馬鹿な女※
「リカルド様、一服なさいませんか」
執事に言われて、リカルドは出された紅茶を一口飲んだ。
「……茶葉を変えたか?」
「気付かれましたか。柚子を入れてあります。疲労回復効果があると、アリシア様が」
「では、もしやこれも?」
側に置かれたゼリーを指すリカルドに、執事ははい、と笑った。
「酢を用いたデザートだそうで。アリシア様のお手製ですよ」
「あれは料理もするのか」
「リカルド様のお役に立ちたいと、それは熱心に研究されておりました。元々知識も豊富なようですね。小さい頃から書物がお好きだとか」
「……ふん。健気な事だ」
執事が部屋を辞した後、リカルドは少し休憩しようと身体を伸ばした。アリシアは、ここ数日書庫に籠りきりらしい。久しぶりに時間を取れそうだと思っていたリカルドだが、しかし会わなくても良いのなら会わないに越した事は無いと内心ほっとしていた。
「……しかし、ベルジェ家の娘ならばそれらしく、自分の贅沢に興じていれば良いものを」
よりにもよって自分の為に時間を費やしているらしいアリシアに、彼の苛立ちは募る。甘い言葉でも囁いておけば良い思っていたが、それも結構骨の折れる事だった。
「本当に、結婚など面倒なものだ」
しかし当主である以上避けられぬ道だ。リカルドに理由があるとは言え、あの憎いベルジェ家の人間を娶らねばならない事に皮肉を感じるが、それは致し方なしと諦める他なかった。
「……本当に、馬鹿な女だ」
サッパリとしたゼリーを一口食べて、リカルドは開け放たれた窓から外を眺めた。