王女様と騎士
先日捕われてきた囚人がいる牢のまえに今、私は立っている。5年前、あらぬ疑いをかけられて王宮を追い出された私の臣下だった者だ。あの時はまだ幼くて、何もできなくて、ただ追われる身となってしまったあなたのために祈るしかできなかった。私は現実を直視する事も、理解する事もできない、頭の悪い女の子、だった。
確かに私たちの関係は身分違いだった。私はこの一国の王女、そして彼はただの家臣、私のナイト。あまりに違い過ぎる身分。それなのに、私は彼に恋をした。
最初は受け入れてもらえなかった、というより軽く流されていた私の気持ちを、やっと受け入れてもらった矢先、私達の関係は露見し、そして彼はここを出て行った。
きっとどこかで幸せに暮らしているはずだと、それでも悲しみの絶えないこの気持ちに、何度も必至に蓋をしようとしていた。それなのに、彼は私の目の前に、また現れた。
「ど....どうして?」
「さて、どうしてでしょう?」
明日、死刑だというのに相変わらずおちゃらけて!それでも、
「私知っているのよ、あなたが自分から私たちの事をばらしたの!」
私の恨みがはらされると思ったかー!捕まって償う、なんて馬鹿な事いうつもりじゃないでしょうね!
「そりゃあ、それが最善だと思ったからかな。」
「どうしてよ!重荷だったのなら、じゃあ、そのまま、私の気持ちなんて無視すれば良かったのに!
私は、離れてしまう事の方が、よっぽど..」
すると、彼はいきなりおちゃらけた雰囲気を変えて、私の言葉を遮って、真剣さを帯びながら言う。
「違う。それは俺のエゴだ。例え一度っきりでもいいから、あなたと心を通わせたかった、おれの。
ずっと好きだった。それでも、諦めていた。それなのに、あなたは無邪気に俺を、好きだというから。ひたむきに、無知に、残酷に。俺は、我が侭に、あなたを欲するようになってしまった。それでも止めるべきだと分かっていたのに、あなたに、好きだと言いたかった。」
「レイモンド!じゃあ、隠し続ける事も出来たのにどうして!」
「それはないよ。あなたが明日、婚姻の儀式を迎えるように、俺たちの運命は、切り離されるものなんだ。」
「知ってたの!?」
「そりゃあ、この城の城下に住んでいたんだ、当たり前だろう。だから、あなたがこの城を離れる前に、もう一度だけでも顔を見ようと、今日、まあ、死を覚悟でここまで来ったってわけだしね。」
あまりに唐突に聞かされる彼の真実に、私は言葉が出てこない。それなのに残酷にも私に、隠してきた真実を言い続ける。
「おれは、離れてしまうあなたを、見たくなかった。だから、逃げる事を決意した。すべて、俺だけの為の、我が侭な考えだった。でも、今、俺はまたあなたを困らせているね。」
フッと彼が微笑む。悲しさを帯びた、優しい笑みで。私は彼の微笑みが好きだった。いつも彼の微笑みは私の気持ちを落ち着かせた。それなのにこの笑みは私を心なくさせる。だが、私は彼に言わなくてはならない。
「おあいこよ。昔は私があなたを、今はあなたが私を困らせている。だから、そんなことはどうでもいい。」
「どっ..どうでもって...」
「さっ、とりあえず一緒に逃げましょう。」
「!?そんなことっ」
「出来る。私は昔とは違う。というより、今日、ここを出て行くつもりだった。宛のない、あなたに会う為に。教養も身につけた。ある程度、何でもこなせるようになった。もう、無鉄砲で無知な、昔の、何も出来なかった私じゃない。」
微笑みながら、楽しそうな声の私に反して、彼はもちろん戸惑っている。困惑を隠そうともせずに、
「でも、鍵がかかっている。」
が、そんなもの、知識も教養も身につけた私にとっては雑作もないのよっ
「これなーんだ?」
ふっふっふ。びっくりして声もでないのね。口をあんぐりと空けたまま数十秒。
「どうして?」
「言ったでしょ。私はもう昔の私じゃないと。牢にあなたが入れられた事くらい、すぐに知る事が出来る程、というより、今ではきっとこの城内の情報収集は一番速くなった。そして、私は全ての部屋の鍵を手に入れてるのよ。もちろん、今夜の逃げ道もバッチリ★」
「.....よし、逃げるか。」
「さっすが私が好きになった男♪」
こうして、周りに被害を被る事しか出来なかった、幸せなカップルが一組、誕生した。
「まあ、無鉄砲は変わってないけどね。」
「それでも、大胆に行動を起こす方の無鉄砲だから、いいのよ。無謀なわけじゃあ、ないでしょう?」
「いや、そんなあなただから、俺は惚れたんだ。」
「ふふっ。それに結局こうなってたんだから、めでたしめでたし!」
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