黒光市津町警察署交通課 待合室
《登場人物》
安田 将吾 大学生 20歳
鬼頭 美津音
河内 源 刑事 59歳
木村 賢介 刑事 24歳
安田 恵理
広川 勉
――黒光市津町警察署交通課 待合室――
広川は、河内に事故の事を一から全部、事細かに述べていく。
―― 事故当日 ――
広川はいつもどおり、マウンテンバイクで、職場に向かおうとしていた。
カバンを背負い、職場までペダルを走らせていく。
今日は天気もよく太陽が明るくアスファルトの色を薄く変えていく。
「いい天気だ~今日は暑いだろうな~」
その独り言を誰にも気づかれないように呟きながら足の力を用いてペダルを回転させていく。
2車線の信号に辿り着き、歩行者信号は青から点滅し、赤に変わった。
「くっそ~捕まった。これからあと4本の信号、待ち構えてるのに……」
広川は2、3分待ちぼうけをくらう事になる。
対面側には自転車に乗った見た目が大学生の男性が、青になるのを待っていた。
2車線の信号だが、車なんてほとんど走っていない。田舎だもの。
歩行者は、数人ほど待っており、車が来なくても待っている。
いつもどおり広川は、信号で待つ間に、今日の仕事予定を考えていた。
【今日は部長に書類渡して、企画を届けて……おっ、信号変わるな。】
数秒した時、信号が青になり、広川はペダルを回そうとした。だが、次の瞬間、ペダルを回す必要がなくなったのである。
それは目の前の光景とほかの歩行者の悲鳴に車のクラクションだった。
広川が正面の道路を見ると、歩行者道路の対面側に、大学生の姿はなく、左7mほどの距離に大学生の体が見えた。大学生が乗ってた自転車はその場でバラバラになっている。
広川は、急いで大学生の下に駆け寄っていき、声をかけた。
「おい! 大丈夫か!? 誰か、救急車を呼んでくれ! おい、あんた! 手伝ってくれ。血が出ている。止血をしないと」
大学生の腕から血がどぼどぼと落ちていき、左脇腹から血が流れているのが、衣服で分かった。
まずい状態だった。するとずっと先の方で車が大きなスキールを上げて、発進させていく。
《ひき逃げが発生した瞬間だった。》
「……ろっ……きゅっ……ろっ……」
広川は、気を失いそうな大学生の言葉に反応した。
「えっ? だ、大丈夫だからな。もう助かるからな!」
事故を目の当たりにした広川以外の歩行者たちが、救急車を呼んだりしていた。
「4……6……9……」
大学生の男性は目を瞑り、左手がゆっくりと力が抜けた様に、滑り落ちていく。
「おい! 大丈夫だぞ! 救急車来るからな! ほらもう来たぞ!! もう安心だぞ!!」
広川は必死に、大学生の耳元で大きな声で励ました。
「それで、彼は469と言ったわけですか?」
河内は広川に訊いた。
首を縦に振り、河内の質問に答えに付け加えた。
「ええ。469は確かです。それに、もう一個の数字を彼、言おうとしていたんですが、気を失ってしまったらしくて……」
「そうですか。……! もしかしたら……」
メモを開いて、広川に手渡して見せた。
「この数字ではないですか? 彼が言おうとした数字」
広川が河内のメモで見た数字。
それは《4696》。
広川は大きく反応し、答えた。
「おそらくだと思いますが、多分、この数字です!」
予想は的中した。
「やはり……」
「どうかしたんですか?」
河内は理由を広川に告げた。
「実は、彼、幸い命は助かったんですが、意識がまだ戻っていないんですよ。病室に行ったら彼、指で無意識にこれと同じ回数の数字を示したんですよ」
広川は言った。
「そうだったんですか……彼が意識不明に陥っている事は、ニュースで知りました。あの事故の後に、インタビューさせてほしいって記者が私のところに来て、その時に、あの大学生が意識不明であると分かったんです」
河内は広川の言葉に理解した。
「なるほど、そうでしたか……」
「あの、もういいでしょうか?」
広川は、河内に訊いた。
すでに時間は4時になろうとしている。
【2時間も話してしまったのか……】
と河内はそう思いながら、広川に訊いた。
「あのお仕事の時間はよかったんですか?」
広川はその質問に対して即答だった。
「今日はたまたまお休みを貰ったので、大丈夫です。では、失礼します」
一礼して、広川は革の鞄を持って部屋を出て行き、交通課のドアを開いて、警察署の出口へと向かって行った。
「4696……この数字は一体なんなんだ?」
河内は頭を掻きむしって悩んだ。
安田恵理と話を聞きに行くまでに時間がかかる。しかし、向かうしかなかった。
「やれやれだな」
ため息をついて向かう事にする。
月一投稿企画 孤独都市です。
さて、今回も河内さんからの広川さんの証言でしたね。
さて今度は5月ですねお楽しみに!