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いつ頃から描き始めたのか、正確にはわからない。
物心ついた時から親などというものは存在せず、自分についてわかっていることは女であることとルイという名前だけ。年齢も14だと言ってはいるが、“多分”という曖昧な単語が付け加えられる。親がいないのだからもちろんミドルネームなんてものは存在せず、彼女の手には常に筆とパレット代わりの板があった。
暇さえあれば壁に向かい、描いては消し描いては消しを繰り返す。金を稼ぐという目的だけではなく、彼女にとって絵は生活の一部、己の一部であった。
大きな町の中でも隅っこのほう、昔は汽車が走っていたのだというレンガ造りの橋のようなものの下で雨風をしのぎ、短いトンネルのようになったその橋の内側に彼女の作品はあった。与えられた狭い狭いそのスペースは、彼女の手によっていつも華やかに彩られていた。
たまにお忍びで下町に出てきた貴族の殿方やご夫人が彼女の絵を見てチップをくれることもあったが、彼女の生計のほとんどは彼女の人柄と絵に魅了された近所の町人たちの援助によって何とか成り立っているほどである。しかし彼女は己の貧しさを嘆くこともなく、町を愛し人を愛し、絵を見て喜ぶ子供たちを眺めるうちに、己の存在する目的は絵を描く事だと認識した。