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6月3日 黒光市 津町警察署刑事課

《登場人物》


 安田 将吾  大学生 20歳

 鬼頭 美津音

 河内  源  刑事  59歳

 木村 賢介  刑事  24歳

 安田 恵理

 6月3日 黒光市 津町警察署 正午


 河内は、ずっと将吾の体がある病室でメモ書きした紙をずっと眺めている。

「ダメだ! 全然浮かんでこねぇ!」

 木村は、イライラしている河内をやれやれと思いながら訊いた。

「どうしたんですか? 源さん?」

 河内はのんきな木村の質問にいらいらしながら答えた。

「なんでもねぇよ!」

 苛立ちを爆発させてしまったと感じた木村は近寄ることなく自分のデスクで事件の報告書を書くことにした。

 河内は刑事課の職場に戻り、ずっと自分の椅子に座りながら考えている。病室の将吾が残した指の動きの事を……。


 親指で4回。


 人差し指で6回。


 中指で9回。


 薬指で6回。



 河内はそれについてずっと心に刺さるものがあった。

「あれは俺達に何か示す暗号か? いや、そんなわけねぇか……」

 ずっと、メモ帳に記されている数を河内はしかめっ面でにらめっこをしていたら、目の前にある内線電話からダイヤルが鳴った。

 受話器を左手で取り、左耳に当て、応対する。

「はい。刑事課」

 その相手は思いもよらない相手だった。

『もしもし、河内さんでしょうか? 安田将吾の母です』

 河内は、崩した体勢を直し、きちんと椅子に座り直した。

「あ、河内です。先程はどうも。どうしましたか?」

『いえ、実を言うと、その将吾の指の件なんですが……』

「ああ、お母さん。それについて事件との因果関係はおそらくないで……」

 恵理は、河内の話を遮って、一言告げた。

『おそらくですが、ピアノの……』

「ピ、ピアノですか!?」

 河内は豆鉄砲を食らった様な顔をしている。

『はい。その将吾はどうもずっと同じ事を弾いてるみたいなんです』

「そうですか……」

 少し考えながら河内は、電話越しの恵理に一つ頼み事をした。

「奥さん、一つお願いしたい事があるのですが」

『はぁ、何でしょうか?』

「ご自宅を見せていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

『は、はぁ、分かりました』

「すいません。いつにお伺いを……」

『じゃあ、夕方の時間帯にお願いします。できれば、5時にお願いします』

 河内は、メモに《将吾の自宅に、5時》と記し、恵理に答える。

「分かりました。では、午後5時によろしくお願いします」

 恵理は、河内に訊く。

『場所は分かりますか?』

「ええ、地図がありますので、ご心配なく」

『出来たら、一人できてもらえますか?』

 河内は、恵理のお願いに少々驚き、沈黙をする。

「……はぁ、分かりました」

『お願いしますね』

「はい、では失礼します」

 電話は切れ、河内は受話器を元に戻した。

「ふぅ。やれやれ。なんで一人だけなんだ?」

「どうしたんです? 源さん」

「いや、なんでもねぇよ」

 河内は少し、椅子にもたれながら将吾の指の事を考えている。

「あの指……俺達に何かを示そうとしていたのか? でも、被害者の意識は戻っていない。じゃあ、何なんだ?」

 河内が考えている間に、刑事課の電話が鳴り、木村が受話器を取った。

「はい。刑事課です。はい」

 木村はメモ帳を取り出してメモを取ろうとしたが、すぐ手を止めて受話器を河内に回す。

「源さん。交通課から電話です」

「あ? 交通課がか?」

 河内は受話器を渡され、耳元に当てた。

「はい、変わりました。河内です」

「交通課の山崎です。安田将吾君のひき逃げの件でお話したいっていう人が来てるんですが……」

 河内は電話相手の一言を聞いて、姿勢を直す。

「ひき逃げって、安田将吾君の件ですか?」

「はい。今、交通課待合室で待っていますが……?」

「分かりました。すぐ行きます」

 電話を切り、河内は受話器を元に戻して、急いで椅子から立ち上がり刑事課をでる。

 河内は階段を急いで降りて、刑事課のオフィスがある6階から3階の交通課へと向かった。

 交通課のドアの前にたどり着き、入っていく。

「失礼します。河内です」

 河内は後頭部を軽く掻きながら、交通課の職員に言った。

「お待ちしてました。こちらです」

 交通課の職員に、待合室へと案内される。

「こちらです」

「どうも」

 河内は案内された個室のドアを開き、中に入る。そこには一人の中年の男性が椅子に座って待っていた。

 男性は灰色のスーツを着て、古いモデルの四角いメガネをかけている。

 河内は男に話しかける。

「刑事課の河内です」

 男は席を立ち、河内に一礼した。

「どうも。あのひき逃げの事でお話をしたいのですが……。申し遅れました。広川勉と申します」

「どうぞおかけください」

 河内は広川に椅子を示して、座らせた。河内も対面側の椅子に座って、広川の様子を観察する。額から脂汗の様な液体が滴り落ちている。広川はハンカチで汗を拭った。

「あの数日前に起きたひき逃げ事件をご存知だとお聞きしたのですが……」

「そうです!」

 待合室で広川の声がやまびこの様に響いている。

 河内は少々呆れながら、咳払いをして、広川に一人の刑事が対面側で座っている事を気づかせた。

「失礼しました」

 河内はメモ帳を取り出し、シャーペンを内胸ポケットから取り出した。

「話を続けてください」

 広川は神妙な面持ちで話し始める。

「はい。救急車を呼んだのは、私です。自転車がぐちゃぐちゃで、吹っ飛ばされて壁か電柱か何かに体を激突させてたみたいで……」

 メモ帳に記載している事を照らし合わせながら、河内は事故の状況を確認している。広川の言うとおりに事故の内容は合致していた。

「それで?」

「救急車を呼んでる時には、彼の意識がなくなったみたいで危険な状態で搬送されて。で、被害者の青年なんですがね。彼が自動車にぶつかった時に、彼、何かしらの数字を呟いていたんですよ」

「呟いた?」

「え、ええ。それをメモにしているんですがね……」

 広川は、自分のメモを取り出して、河内に見せる。

 メモには4つの数字。

「これは……!?」

 そう。数字は将吾の指が示した。


《4696》


 広川は河内の顔をずっと不思議そうに凝視している。河内は広川に訊いた。

「広川さん」

「……はい」

「事故当時の事をもう一回、詳しくお話して頂いてもよろしいですか?」



月一投稿企画 「孤独都市 黒光市 津町警察署刑事課」 を投稿しました。


今回は河内刑事……源さんが数字に翻弄されていきましたね。

次回期待ですな。

では、次回をお楽しみに……!!


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