2日目 5
《登場人物》
安田 将吾 大学生 20歳
鬼頭 美津音
河内 源 刑事 59歳
木村 賢介 刑事 24歳
安田 恵理
――― 2日目 5 ―――
「この映画、はずれだったな~」
将吾はディスクをケースにしまって袋に入れた。
美津音はソファーに横たわりながら頷いている。次のDVDを選びながら、今の状況を考えてみた。
① 俺は気付いたら道端に倒れていた。
② 瓦礫と靴に、誰も乗っていない車が置かれてる。
③ 物が変わったり、変化している
④ 親や弟、友人の姿がない、いるのは俺と美津音だけ。
⑤ 黒い光が俺達の二人の体を包んできた。
この5つよりも気がかりなのは、目の前にいるこの女。鬼頭 美津音が気がかりだった。
将吾は、次に見る映画のDVDケースを取り出した。それは将吾自身が興味を示していたサスペンス映画。
《NO.4696》
ケースを開き、ディスクを取り出して、プレイヤーに挿入した。
「どうして、誰も人がいない。商店街の中、彼女だけがいたのか……」
再生ボタンを押し、DVDの内容表示メニューが出て、すぐさま本編再生を選び、映画が上映される。途中で後ろの廊下から美津音の声が聞こえた。
彼女は別室のドアの前で立っており、指で示している。
「ねぇねぇ、このピアノ弾けるの?」
将吾はソファーから立ち、美津音のところに向かう。
「ああ、あれは弟のだよ」
「へぇ~、弾いていいの?」
将吾は、美津音の言葉に少々、考えながら言った。
「う~ん。いいんじゃね? 弾いても。弟、今いないから……」
「やった!」
美津音はすぐさま、ピアノの前にある椅子に座り、鍵盤を触る。
ピアノの鍵盤を見つめる美津音に将吾は訊いた。
「弾いたことあるのか? ピアノ」
「ええ、小学の頃ね。だいぶ前だけど……」
ゆっくりと鍵盤を人差し指で触り、音を確かめる。ピアノから鳴った音は、静かに部屋中を響かせた。彼女は、音がしっかり響くのを確認したあとで、音楽の教科書に載っていそうな曲を演奏する。
「おお! どこかで聞いたことあるな。これ!」
「へへ、体って覚えてるもんだね!」
将吾は美津音の演奏を聞いていた。美津音の演奏はどの音楽家よりも、どのピアニストでも上手だと将吾は感じていた。
演奏を聴きながら、将吾はあることを思い出す。
「あっ! やべ、DVD! 再生したまんまだ」
部屋を出てリビングに向かうと、映画の映像がずっとTVから流れている。だが、その映像はどこかで見た映像だった。
「これは……」
将吾は、DVDケースの説明を見た。
《一人の青年が自転車で移動中に車で跳ね飛ばされた。犯人を追いかけるために二人の刑事が動く…》
「あれ、この街とこの雰囲気、それにこの自転車……」
流れている映像は次の瞬間、ショッキングな場面になった。まさにケースの説明書きの通りになる。
自転車に乗った主人公は、信号を渡ろうとしたその時、乗用車が主人公にぶつかった。
大きな音を上げて、車にぶつかった反動で主人公は自転車もろとも吹っ飛ばされていく。
将吾はTVの画面に釘付けだった。
「おかしい。おかしすぎる!」
美津音はピアノを演奏しながらも廊下から聞こえる将吾の声に少し、不安を感じた。
「ねぇ、どうしたの?」
彼女の声は廊下に響くも、将吾はその声にも答えず、画面の映像を見ている。
映像では主人公が地面に叩きつけられて倒れている。ぶつかった乗用車は、近くの場所で停止していた。ボンネットがへこんでいる。
将吾はソファーに座り、映像の内容に衝撃を受けた。
それもそのはず。
地面に叩きつけられた主人公は、将吾と同じ顔をしているからだった。
ボンネットがへこんだ乗用車は、美津音に会う前、道路に何台も放置されていた乗用車だった。
映像に映し出されている光景は、将吾が一度、外で頭からくる激痛で倒れた映像とお同じ光景だった。
主人公の目の前で一人の男がやってきて、大声で周りの人間に叫んでいる。
『おい! 大丈夫か!? 誰か、救急車を呼んでくれ! おい、あんた! 手伝ってくれ。血が出ている。止血をしないと』
男の周りに色々と人が近づいて来る。
男の指示通りに動いたりする者や、そのまま男と一緒に将吾の様子を見る者がいた。
ぶつかった車は再び動き出し、現場をあとにしていった。
リモコンでテレビ画面の映像を止めて、やり場のない心を将吾はどうにかしようとした。
「思い出した。事故したんだ。俺は、大学行く途中で事故を……」
将吾は心の中で一つの答えが浮かび上がっていた。
「ここは現実じゃない。現実の世界じゃない……夢だ」
自分の身が夢の世界にいる事を将吾は知った。
【本物の体は何処へ? それに映像が確かなら、逃げた車を追わなければ……】
将吾の耳元で美津音は言った。
「ねぇ、どうしたの?」
「え、いや、なんでもない」
「見ないの? 映画。途中で止めちゃってるけど?」
「あ、いいんだ。うん」
将吾は、美津音にバレないようにDVDを止めて、プレイヤーからディスクを取り出してケースにしまった。
「コンビニに行こう。腹減ったろ?」
「そうね! いきましょう!」
将吾はテレビを消し、カバンを背負う。心の中で一つ考えた。
【もし、この世界が夢と確定できるのなら、この女、いや、鬼頭美津音はいったい誰なのか? 探る必要があるな。あのDVD、途中で止めてしまったな。最後まで見るべきか……いや、もう少し美津音の様子を見てからにしよう。】
美津音は既に、靴を履いて玄関で待機している。将吾は玄関に向かい、ふくれっ面の美津音に軽く詫びた。
「悪い。待たせて」
「いいよ。別に、あ、お金無いからおごって!」
美津音はニッコリと笑顔で将吾に言った。
将吾は重いため息をついたあとで、一言だけ返した。
「800円までな」
月一投稿企画 「孤独都市 2日目 5」 を投稿しました。
将吾の今置かれている状況に近づいた感じですね。次回はどうなっていくのでしょう? 二人の動向が楽しみですね。
では、次回をお楽しみに……
お疲れ様です。