈夫だぞ! 助かるからな!」

 医者は急いで、彰吾の胸に両手を当てて、心臓マッサージをしていく。しかし、将吾は戻らない。

 心電図は、波線から直線へと変わろうとしている。数値は依然、下がるまま。

「電気ショックだ! 機械持ってきてくれ」

「は、はい!」

 慌ただしい病室、医者の戦い、将吾の病室は、もはや命を扱う戦場だった。

 医者の声が、静かな病室を響かせる。

「戻ってこい! 戻ってこい!」




 -車内-




 河内は、恵理が待つ将吾の自宅へと車を走らせた。

「話か……」

 彼自身、1対1で話したいというのは希有な例であり、過去にも被害者と話す事はあったが、1対1で話すという機会はまずない。大抵はもう一人刑事側に着くか、両方に、一人着いて2対2で話す機会ぐらい。

 実質、1対1は初めてだった。

「結局、あの数字の関係性はなんだ? 被害者は病室に寝たままの状態、意識は戻っていない。目撃者の証言であの数字の因果性はあった」

 アクセルを踏んで、目的地まで走らせていく。

 もう数十メートルで到着するところだった。

「ん? あれは?」

 河内は目的地の異変に気づき、車のスピードを落とし、目的地の前で停める。彼は車を降りて走っていくと、恵理が家の前で立っている。涙目で。

「恵理さん!」

「刑事さん」

「どうしたんですか?」

 恵理は、河内の前で崩れ落ちた。

「将吾が……将吾が……」

 刑事は事の大きさをまだ理解できておらず、どういう事なのか分かっていない。

「えっ!? 将吾君がどうしたんですか?」

「将吾の容体が急変したって連絡が来たんですけど、急いで病院に向かわないと……」

 理恵の言っている内容から、事の重大さを刑事は理解した。

「と、とにかく乗ってください。話は車内で!」

 理恵は河内のいきなりの行動と対応に戸惑うが、河内は「急いで!」と彼女に叫ぶ。

「は、はい」

 刑事の言う通りについていき、理恵は刑事の車に乗る。

 彼女は後ろの席に乗り、シートベルトを締め、車のテンプレートな生地の席に身を委ねる。河内はシートベルトを締めて、エンジンを起動させた。

「急ぎますからしっかりつかまっていてください!」

 その言葉の後でシフトレバーを外し、河内の足はアクセルを踏む。車は勢いよく発進し、前進していく。

 河内自身は、家族という関係ではないが、将吾の安否を心の中で祈りながら、車を走らせていた。




 ― ? ―



 将吾は目を覚ました。

 黒い煙に包みこまれた後で意識を失っていた事に気付き、あたりを見渡す。

「何だ? ここは」

 彼が見渡す光景。


 それは黒くて何も見えない。


 自分が今、立っているこの地面に対して光を当てられている状態。

 度重なる試練を受けているかのような状況に、将吾の精神には限界がきていた。

「もうなんだ! 何なんだこの世界は!?」

「だから言ったじゃない? ここは夢の世界だって……」

 いきなりの言葉。背後に立っている美津音の姿を感じ、将吾は後ずさりする。

「なんでお前が!? お前一体何なんだよ? 誰なんだよ」

「この世界にいる人、出てくる人、それは全てあなたが経験してきた人生の中で一度会っている人達」

 将吾は彼女の言葉をいまだに理解できなかった。

「ふざけるな! あんた、俺の何が分かるんだよ! 夢の世界であんたに出会って、煙に追いかけられてんだぞ!」

 美津音は首をゆっくりと首と肩を振り子の様に揺らし、無表情である。

「将吾、今、あなたの状況がどんなものか教えてあげるわ」

 左の人指し指で、彼女は場所を示した。

 示した先に、モニターの様な四角い何かが写される。

「これを見て」

 将吾は四角を見つめる。そこから映し出されるのは何かの映像。

 映像は今まさに、将吾の身に起きているものその物だった。医者と看護師に囲まれて電気ショックを当てて、蘇生しようと奮闘している。

「こいつは?」

「現在のあなたよ。あなたの命は現在不安定で、もう少しで死亡し、魂が抜ける。この夢ともお別れよ。良かったわね……」

 彼女からの言葉を聞いて、将吾の体からは焦りしか浮かばない。

「おい、俺はこのままだとどうなっちまうんだ?」

「さっき言ったとおりよ。死んでこの夢ともおサラバ。魂だけがさまよう事になるわ」

 将吾は美津音の両肩を強く掴み込んだ。

「どうにかならないのか!?」

 美津音の無表情のまま連なる言葉が将吾に突き刺さる。

「どうにかって……どうにかならない所まで来ているのよ」

「どうしたら変えられる!! まだほかにあるはずだ方法が!」

 将吾は歩き回るが、舞台劇場のようにスポットライトが当てられただけの地面だった。彼女は焦る男を目の当たりにしているが、気にせず無表情のまま。

「待って。この世界から出れる方法を教えてあげる」

 美津音の言葉に彼は、不安と焦燥を感じる。その上、いきなりの態度の豹変には疑心しか感じ取れなかった。

 依然、彼女の表情は変わらない。

「今、このポケットにあるナイフであなたの心臓を突き刺すの。それでこの世界から脱出できる」

 美津音はナイフを取り出した。

「自分の命を捨てろっていうのか!? 馬鹿言うな!!」

「わかってないのね。あなたがどんな状況に立たされているのか。あなたは死の瀬戸際にいるの。早くしないとあなたの命は数分もないわ。いい? そのナイフで自分の心臓を一突きするだけでいいの……」

 将吾にとって初めての大きな選択。いや、運命の選択だった。このままだと、自分は死を迎えてしまう。

だが、この世界から脱出するには、自分の心臓に一突きしなくては脱出できないと正面の女は言った。

 彼女の左手のひらに置かれたナイフ。

「さぁ、出るなら刺しなさい。心臓にめがけて思い切り!」

 将吾は悩んだ。

 死への時間は刻々と近づいていく。美津音の表情はどんどん歪んでいくのが分かる。



『さぁ! さぁ! 早く! 助かるにはそれぐらいしかないのよ! さぁ、刺しなさい!』



 将吾は黙ったまま、立ち尽くす。

 ずっと映し出されているモニターでは医師と看護師達が意識不明の患者を助けるべき処置を奮闘しているが、一向に心電図の数値は下がり続けていた。

 彼の耳に入る美津音の声が歪んで聞こえている。



『さぁ! さぁ! さぁ!』



 彼は、ゆっくりと彼女が持つナイフを手にとった。

 銀色の刃が光を照らす。

「さぁ、そのナイフで自分の心臓をつくの!」

「さぁ!!」

 将吾はナイフを逆手にもち自分にさしやすく持ち、腕を真上に振り上げた。


【月一投稿企画】 孤独都市です。


さてだいぶ緊迫してきた内容となりました。最終回も近いかもしれませんよ。

多分。


次回は7月の6日~10日の間です。それまでお待ちくだされ~

ではでは。

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