幼馴染の【尻尾】
タイトルどおりです。【尻尾】の意味も、考えるほど難しいものではありません
僕の前を、ぴょこん!ぴょこんっ!右へ左へぴょこんぴょこん!!上へ下へとぴょこぴょこんっ!動くたびに跳ねる“幼馴染”の【尻尾】を見るのは、学校へ行く僕にとっての日課というか“癖”。
颯爽と歩く幼馴染の後姿と、まるで生き物のようにピョコピョコと動く【尻尾】のバランスが、妙に面白い。
だからついつい魅入ってしまうと―――
「脩の熱い眼差しを感じる……主に後頭部に」
なんてことを、訝しげな表情をした幼馴染によく言われる。
もう10年以上の古いお付き合いになるのだが、僕の“癖”は、幼馴染にはあまり好評ではないようだ。「ごめんごめん」と僕も謝りはするのだけど、ついつい視線は、再び彼女の後頭部に装備された【尻尾】へと向けられてしまう。
「ほら、さっさと行くよ!」
「あ、うん」
僕の前を颯爽と歩いて行く“幼馴染”と、そんな幼馴染の後ろを付いて行く“僕”の関係は、今も昔も変わらない……。
残暑からようやく開放され始めた九月の終わり……変わらぬ“距離”を保ちながら、今日も僕は、幼馴染の【尻尾】に誘われるように、学校へと続く一本道を歩いている。
幼稚園の頃から引っ込み思案な僕は、いじめっ子には格好の的だった。強くもなければ「やめてよ!やめてよ!」と泣いてばかりだったから、当然といえば当然だ。
けど、そんな僕には【ヒーロー】がいた。怖くて目をつぶっているだけの僕の前に颯爽と現れて、いつものようにいじめっ子をやっつけてくれる……そんな幼馴染が。
「“しゅうちゃん”をいじめるなぁ!」
そう言って、あっという間にいじめっ子を蹴散らしてくれる【ヒーロー】の姿はかっこよくて、堂々としていて……そして、後頭部には小さくてピョコッとした【尻尾】が付いていた。
正面からキチンと相対したことは、あまりない。けど幼馴染の後姿は僕にとって頼もしくてかっこよくて……そんな思いもあったから、僕は今でも幼馴染の後ろを歩いてしまう。
そして、年月を経て長くなった【尻尾】を見て、また安心するのだ。
放課後。僕と幼馴染はクラスが違うけど、ごくたまに―――
「脩、帰るよ」
わざわざ迎えに来てくれたりする。今は“いじめ”なんてこともないし、友達もずいぶんと増えたけど、こうして迎えに来てくれたときなんかは、一緒に帰る。
そんな僕と幼馴染を周りは当初、からかったり冷やかしたりしたんだけど、1ヶ月もすればそれが“当たり前”の光景になって、誰も何も言わなくなった。僕の自称【親友】を名乗る友人は「くそぅ、脩がうらやましいぜ!」と、たまに口走ったりはするけど。
朝は大体(というよりほぼ毎日)一緒に学校へ行くけど、今日のように下校を一緒にすることは、高校に入ってからは久しぶりのような気がする。相変わらず僕の前を幼馴染が歩き、ピョコピョコと跳ねる幼馴染の【尻尾】を観賞しながら、僕は後ろを歩いている。
基本的に会話は無いんだけど―――
「ねぇ、脩……」
今日は少しだけ、普段とは違っていた。
「いつになったら、私の“隣”を歩いてくれるの?」
「――――え?」
ピタッと足を止めた幼馴染は振り返りもせず、ただ背中越しに僕に問いかけた。その顔も、動かない【尻尾】からも、どんな感情なのかは僕にはわからない……。ただ、凜とした幼馴染の“声”だけが、茶化すわけでも不真面目でもない、まっすぐと真剣に【答え】を待っていることだけが伺える。
「キミは僕の幼馴染でヒーローだから、僕はキミの“隣”を歩けないよ……」
幼馴染は僕よりも運動神経が良くて、頭が良くて、誰からも慕われていて……僕なんかが“隣”を歩くなんて、おこがましい……。僕は幼馴染の後ろを歩いているだけで、充分すぎるくらい幸せなんだから―――
「ねぇ……脩にとって私は【ヒーロー】かもしれないけど、そんな私の気持ちを、脩は考えた事ある?」
何かを口にしようとして、言葉を紡ぎ出せなかったのは……肩を震わせ、【尻尾】を小刻みに揺らす幼馴染の、寂しそうな後ろ姿を見てしまったからで―――
「私は孤独なんだよ……ずっとずっと、私の“隣”は空席で……本当に傍に居てほしい人は、いつも私の後ろしか歩いてくれない……」
「……っ!?」
「これだけ言ってもまだ、脩は私の“隣”を歩いてくれないの?」
虚を突かれたような、そんな感覚……。僕は勝手に「幼馴染の隣に僕は相応しくない」と決め付けて、ただただ後ろを歩いてきただけで……。幼馴染の気持ちなんて、これっぽっちも気付いてあげられなくて―――
「私は【ヒーロー】じゃなくて、脩の【ヒロイン】にはなれないの?」
それでも僕を想ってくれていた幼馴染の真剣な問いかけに、僕は―――
僕の“隣”で【尻尾】が跳ねる。右へ左へぴょこんぴょこん!上へ下へとぴょこぴょこん!!リズミカルに、不規則に、時に激しく、時に優しく……。
「脩から熱い眼差しを感じる……私の“隣”から」
未だに幼馴染の【尻尾】を見てしまう“癖”は直りきっていないけど、幼馴染から恋人へと昇格(?)した【彼女】は、いつも通りやや呆れ気味に笑う。
見慣れたはずの風景が、なぜかいつもより広く感じる。そんな視界の“片隅”で、彼女の【尻尾】が元気に跳ねた。
随分と久しぶりに短編を書いたような気がします。そもそもタイトルが「幼馴染の【尻尾】」って……。
まぁ【尻尾】の意味も文章を読まずともわかる方も多いと思いますが、俗にいう【ポニーテール】というものでございます。
私の周り(知人たち)は、なぜか「ポニーテール好き」が多いのです。たまに一緒に遊びに行った際に「おい、今の“ポニテ”の女の子可愛くなかったか?」などと私に同意を求めてくるのもしばしばでございまして。
まぁそんな知人の意見(好み)と、現在連載中小説の“息抜き”のために、この作品を書いた次第でございます。
ちなみに私は“ポニテ好き”より“メガネ好き”です(って、誰も聞いてねえよ!)
相変わらず内容は薄いです。どうして【幼馴染】は【僕】のことが好きになったのか、全然理由を書いていません。あとがきに詳細を書いておくとするなら―――
「小さい頃から無意識のうちに好きになっていた。だからいじめられている【僕】を、いつも助けていた」
というものでしょうが、理由になってませんね……すみません。
次に掲載する小説は、キチンとわかりやすく、それでいて読みやすい作品になっているよう努力いたします。
では。