下級魔族の俺が最強女騎士を誑かして魔王軍と王国軍をザマァします!(1話完結)
俺は下級魔族の出身だ、生まれつき魔力も弱く治療魔法しか使えない。腕力も自信がない。そんな奴が魔王軍に徴兵されたら?虐め、暴力なんてものは当たり前、酷い時には骨折した状態で放置されたり、まともな配給も貰えなかったり、本当に最低な日々だった。
数週間前、辺境のこの監視所の小屋に1人で飛ばされた時はもっと最低な日々になるかと思っていた。彼女と出会うまでは。
ここはどこだ、間違いなく自宅ではない。変な柄の布団、魔力で青色にゆらめく炎。何をしていたんだっけ、そうだ私は家族の墓参りに行っていたんだ。そしてその帰りに魔物に襲われ、崖から…
「起きたか。怪我の具合はどうだ?」謎の声は言った。
「なんとか。ここに1人で住んでいるの?」頭の方に包帯が巻いてある。それに全身に高度な治療魔法がかけられていた。
「起き上がって大丈夫なのか?」謎の声は影の方から出るつもりはないらしい。
「なんで顔を見せないの?」そう言って立ち上がって彼の顔を見た。彼の頭には立派な角が2本立っていた。
「まさか…魔族!家族のかた−」言い終わる前に意識を失った。この感覚は睡眠魔法か?
これ以上彼女を暴れさせると傷口が開く恐れがあったため、彼女を眠らせた。これで確信した彼女は王国軍最強と名高い女騎士だ。もし彼女を俺のものにできたら、俺に敵は居なくなるだろう。俺は眠った彼女を優しくベッドに寝かせた。だが何なんだこの感覚は、彼女を見ると無性に守りたくなってくる。おそらく俺の本能が彼女に利用価値があると語りかけているのだろう。
翌朝、彼女に食事を持って行った。彼女はすでに起きていて、ドアを開けるなりこちらを睨みつけてきた。
「毒か?私を殺しても何もならないぞ。」
「知ってる。もし殺すなら崖の下でやっていた。」
「じゃあなんで私を助けたの?いつでもトドメを刺そうと思えば刺せたのに?」誰かに嘘をつく時は本当のことを入れると良いらしいので、それに倣うことにした。
「崖から落ちたあと恨めしそうに誰かの名前を呟いている君を見て母を失った時の自分が重なって、なんとなく助けたくなった。」もちろんそれは嘘だ。俺は物心がついた頃から家族なんて1人もいなかった。だから家族の温かさなんてものも知らない。
「だから何なんだ?家族を殺した罪滅ぼしのつもりか?だとしたら残念だったな。どれだけ後悔しようと家族は帰って来ないし、お前らを許すつもりもない。」
「単に助けたかったから助けただけだ。過去なんてどうでもいい。だがもしその事について話したいのなら暇だし聞くぞ。」そう言うと彼女はこれまであったことを話した。この辺りにあった集落に家族で住んでいたこと、平和に暮らしていた所を魔王軍と王国軍の戦闘に巻き込まれたこと、誰の攻撃か誰の身体の一部か分からないまま家族を埋葬したこと、孤児として生き残るために幼い頃から王国軍に入って戦っていたこと。俺は全部が全部共感できた訳じゃないが、相槌を打ったりしていた。あらかた話終わったところで彼女が泣き崩れたため、俺は彼女を少しぎゅっと抱きしめた。すると彼女はもっともっと大きな声で泣き始め、しばらく泣いたところですやすやと寝始めた。
翌朝、もう一度彼女に朝食を持って行くと、昨日のような目付きの鋭さは無くなっていた。
「怪我の具合はどう?」
「大丈夫そう。」
「なら良かった。」
「これ食べたらちょっと散歩したいんだけど歩いていい?」
そう言うと崖の上の草地まで来た。
「そういえば前に来た時も、お墓が綺麗になってたけど、君?」そういえばここに初めて来た時、誰かのお墓があるのを見つけた。呪われるのも嫌だし、綺麗に掃除をしていたことを思い出した。
「そうだけど。」
「命の恩人に言いたくはないんだけど、このお墓には指一本触れて欲しくなかった。安らかに眠ってるところだけでも魔族に触れさせたくなかった。だからここに眠らせてる。」
「そうとは知らず、勝手に色々としてしまって申し訳な−」
「でもちょっと嬉しかったんだ。私以外にもここに来てくれる人がいて。たとえそれが魔族だとしても。魔族にもあなたみたいな人がいると教えてくれてありがとう。」いや、俺はそんなおおそれた奴じゃない。俺なんか大嘘つきの下級魔族だぞ。
俺達は監視所に戻り、家族の思い出、お互いの仕事についての愚痴、たわいもない話をしながら一夜を過ごした。そして次の日の朝、彼女はまたここに来ると約束して出て行った。この時はまさかあんなことになるなんて思ってもなかった。
彼女が監視所に尋ねて来てから数週間後、俺の所属していた部隊が倒された。伝令によると倒したのはあの女騎士らしい。確かに彼女と一夜を過ごした時、アイツらの悪口(俺が治療魔法しか使えない事を良いことに攻撃魔法をぶつけてきたり、一部の王国軍と結託して捕虜や接収した住民を奴隷市場に売り捌いている事実など)をこの女騎士を利用するために言いまくったのは事実だが。これで嫌な上官や虐めて来た奴らや、戦争にかこつけて不正をはたらく一部の王国軍の奴らはほとんど全員、王国軍に捕虜として捕まった。とはいえ、一つ不安な要素があった。魔王はどうやら捕虜となっていない全員に帰還命令を出した。だがそんなことをすれば、彼女と会うことはとても困難だろう。だから俺は初めて魔王軍の規則を破ることにした。ここで彼女を待ち続けるため、俺はこの監視所を治療魔法を使った簡単な診療所にした。
その後彼女が訪れたのはそれから数ヶ月の事だった。この間に魔王軍と王国軍の癒着とそれによる戦争の泥沼化を作り出していた事が判明し、魔王と女王の和平に向けた交渉が始まっていた。その一方で俺は周辺の村人にも受け入れられ、数十キロ離れた村の患者を診るようになっていた。
「あなたのお父さんが生きているって知ったら会う?」彼女は言った。父親?俺に母親がいるのは人伝に聞いたが、俺に父親が居るのは知らなかった。
向かった先は監獄だった。女騎士はある独房の前に立ち止まると、独房の隅で蹲っている囚人に声をかけた。
囚人は人間だった。囚人はこちらを見ると興味なさげに目線を逸らした。こいつが父親?そもそもなんでこいつと俺が親子だと断定した?種族も違うのに?なんて思っていると女騎士が口を開いた。
「君の母親の形見の指輪をちょっと調べさせてもらったら、こいつと関係持っている可能性が高かった。それで、ちょっと聞いてみたら魔族の女性と関係を持っていたんだ。こいつとどうするか君が決めてくれ。」
「彼はこの後どうなるんだ?」
「さぁ?魔王軍と結託していた背任、一般人や捕虜を奴隷市場に売っていた事、少なくともかなり重めの処罰は免れない。」そう言うと彼女はこの場を離れた。
「アンタが俺の父親?」
「そうだとしたら?」囚人はこちらを向いた。
「別に何か攻撃したい訳じゃない。」そう言って囚人の顔をまじまじと見た、すると目の周りが気味の悪いほど、自分にそっくりであった。
「あの指輪を持っているって事はあの魔族の子か?あの女め、堕ろせばずっと側に置いてやると言ったのに、逃げた上にあの指輪を盗むとは。その挙げ句、あの時守ったガキが俺らのビジネスをぶち壊すとは、やっぱりあの時母親ごととどめを刺してておくべき−」
「そこまでだ!それ以上口を開くな。」離れていたはずの女騎士が割り込んだ。
監獄の外を歩いていたが、まだ頭の中がグワングワンする。
「本当にごめん。せっかく見つけた父親があんなに救いようの無いやつとは思わなかった。」
俺の頭がグワングワンしているのはあの父親のせいでは無い。これまで信じてきていたものが全てひっくり返ったような感じだった。なぜ母親は俺のためにアイツから逃げたんだ?なんでアイツから逃げる時に指輪を盗んだんだ?そこまで自分を突き動かすものってなんだ?だが似たような感覚を確かに自分は覚えている。この女騎士を助けた時だ。
「なんで俺に対してお前はこんなに優しいんだ?」
「それは、貴方のお母さんみたいに私が君を愛しているから。あなたが私を助けてくれた時からずっと。」彼女は言った。
思えば、彼女は元々魔族を嫌悪していた。それなのに俺なんかを受け入れた。なぜだ?愛というやつなのか?だとしても俺はその愛を踏み躙った。彼女が無視できないほどの悪行をしていると伝え、俺の嫌いな奴らを一掃した。それに結果が最悪だったとはいえ父親と再会までさせてくれようとした。
「俺はその愛に応えることはできない。」
「何故?」
「父親はあんな最低なやつだし、これまで打算ありきで君と関わってきた。愛があったとしても君を助けたその時だけだ。」
「打算?」
「これまで俺は君を利用して、虐めてきた魔王軍やら王国軍に復讐をしようとした。」
「魔王軍と王国軍の癒着こと?それは私の仕事だし、私がなんらかの形で知ってたら同じことをしてた。でもなんでそんなことを言うの?」
「俺が君を愛してしまったからだ!」
「ならそれで−」
「良くない!俺なんて愛って何かようやく今日分かったような奴だよ!君の愛になんかとても応えられるような奴じゃない。」
「で、私に何して欲しいの?」
「俺の事なんか忘れて好きなように生きて欲しい。これが俺にできる精一杯の愛だ。」
「分かった。なら−」そう言うと彼女は俺をビンタした。
読んだら「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」「アイネクライネ」聴くと良いかも。




